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第9話 どちらが理想の上司?

毎週月、木、土の18時更新です。

あれは最初に勤めたIT系のコンサルティング会社にいた頃だったか。


当時の上司は最悪だった。

いつも横柄で、どれだけ頑張っても感謝の言葉一つなく、少しでも失敗したらネチネチと文句を言って来る。


熱を出して休んだら、「俺たちが若い頃は37度8分なんて平熱だったよ」なんて言い出したこともある。何度殺してやろうと思っただろう。


結局、そんなひどい上司に耐え切れず、1年と持たず辞めてしまった。

その時は、もし選べるんだったら、もう二度とあんなパワハラ上司の下では絶対に働かない、優しくて思いやりのある上司を選ぶと強く決意したはずだったのに……。


「おいっ!聞いてるのか?」


「すみません。」


アリシアの部屋、いつものように肘掛椅子に身を預けながら執務机に足を載せている彼女の前で直立して、シルビアの部屋で見た状況を報告しながら、思わず過去のパワハラ上司を思い出してしまった。

昼に見たシルビアの優しさと、目の前のアリシアの横柄な態度を比較しながら……。


「その褒美でもらったというお菓子は持っているか?」


「はい。ここに…。」


ポケットから懐紙に包んだチョコレートの粒を差し出すと、アリシアは、指で一粒つまみ、じっくりと眺めた後、そのまま口に放り込んだ。


「うむ……これは王国で作られているチョコレートというお菓子だな。」


「ヴ、ヴェッ?」と思わず叫び出しそうになったのを必死で抑えた。

砂糖が希少品であるこの国に来てから約2か月、僕の口に甘いお菓子が入ったことはなかった。だから楽しみに取って置いたんだけど…。


ガックリしていると、アリシアは素早くもう一粒をつまんで口に放り込んだ。


「ヴ、ヴェッ~?まさか?二粒とも食べるんですか?」今度は声を抑えられなかった。


「ああ、大丈夫だ。まさかシルビアが貴様に毒を盛ることなどない。毒見も不要だ。」


「そういう意味じゃないんですけど……。」


滅多に口に入らない甘いお菓子をくれるシルビアとそれを取り上げるアリシア…。

なんかこの一事だけでも寝返りたくなってきた。


そんな僕の内心を知らないまま、アリシアはほっぺたを押さえながら幸せそうな顔で微笑んでいる。


ジトっとした目で見つめると、彼女は咳払いして表情を引き締めた。


「おかしいと思わないか?チョコレートなどという高級なお菓子を、貴様みたいな下郎に二粒も与えるなど……。」


「そうですか…?お皿に山盛りになってましたけど。」


「なに?この城の使用人の一月の給料を全額はたいてもこれ一粒も買えないぞ!それが山盛りあったと…。いったいどこから?」


「帝国のジョエル皇子と恋仲で頻繁にプレゼントが送られてくるともっぱらの噂ですよ。シルビア様が帝国にいた頃の幼馴染とか。チョコレートも贈り物じゃないでしょうか?」


「むう…そうなのか…。」

アリシアは顎に手を当てて考え込むような表情になった。


「まあ、よい。ところで。今日呼んだのは別の用だ。貴様に頼まれていた書類を作ってやる。」


アリシアは引き出しから紙を取り出すと、羽根ペンを動かして文字を書き込み、最後にサインをして、それから僕の眼前に差し出した。


「覚えたか?」


「はい。」紙1枚など秒で楽勝だ。


「では、この紙を食え!」


「はっ?」


まじまじと手渡された紙を見たが、普通の藁半紙のようだ。食べられる素材でできているようには見えない。


「この書面が見つかれば、下手すれば反逆罪で首をはねられかねない。すぐに消す必要がある。」


「破いたり燃やしたりすれば……。」


「それでは切れ端や灰が残るであろう。そんなものが見つかったらどんな噂になるかわからん。貴様が食べて消すのが一番早い!」


ご冗談を…と言おうとしたが、アリシアの表情は真剣だ。


やむを得ず少しずつ千切って口の中に入れる。

味は当然、藁とインクだ…。

このインク、人体に害のある成分とは入ってないだろうか?不安になりながら全部口の中に押し込み、何とか飲み下した。


「よしっ、褒美にこのペンを遣わす。それから今すぐガリアのところへ使いに行け!」


「えっ!もう夜中ですよ!明日ではダメですか?」


「今から行って明日の朝には戻って来い。他の使用人に気づかれるな!」


じゃあ寝る時間ないじゃないですか。なんとブラックな……。


「そんなに大事なことなんですか?」


「そうだ!一刻を争う。」


いったい何の話だろう?さっきの紙の件?いや、それはまだ時期尚早だ。準備が整っていない。


しかしアリシアの表情は真剣そのもの。きっと何か考えがあるのだろう。


「わかりました。では、何を伝えればよろしいですか?」


「よしっ、耳を貸せ。」


アリシアはニヤリと笑うと、僕の耳を引っ張って自分の口元に寄せた。


「こう伝えろ。警護料を払わない隊商がある。おそらく明日か明後日、帝国に向かう街道を通るはずだ。山賊のフリをしてそいつらを襲え。それから、奪った荷物は売らずに取っておけ。後でわらわのところへ持って来い。そう伝えろ、よいな!」


思わずアリシアの顔をまじまじと覗き込んだが、アリシアは顔を背け、用は終わったと言わんばかりに、シッシッといった感じで手を振った。


いくつか言い返したい気持ちもあったが、ぐっとこらえて部屋を出た。


それにしても、チョコレート…二粒とも取り上げなくてもよかったのに……。


しかも代わりに紙を食わされるなんて、僕はヤギじゃないんだぞ!


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