前世は生成AI の研究者だった
教会の白い石床の上。
神官の手が額に触れた瞬間、脳の奥に電流のような感覚が走った。
――土属性。
そう告げられたとき、私は悟った。
いや、思い出した。
前世、私は日本で生成AIを研究していた研究職。
土属性魔法とくれば、やるべきことは一つ。
「……、ゴーレム作りたい。AI 載せた」
両親と神官が「何を?」という顔でこちらを見るが、問題ない。
目指すゴールははっきりしている。
庭の片隅で、両手を突き出す。
魔力を練り、土を一粒一粒まで意識して組み上げ、骨格から筋繊維、皮膚まで全て土で構築する。
「立て!」
……ずるり、と全身が崩れた。
「……まずは構造保持の魔力配分からね」
執事クラウスがタオルを差し出す。
「お嬢様、せめて土の上に正装でひざまずくのは……」
ゴーレムの「頭脳」には高純度の魔法石が必要。
だがそんなもの、子どものお小遣いで買えるわけがない。
「……作るしかないわ」
私は庭の小石や割れたガラス片を集め、魔力でぎゅううっと圧縮。
表面を滑らかに研磨し、まるで高級宝石のように仕上げた。
「これをこっそり街で売って……」
――その時。
「お嬢様」
背後からクラウスの声。
私は振り返った。
……そこには、腕を組んで仁王立ちの執事がいた。
「それを売れば……通報案件でございます」
「研究資金なのに!」
「犯罪資金とも申します」
結局、父に頼んで正規ルートで魔法石を入手する羽目になった。最高の出来だったのに。
魔法石をゴーレムの頭部中央に据え、
そこへ一つ一つの動作や知識を魔法で焼き付けていく。
「右腕を上げる」
カチッ。
「右腕を下げる」
カチッ。
「お辞儀する」
カチッ。
単純動作だけで数百パターン。
さらに礼儀作法、料理手順、語学基礎(10カ国語は入れたい)……。
夜中、ランプの下で私はひたすら魔法式を組み、刻み続けた。
指先は痺れ、目はしょぼしょぼ、それでもやめられない。
「お嬢様……そろそろお休みを」
「まだ……あと、発音アクセントの設定が……」
「これ以上はお体が持ちません」
「ゴーレムが完成するまでは私の体などどうでもいいわ!」
クラウスは天を仰いだ。
「――旦那様、お嬢様は完全に職人の顔をしております」