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百人一詠 ── 現代に遺す念ひ──  作者: 乾為天女


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第39章 参議等

 

 霞ヶ関の官庁街。省庁の合同庁舎が並ぶその一角では、会議室ごとに違う議題が飛び交っていた。電子名札が並び、タイムスケジュールが秒刻みで動き、ホワイトボードでは「オンライン合議進行中」のランプが光っている。

 その中に、古めかしい装束を身にまといながら、違和感なくその場に佇む男がいた。白髪に近い頭髪をきちんと束ね、鋭い目を持つ――“参議等”である。

 かつては“合議制”の重みを誰よりも知り、朝廷の政において諸侯の意見を聞きながら、時に調停役、時に発案者として振る舞っていた彼は、現代の“デジタル合議”にただただ目を見張っていた。

「顔を合わせずとも議は進む。されど、そのなかに“人の息”は確かに残るのか?」

 彼の前の会議では、モニターに十数人の担当者の顔が映り、画面越しに真剣な議論が交わされていた。データ共有、法案修正案の承認プロセス、そして市民参加型プラットフォームの導入案――内容は専門的で速い。だが、そこには確かに、相手の呼吸に耳を澄ませる姿勢があった。

「言葉の行間に心を見る。これぞ、合議の根なり」

 休憩時間、ある若手官僚が彼に声をかけた。

「昔は、合議ってどうやってたんですか?やっぱり、直接顔を合わせて?」

 彼はふっと笑い、こう返した。

「直接会えども、心は遠くにあることもあれば、姿なき声にも、誠が宿ることもある。要は“聴く”ことよ」

 その言葉に、若者は頷いた。そして言った。

「今は、画面越しでも“誰かのために”って気持ちがあるかどうかが、すごく問われてます」

 それを聞き、参議等の胸に静かな確信が灯った。

「変わらぬものが、ここにもあるか」

 その日の議事録報告を見届けたあと、彼は庁舎のロビーに設置された市民意見ボードに近づいた。意見や希望、詩や感謝の言葉までが自由に貼り出されるその場所に、彼は一枚の短冊をそっと添えた。



 翌日、その短歌は職員の手によってボード中央に貼り替えられた。「匿名の投稿ですが、あまりに見事だったので」とコメント付きで。

 やがてこの歌は、庁内の研修資料や、新任職員向けの冊子の冒頭にも引用されるようになる。

「人の声が、どこにあっても“聴かれている”と信じること――それが、はかるということです」

 そう締めくくられた文章に、千年前の参議はどこかで静かに微笑んでいた。

 合議とは、“場”ではなく、“心”にあるのだと。

 終


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