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第25章 三条右大臣

 夜の永田町。霞が関のビル群のなかに、煌々と明かりが灯る会議室。そこでは官僚と政治家たちが、報道対応の打ち合わせをしていた。情報戦と世論の操作、瞬時に拡散されるSNS投稿――そのすべてを見渡すように、ひとりの男が立っていた。

 品位ある束帯を身にまとい、鋭くも沈静な眼差しをもつ人物――三条右大臣である。

 彼の目の前のホワイトボードには、「メディア対応案」として、いくつもの戦略キーワードが列挙されていた。

「“説明責任”と“印象操作”が並び立つとは、時代の進み様よな…」

 彼は、貴族社会の裏に渦巻く政治の力をよく知る者だった。逢坂山を越えぬ想いを歌に託した男が、いまこの情報の海で、人の意志がどう翻弄されるのかを、じっと見つめていた。

 テレビのスタジオに招かれた時、彼は現代の“政治討論番組”というものに触れた。論客が交互に話し、相手の言葉尻を捕らえては揚げ足を取り、観客が拍手を送る。その隅ではリアルタイムのSNSコメントが流れていた。

「これぞ“逢坂”の新たな姿――意見を交わすのではなく、“見られる前提”の戦場となったか」

 だが、彼の眼差しは、単に嘆くばかりではなかった。むしろ、驚くべき速度で情報が交差し、民の声が届くこの世界に、底知れぬ可能性を感じていた。

「たとえ“真”が揺らごうとも、それを求め続ける意志が途絶えぬ限り、世は必ず前へ進む」

 会合を終えた後、彼は赤坂の料亭街に足を運ぶ。かつての貴族たちが密談を交わしたように、今もまた、報道に出ぬ“声なき言葉”が飛び交っている場所。すべてを飲み込みながら、社会はなお前進していた。

 その帰り道、彼は静かな公園のベンチに腰を下ろし、空を仰いだ。

「月さへ今は、映す前に切り取られ、拡散される世となりぬか」

 だが、それでもなお、人の心は何かを求め、誰かを信じ、言葉を交わすことをやめてはいなかった。

 彼は短冊を取り出し、そっと筆を走らせた。



 その一首は、翌朝、ある記者によって見つかり、匿名で報じられることとなる。

「情報の真核を問う、正体不明の歌人――その筆はどこから来たのか?」

 だが、誰もその“右大臣”が、千年の時を越えて、現代に姿を現していたとは知らなかった。

 彼の言葉だけが、今も誰かの画面の中で、問いを響かせている。

 終


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