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第七話「Out of Control」

俺は目一杯にアクセルを踏んだ。街までは多分、三時間は掛かるだろう。頼む、間に合ってくれ。


中部地方の貿易会社に一台の黒塗りの高級車が停まった。藍沢の兄弟分、平塚組の平塚だ。


この貿易会社はその平塚組傘下の永田組が経営する会社なんだが、様子がおかしい。


会社の事務所も倉庫も、もぬけの殻で、一個のコンテナも無くなっていた。


「おい、どうなっていやがる?」


平塚は同行してきた子分に漏らした。そして、上の勝生会に電話すると、急いで、本家に向った。


中部地方の貿易港から五キロ弱行った所に東海物流という会社があった。そこに永田の姿があった。


この東海物流も永田が経営する会社だったんだが、それを知る奴は、永田本人と、その幹部数人だけで、上の平塚組はおろか、勝生会も知らなかった。


つまり、永田組には、上が知らない秘密の収入源が有るって訳だ。


永田組の特徴は、その徹底した秘密主義にある。上部団体が知らない闇の側面を持っていた。


「I am happy to do business with you.(あんたと商売ができりゃあ、俺は嬉しいぜ。)」


永田は外国のダチと楽しそうに会社の事務所で話した。


外人のダチを見送った永田は、子分に機嫌良く話した。


「いいかお前ら。今どき、やれ仁義だの、ケジメだの、古臭いヤクザなんざ淘汰されてく時代なんだよ。良く覚えとけ。」


秘密の資金源と莫大な収入で、下部団体でありながら、上部団体を凌駕する組織に成長した永田組は、もはや、伝統的な極道じゃなかった。


それはもう、何処か遠い外国の組織犯罪集団と言ってもいいくらいだ。


本家に着いた平塚は、事の次第を、本家若頭の田島と、若頭補佐の松原に話した。この席には、勝生会会長の芹澤会長も同席した。


「永田が消えただと?!おい、平塚!てめぇ、子分一人マトモに纏められねぇのか!!」


田島が怒鳴り散らした。


「すんません!!」


平塚は即座に席を立つと、そのまま土下座した。


すると、部屋の扉をノックする音がした。


「何だ?入れ!!」


松原がそう言うと、若い衆が電話の子機を持って入ってきた。


「失礼します!!永田の親分から電話です。」


それを聞いた田島と松原は、顔を見合わせた。そして、平塚に出るようにいった。


「おい!永田!てめぇ、何処にいやがる!!」


平塚が電話の向こうの永田に怒鳴る。


すると永田が冷たく言い放つ。


「俺はあんたと話すつもりはねぇ。会長に代われ。」


永田はもはや勝生会の力じゃ制御できない。


平塚は、永田が会長に代われと言っている旨を伝えた。


「チンピラの分際で何考えてやがる!!」


田島が怒鳴る。すると、それを聞いた芹澤会長が、ゆっくりと口を開いた。


「えぇだろう、ワシに代われ。」


羽織袴姿の会長はそう言うと子機を渡すように平塚に言った。


平塚は恐る恐る会長に子機を渡した。


「永田。緋陵会とは手打ちだ。関東に送り込んだ子分らを引き上げさせろや。」


会長が電話の向こうの永田に伝えた。しかし、余り良い返事じゃなかったみてぇだ。


「そうか、ならえぇだろう。好きにやれや。その代わり、お前は破門だ。それでえぇな?」


芹澤会長は永田の直属の親である平塚を飛び越えて、直に永田を破門した。異例っちゃ、異例だ。


平塚は完全に面子を潰された。


「田島、もう永田はうちとは関係あれせん。だで、先方と手打ちだわ。」


芹澤会長の命令はこうだ。勝生会は緋陵会と手打ちする。喧嘩は止めだ。それと、永田は破門したから、勝生会とは、もう何の関係もない。


緋陵会がその気なら、好きなだけ永田を潰してもらっても構わねぇ。


とにかく、勝生会はこの件には、一切手は出さねぇって訳だ。


緊急の会合が終り、本家の外に出た平塚は、ザマァ見ろとばかりに言い放った。


「ハハッ!永田の野郎め、調子に乗るからこうなるんだ。」


「会長、アガリがだいぶ減りますね。」


若頭補佐の松原が言った。


永田組は勝生会の収入を支えてきた分、破門は痛手だ。


芹澤会長は静かに答えた。


「松原よ、カネと義理なら、ワシは、義理をとるわ。植村の兄弟とは、同じ釜の飯を食った仲だからよ。」


だが、永田にとっては、破門は痛くも痒くもなかった。永田の一本立ち(独立)が叶った訳だから。


それに、元の事務所も引き払って、シマも勝生会に明け渡してる訳だから、誰も文句は言わねぇだろう。


実際は永田は地下に潜り、秘密のビジネスを闇で実行し続けるのだがな。


それはもう、ヤクザじゃなくて、ヤバいテロ組織みてぇなもんだぜ。


永田組は、全く新しい形の組になった。もう制御不能だった。

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