第六話「秘密協定」
話は一年前に遡るそうだ。
(一年前:中部と関東との中間地域某所)
藍沢
「こんなとこ平塚の兄弟に見つかったら厄介だぜ。早く話を済ませてくれや。」
永田
「藍沢さん、俺の組は海外と取り引きしてましてね。大儲けなんですよ。」
藍沢
「で?俺にどうしろってんだ?」
永田
「上の平塚組も、その上の勝生会も、俺のアガリで成り立ってる様なもんですよ。」
藍沢
「そりゃあ、お前としては、面白くねーよな。だってよ、幾ら稼いでも、上に吸い取られるし、お前の出世も考えてくれねぇしな。」
永田
「藍沢さん、貴方だけですよ、分かってくれるのは。俺は一本立ち(独立)しようと思ってましてね。」
藍沢
「でもよぉ。平塚や勝生会が黙っちゃいねーぜ。」
永田
「藍沢さん。俺は関東に勢力を伸ばそうって思ってましてね。」
藍沢
「いや、あっちには緋陵会がいるぜ。俺も入れてもらいてーけど、会長の野郎、ちっとも会っちゃくれねーし、盃なんざ、夢のまた夢だぜ。」
永田
「藍沢さん、だったら力ずくで奪いましょうや。」
藍沢
「はぁ?力ずくって、お前…。」
永田
「緋陵会の下に近藤組があるでしょ?で、その下に加東組がある。その加東組に、ちょっとしたコネがありましてね。」
藍沢
「本当か?!」
永田
「はい。その加東組に大学時代の後輩がいましてね。そいつも貿易で飯食ってまして。斎藤って奴なんですがね。」
藍沢
「そうか…。よし、分かった!こうしよう。先ず俺が少しずつ加東組のシマに手出してやるよ。取り敢えず、シャブの売人に商売させよう。」
永田
「成る程。そうすりゃ奴らは面子を潰されたって騒いで喧嘩になると。」
藍沢
「あぁ。で、そうなりゃ、兄弟分の加勢ってことで、平塚はお前に「関東に行って加東組に焼き入れてこい」って命令するはずだぜ。」
永田
「それを口実にして進出するって算段ですね。」
藍沢
「あぁ、そう言うことだ。加東組には、さっきお前が言った斎藤っていう内通者がいるから、イザとなりゃあ、加東組を内側から壊せるぜ。」
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「て訳だよ。まぁ、お前が藍沢を殺ったのは想定外だったがな。藍沢は囮みてぇなもんだよ。」
両膝を撃ち抜いてやった男が洗いざらいゲロしやがった。
「悪いけどな、今から若頭に電話して、全部話すぜ。」
俺がそう言うと、男は笑い始めた。
「ハハッ!無駄だよ。高岡は死んだよ。」
それを聞いた俺はマジで頭に血が登った。後にも先にも、これ程ぶちキレたことはなかった。
俺は男を引き摺って、納屋に放り込むと、薪割り用の斧で、そいつの脳天を叩き割った。
滴り落ちる血で、そいつの頭が見る見る赤くなった。
割れたそいつの頭が、良く熟れたスイカみたいにパックリ開いて真っ赤な脳みそが見えた。
俺は男達のポケットを探ると、車の鍵を見つけ出して、急いで、街まで飛ばした。
良く晴れた、雲一つない青空だった。