第五話「借家」
うちの組の若頭の高岡兄貴が事務所に来ると、若い衆が頭を抱えていた。
「どうした?何かあったのかよ?」
兄貴がそいつに聞いた。するとそいつが答えた。
「真下の兄貴と連絡が付かねぇんですよ。こんなこと初めてっすよ。」
そこで高岡の兄貴が提案した。
「じゃあ、斎藤に相談してみるか。何か知ってるかもな。」
ところが若い衆は困った顔で兄貴に話した。
「それが…。斎藤の兄貴なんすが、全然電話に出てくれないんすよ。」
「はぁ?しょうがねぇなぁ。」
高岡兄貴はそう言うと、出掛けていった。港の斎藤貿易まで。
高岡兄貴が斎藤貿易の事務所に向かって、ゆっくりと港を走っていると、いきなりコンテナトラックが現れた。
兄貴は急ブレーキを踏んだ。
車から降りて、トラックに向かって歩きながら怒鳴った。
「てめぇ!馬鹿野郎!!どこ見てやがる!!」
すると、背中に熱いものを感じた。
「あぁ、痛ってぇ…。」
高岡の兄貴は背中を撃たれた。
殺し屋はさらに兄貴の背中にシグ・ザウエルP220の9mmを撃ち込んだ。
ダンダンダンダン!!
高岡兄貴は背中に銃弾を全弾食らいながらも、振り向くと、懐からコルト・ガバメントを取り出して、殺し屋へ撃ち込んだ。
殺し屋の胸と頭部に銃弾が食い込み、そのまま倒れた。と、ほぼ同時に高岡兄貴も倒れた。
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斎藤は事務所で手下から連絡を受けた。
「高岡、死んだってよ。」
事務所には斎藤の手下が他に三人いた。
「えーっと、どうしようかなぁ?一応、大浜も殺しとくか。藍沢殺しの実行犯だからなぁ。」
斎藤は俺を殺るために手下三人を田舎へ向かわせた。俺は知る由もなかった。
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俺の最近の日課は田舎ならではなんだが、畑で野菜作りに挑戦してる。田舎暮らしも悪くない。このまま足洗ってカタギになろうかな。
最近じゃ、組を辞める時は、書類にサインして、必要な料金を支払って辞めるのが主流なんだ。
小指をちょん切るのは昔の話。今はやらない。
で、俺は採れたて野菜を借家に運んで、台所で土を洗い落とした。
その後で、包丁を持って玄関まで行くと、玄関脇にある居間に隠れた。
銃を持った男が玄関をそっと開けて入って来たので、俺はとっさに居間から飛び出し、男の喉に包丁で斬りつけた。血しぶきが飛び、玄関を赤く染め上げた。
男が倒れたので、俺はそいつの銃を拾うと、構えて借家の奥に再びゆっくりと戻った。
銃はH&K USPだった。
人の気配がする。台所の隣にある座敷を通り掛かったその時、もう一人別の男と鉢合わせになった。
俺は三発発砲し、二発が男の胸に、もう一発は男の頭に命中した。
もう一人気配がする。俺は撃ち殺した男を盾にして、台所に入る。すると、その気配の主が引き金を引こうとしたので、盾代わりにした死体を、そいつ目掛けて押し飛ばした。
その後、一気に飛び掛かり、渾身の力を込めて、気配の主の男を殴り続けた。
どうやら全部で三人らしい。俺は二人殺して、ぶん殴った奴一人を生け捕りにした。
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「何で俺達の気配に気付いた?」
生け捕りにした男が言ったので俺はそいつに種明かししてやった。
「こんなド田舎に他府県ナンバーの車が停まってたからだよ。馬鹿じゃねーの?」
俺は銃口を跪かせたそいつの頭に押し付けて言ってやった。
ふと思った。見たことある顔だ。
斎藤の子分じゃねーか!
「何で俺を殺そうとした?」
男は答えようとしない。
そこで俺は、持ってる銃で、そいつの両膝を撃ち抜いてやった。
ダン!!!ダン!!!
田舎だと都合が良い。銃声がしても誰も気付かない。猟師が熊でも撃ったんだろうって、誤魔化せるからな。
「あぁ…。痛ぇ…。た、頼む…。殺さないでくれ…。」
男は命乞いをした。可哀想に。両膝を撃ち抜いてやったから、一生車椅子生活確定だな。
男は全てを話した。