2/初期設定と初遭遇
遅くなりまして申し訳ないです…
浮遊感に襲われ、俺が降り立ったのは白い部屋。そして現れる1枚の半透明のパネル。恐らくゲームウィンドウだろう。
そこには俺そっくりのアバターとそのアバターの体型や顔、目の色などを変えるオプションが表示されている。
「別に容姿は変えなくていいか。目の色を黒からものすごく薄い水色に変えて……髪色は黒から紺に変えて……よし」
その二つの変更の結果できたのは男子にしては異様に長い髪を持つ眠たげな女性のような俺だった。
まぁこの描写からわかる通り俺はもともとの容姿が女性に近い。由芽と同じ部類だ。
「次はスキル選択か」
そう言って次に進んだ瞬間、出てきたのはありえない選択肢。
『引き継ぎデータがあります』
「は……?」
ありえない。俺はこのゲームをやるのは初めてのはずだ。だがスキルを選ぼうにも他の選択肢がない。
渋々選択肢をタップすると俺は暗い夜空のような場所に飛ばされ、大量の情報、俺の引き継ぎデータが流れ込んでくる。俺はその情報量をゲームの中で吐きそうになりながら少しずつ理解していく。
「これ……異世界の記憶かよ……」
しばらく情報に耐えているとウィンドウにいくつかのスキル名が表示される。『鑑定』『細工』『料理』『調合』『錬金術』『裁縫』『話術』『魔法陣』『鎌』『刀術』『居合』普通そうなスキルの後に続く『優魂』という文字。
少し諦めながらそのスキルをタップすると大量のモンスターの名前が表示され、“この中から2体選んで解放してください“と出る。
このスキルもそのままか。このスキルの能力は“倒したモンスターのスキルと種族特性を得る、かつそのモンスターを召喚できる“というもの。
これは恐らく異世界から引き継ぎなので大分チートだと思う。レベル制限があるっぽいけど。
とりあえず“蓄電竜“のチリュと“影獣“のシャドウを選ぶ。
種族の通りチリュは電気を、シャドウは影を操る。どちらも汎用性が高いからこの2体はよく使う。
「レイは後でね、と……」
もう一体物理攻撃……というかほぼ全部の攻撃を無効化できるチートもいるにはいるけどやめとこう。あれ体の感覚おかしくなるんだもん。
黒く鍵のかかったスキルを見て少しがっかりしつつ初期装備設定に目を通す。武器は片手直剣、服は革鎧から魔術士用のローブに変更…と普通ありえないような装備をする。その他はそのままだが。
職業はとりあえず剣士でいいか。魔法は使ってみたい気持ちはあるが、スキル的に苦しい気がする。
このゲームにおけるスキルとは二種類あり、職業スキルと技能スキルに分類される。『料理』『剣術』『魔術』『鍛冶』などの職業スキルは既にその職業に就いているNPCに教えてもらい習得する。『鎌』『鑑定』『採掘』などの技能スキルは特定の行動で習得する。(『鎌』や〜流剣術などは剣術の派生)
ちなみに大体職業スキルは色々な理由により戦闘(『剣術』など)か生産(『料理』など)に極振りするか両方を二つずつくらい取るのが普通らしい。現在ネムリは『細工』『料理』『調合』『錬金術』『裁縫』『話術』『魔法陣』などの生産系の職業スキルに加え『刀術』『鎌』などの戦闘スキルを習得しているためかなり異色である。
「……スキルは引き継ぎのくせにステータスは初期なのかよ」
ステータスを見るとHP、MPが100、STR、DEF、INT、MIDDEX、LUCが10ずつとなっていて、残りSPが20ある。
これがネムリのスキル構成が異色な理由の一つ。基本職業スキルは成功率などにDEXやLUCが関わっているが、大体の武器はSTRに、魔法はINTが関わるため、両立しようとするとステータスが中途半端になってしまう。
もちろん例外はあり、弓などの射撃武器は正確さの必要なため、DEXが関わる。なので生産職と戦闘職を両立する場合は弓使いになるというのが基本だ。しかしネムリは多くの生産系スキルを習得しているのに大鎌と刀というSTRを必要とする武器を使う。
まぁ、そんなことを全然知らないネムリには関係ない話だが。
『Free Art Fantasiaにログインします』
初期設定を全て終え、そのなにもないところからおれは最初の町に飛ばされた。
「うわっ…眩しっ」
雲一つ無い空から放たれた光が俺の目に飛び込んでくる。あたりを見回すと街だった。
「最初の街ってリューラかよ…」
そう言うが、助かった。リューラ…もといこの世界の地理はだいたい頭に入っている。実際はマップというものがあるが、ネムリは知らない。
とりあえず記憶を頼りに冒険者ギルドに向かう。早く冒険者登録をせねば…。一応予想通り、というか記憶通りの場所に冒険者ギルドはあった。
だだっ広いフロアに冒険者がたむろしていて、カウンターには受付嬢。掲示板には依頼の紙と前に来たときと変わっていない。変わっているのは…プレイヤーには頭の上に名前が表示されているくらいだろうか。
「……冒険者登録をしますか?」
「……いえ、やめておきます」
今回は新しく冒険者としてやろうとしたが、無理なようだ。登録しようと思った瞬間、あのギルドを思い出して、やめようと思ってしまった。
そんな思考を振り払おうとフレンドリストをメニューウインドウから開く。このゲームはフレンドは他ゲームから引き継ぎできるのですぐにフレンドチャットである人を呼び出す。
「おつかれ〜」
「わぁいつも通り」
いつも通りの赤と黒の服に身を包んだプレイヤー『チゾメ』…もとい赤間怜。この人服のバリエーションないの?
「ネムリレベルいくつ?」
「1。これからフィールド行こうとしてた」
「じゃあ行くか〜」
「チゾメいくつだよ、レベル」
「俺も1。初期設定で手間取って」
そんな軽口を叩きながらフィールドの平原、『先天の平原』へ出る。なんか群れの狼いるんだけど。
「あ、いた。“フォレストウルフ“だ」
「ほーん…『鑑定』」
《フォレストウルフ Lv4》
他のフォレストウルフも鑑定してみたところLv3~5あたり。まあま行けるんじゃないだろうか。
「……ネムリ、そのスキル他のやつには見せるなよ……」
「?分かった」
チゾメの言う事の意図は良く分からなかったが、人前で『鑑定』は使わないほうがいいということだろう。
そのまま二人で戦闘態勢、剣を抜く。さて、初戦闘だ。……楽しむか。
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