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三題噺もどき2

人影

作者: 狐彪

三題噺もどき―さんびゃくななじゅういち。

 


 けたたましいアラームの音が鼓膜を叩く。

 瞼は閉じたまま、手探りだけで枕元の近くにあったスマホを手に取る。

 部屋の中はずいぶんと冷えているのか、空気に触れた手から震えが全身に広がる。

「……」

 充電コードに繋がったままのスマホを引っ張る。

 少々の不自由さに自分の機嫌を損ねつつ、止める。

 まだ起きる気はないので、外すことはしない。

「……」

 アラームは計3回なるように設定している。

 起床時間の30分前、15分前、起床時刻。

 数回鳴らすことにあまり意味はないとどこかで聞いたことがあるが、長い間この感覚で起きているので、今更変えるつもりもない。実際、自分の経験としてん起床は出来ているのだから問題はあるまい。

 調子がいい時は1回目のアラームで目覚めもするし。それでも起床時間までは体を起こすことはないが。

「……」

 はっきりとしない視界の中で、スマホの画面を見てみる。

 時間がはっきりとみるわけでもないが、1回目のアラームだろうから……起きる必要は全くない。

「……」

 ない……。

「……」

 が……。

「……」

 外が、やけに。

「……」

 うるさい。

「……」

 どうやら、外はかなりの雨降り状態のようだ。

「……」

 昨夜の天気予報で、雨のち曇りとは言っていた気がするが。

 だからと言って、こんな時間から大雨を降らさなくたっていいのに。

 2階にある自室なのだが、ここは異様に雨音が響く。1階はそうでもないんだが。むしろ聞こえなさ過ぎて、外に出てから気付くことが多々だ。

「……」

 うるさいなぁ。

 こんな騒音の中では眠れない。

 あと30分もあるんだから、静かに寝かせて欲しい。

 ―リビングから聞こえるテレビの音でさえ寝つきが悪くなる奴が、こんな雨音で眠れるわけがない。

「……」

 それでも、瞼は開かないあたり、自分の睡眠欲が怖い。

 睡眠欲というより、単に寒そうで起きたくないと言うのが本音かもしれない。

 たまに、こうしていれば眠れることもあるんだけど。

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

 ……今日は無理そうだ。

 鼓膜を叩く雨音が、脳内にまで響いている気がする。

 どうやっても気がまぎれそうにない。

「……」

 かと言ってなぁ。

 この中途半端な時間に起きたところで、リビングにいる家族に捕まるだけなんだが。

 朝からあの人のテンションにはついていけない。

 朝は極力静かに過ごしたいと願っているので、できれば言葉も発したくない。

「……」

 無理と分かりつつも、瞼は開かない。

 起きるのめんどくさいな……それに今思いだしたが、今日は休みなのだ。

 もう少し寝ていたい。

 3回目のアラームを切った後も寝ていたいぐらいなのに。

「……」


 がら―


「……?」

 1人考え込んでいると、部屋の扉の開く音がした。

 隣の部屋からかとも、思ったが、音の出所が確実に自室だった。

 誰かが、私の引き戸を引いた。

「……」

 家族はまだ家には居るだろうが、他人が寝ているのに問答無用で開くような非常識な人間はいないはずだ。

 今日が休みだと言うことも伝えてはいる。だから、起こしに来るなんてこともない。

 そもそも、親に起こしてもらうのはだいぶ昔に卒業した。

「……」

 スマホを壁側の枕元に置いていたので、体はそちらを向いている。

 こちらが起きていることがばれないように、うっすらと目を開ける。

「……?」

 部屋が暗いため、あまり灯りはないのだが…うっすらとぼんやりと、人影のようなものが壁に映る。

 床を踏むような、足音が聞こえる。

 入ってきた……?

「……」

 それこそおかしい。

 私の部屋は絶対に入るなとさんざん言っている。

 その前からあまり人の部屋に入るような人たちではないので。

 最悪扉は開くにしても、入ってくるまでは絶対にない。

「……」

 開かれた扉の向こうから、リビングの音が聞こえる。

 テレビの音。

 玄関が閉じられた音。

 追いかけるように聞こえた母の送迎の声。

 この家には、3人いる。

 父と、母と、私。

「……」

 この人影は、誰だ。

 いや、そもそもなんだ?

 扉が開いたことも入ってきたこともおかしいが。

 人影がそこにあるのが一番おかしい気がする。

「……」

 夢でも見ているのだろうか。

 起きたと思っているけれど、実は寝ているとか。

 夢の中で事が起こっているだけで―


 ぴぴぴぴぴ――――!!!


「っ――!!!」

 2回目のアラームが鼓膜を叩いた。

 びくりと体が思いきり跳ねた。

 は―と思い、壁を見ると人影が消えていた。

「――」

 勢い体を起こす。

 ドクドクと早鐘を打つ心臓。

 扉は、5センチほどの隙間ができている。

 私は、ああいう隙間が大がつくほど嫌いなので、絶対にありえない。

 誰かが開かない限り。

「――!」

 そこから見える短い廊下を。

 黒い何かが横切ったのが見えた。

 寝起きの体に鞭打って立ち上がり、思いきり扉を開く。

「――」

 そこには、廊下が広がるばかりで、何もいなかった。

 辺りを見渡してみても、開きっぱなしの隣室の扉があるだけ。


 のちに、リビングにいた母に聞いてみたが。

 何も分からないままに終わった。







 お題:雨降り・夢・人影

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