狂気の森を焼く奇襲
リデルとレヴィンは、司祭ザクタートに気づかれないうちに、狂気の森で霊草が育つ辺りを移動していた。リデルは移動しながら改良で自爆する魔道具を大量に造り、ばら撒いている。改良されるまでは魔法的な効力が無いので気づけないだろう。ただのゴミにしか見えない。
なので、森の中の霊草畑はゴミだらけな状態になっていた。
「気づかれないうちに、タップリ仕掛けてくれ」
レヴィンは小声で囁きながら、森のなかを延々と続く霊草畑を進む。
「遠くから順番に発火しますぅ。陽動に引っかかってくれるといいですねぇ」
「それにしても、ザクの奴、気づくの遅くねぇか?」
少なくとも、司祭ザクタートの縄張りというか結界の森に、侵入者がふたり。
そろそろ幽霊擬きなり、仮面の騎士たちが襲ってきてもいい頃だ。
「不思議ですねぇ。何か緊急事態ですかねぇ?」
だとすれば、今のうちに仕掛けるだけ仕掛けるのが良い。森は一気に燃え上がるだろう。
対応して火を消す頃には、霊草は使い物にならなくなる。
「今のうちに、どんどん魔法を失敗しておけよ」
ありがたいことに、随分とたくさんの魔道具未然の品を仕掛けることができた。
「そろそろ礼拝堂に着いちゃいますぅ。礼拝堂の周囲にも仕掛けますかぁ?」
だいぶ失敗魔法を続けているが、まだまだ進化しない。
「そうだな。気づかれるまでは、どんどん仕掛けようぜ」
だが、さすがに礼拝堂の周囲へとゴミのような魔道具未然を仕掛け始めると、見回りらしき仮面の騎士たちがゾロゾロとでてきた。
「来ました! 騎士さんたちですぅ」
騎士たちは、死体か人間だ。レヴィンへと渡してある魔法の武器は、人間に害はないので選別する必要なく浴びせまくって大丈夫だ。しかも司祭には遠慮なく攻撃は効く。
「やっと魔法が使えるぜ!」
高揚した気配でレヴィンは小さく声を立てた。
魔道具を使うときを楽しみにしていたようだ。
「攻撃はレヴィンさまにお任せしますぅ!」
リデルはひたすら、失敗魔法でゴミを仕掛け続ける。延々と、凄い勢いで失敗し続けた。魔法が失敗しているから、司祭ザクタートは気づかないか、油断をしているのだろう。
レヴィンは、最初にリデルが渡した威力の強い魔道具を使っている。レヴィンは腕を突き出し、仮面の騎士たち目掛けて思い切り焔の矢を放った。焔の矢は、どれも的中して行く。
「うわわぁぁぁ!」
消滅する騎士、どこかに飛ばされて行く騎士。仮面の騎士たちは、どんどん礼拝堂から出てきたが、レヴィンの指輪からの焔の矢で殲滅されていった。
「レヴィンさま、素晴らしいですぅ! レヴィンさまが使うと、威力がもの凄いのですぅぅ!」
領主権限のせいなのか、普段魔法を使わないだけで魔法の才能が高いのか、レヴィンは的確に魔道具を使いこなしている。たぶん、ポンコツなリデルより、よほど戦闘力が高い。
「騒がしいな何者だ?」
ようやく鬱陶しさを隠しもしないような気配をさせ、司祭ザクタートが礼拝堂から出てきた。
「ようやくお出ましか、ザク」
礼拝堂は憎々しげに名を呼ぶ。
「おや、レヴィン君。生き返れたのですか。それは、また、珍奇な出来事ですね」
司祭ザクタートは意外そうにしているが、どこか嬉しそうな気配でニタリと嗤った。
また嬲ることができると、歓んでいるのかもしれない。
「オレは、殺されたってしなねぇよ」
レヴィンは、言い放つと司祭ザクタートに向けて焔の矢を続けざまに放ち始めた。
リデルも、失敗することが大前提での攻撃魔法を掛けまくる。
「相変わらず、酷い魔法だ。そんなもので攻め込んでくるとは、無謀にもほどがありますね。ですが、迎えに行く手間が省けました」
あくまでも冷静な響きの声だ。
リデルの失敗魔法の攻撃はものともせず、レヴィンの焔の矢は、間近で全て打ち落としている。
レヴィンは、焔の矢が効かないとわかると、別の宝飾品から攻撃を始めた。
「リデル、森の奴、準備。点火しろ!」
腕輪の魔道具から、炎弾を連続で司祭へと飛ばしながらレヴィンは命じた。
「畏まりましたぁぁ!」
派手に箒を振り回し、匡正の魔石からの改良魔法を、次々に施して行く。自爆する魔道具に変わるガラクタは、森のあちこちで点火されて燃え始めた。
「援軍がいるとは意外ですね。先に片づけるとしましょうか」
司祭ザクタートはリデルの魔法ではなく、レヴィンが軍隊を連れてきていると思い込んだようだ。
無防備にも、礼拝堂を無人の状態にして転移で森へと向かっている。
冷静な声音の響きを保ってはいたが、狂気の森が燃え上がり霊草が焼かれていると気づいたに違いない。
レヴィンの放った炎弾、魔道具から飛び出る燃え盛る火の玉は、司祭ザクタートが転移で消えたせいで礼拝堂へと激突する。
「ザクがいないうちに、礼拝堂も焼いちまおうぜ」
炎弾をガンガンと打ち込みながらレヴィンは呟いた。
無防備な礼拝堂。
だが無防備以前に、そしてレヴィンが炎弾を打ち込む前から、大穴が開いていたようだ。
「リデル、お前、何したんだ? この大穴、お前だろう?」
レヴィンはリデルの仕業だと思っているようだ。司祭ザクタートが直ぐにリデルを捕獲に来なかったのは、どうやら礼拝堂の修復に掛かりだったらしい。しかも、修復は終わっていない。
「はて? わたしぃ、完全に恐慌してましたぁぁぁ! 全く憶えてないですぅぅ」
だが、ぼんやりとリデルの魔女の眼に映るのは、爆裂するリデルの魔法が礼拝堂を破壊した場面だった。
やはり、絵から手にいれた卵から、膨大な力が暴発したようだ。
「丁度いいぜ。今のうちだ。焼こう」
ここぞとばかりに、レヴィンは炎弾だけでなく、焔の矢や、蝕火の魔法を放つ。
大穴のあいた場所から燃え上がり、蝕火は壁を腐食させながら延焼している。火炎風も放ち、礼拝堂を包み込んだ。ただ、穴のあいた部分は弱いが、礼拝堂の他は、意外に護りが固い。
それでも構わずレヴィンは焼き続け、リデルは改良の魔法で、あちこちのガラクタを次々に自爆させた。
狂気の森は、至る所から煙が上がっている。
司祭ザクタートは、援軍が不在なことには直ぐに気づくだろうが、霊草を焼かれないために消火しないわけにはいかないだろう。
「森のは、全部改良すみましたぁぁ! 失敗魔法の数を稼ぐのに、礼拝堂の周りにもまきますねぇぇ」
いつ魔石が進化してくれるかは謎だ。失敗し続けること。リデルは、今は、それだけを考えて失敗魔道具を造り続ける。ゴミにしか見えない代物が散乱する。
司祭ザクタートが戻るまでに、できれば、魔石に進化してほしい。




