狂気の森での戦闘準備
魔石の甦生魔法は完璧で、レヴィンは心身共に元気になっている。
「あ、魔女服に戻っちまったか……」
ふしだらな礼拝堂の鳥籠のなかでは、リデルの魔女の術は乱れて効かなかった。衣装は司祭ザクタートの指定だったのだろう。随分と淫靡で露出の激しい衣装にされていた。鳥籠のなかなら、お似合いの格好なのかもしれない。
「お望みでしたら、お好みに合わせられますがぁ?」
リデルは小首を傾げて訊いた。
鳥籠のなかでの衣装は、いつでも再現可能だ。
「いや。ダメだ。やめてくれ。オレの身体が持たない。呪いのまま、抱いちまう」
レヴィンはふるふると首を横に振りながら呟いた。
「あ、それは、ダメですよぉ」
あの雷攻撃は慣れられるものではないだろう。本来ならそれだけで死にかねないが、呪いのせいで雷攻撃だけでは死ねないようになっている節がある。
レヴィンは雷攻撃に合わせ、司祭ザクタートによる多様な拷問によって殺されていた。
「改良できる魔道具は、全部、改良しちまえ」
ガラクタの山になった部屋がいくつもある。それらが全て改良されるのは素敵だ。
とはいえ、その改良作業と同時に、匡正の魔石を進化させるための失敗魔法が不可欠だった。
なので、ガラクタを改良しながら、新作も造る。新作が最初からちゃんとした魔道具になることはないので、失敗魔法の数を稼ぎ、更に改良魔法で使える魔道具にする。
「まずは、レヴィンさまの防御を固めたいですねぇ」
最終的に司祭を追い出すための魔道具は、完成していないが既に持っている。失敗魔法が続いて魔石が進化するのを待つしかない。
「構わず失敗を続けろ?」
レヴィンは、進化のために失敗魔法が必要なことを良く分かってくれていた。レヴィンの防御のための魔道具は失敗し、すぐに改良される。
それは、衣装のパーツというか、下着であったり、上衣であったり、下衣や靴、襟飾りに上着、帯、豪華な外套、外套留め、靴下、手袋、何やらどんどんと華美にレヴィンを飾りたてる品が出来上がって行く。
「ああ、とてもレヴィンさまに似合いそうですぅぅ」
人形型に着せつけながら、どんどん追加した。衣装のようで、ほとんどが防御の魔道具。聖なる司祭の力と、悪魔の力を弾くものが半々くらい。
そして、腕輪に、指輪、耳飾り、装飾品型の魔道具は攻撃に特化している。
レヴィンのための品を造っているから、たぶん、複数身につけても混乱なく、好きな魔法を選べるはずだ。
「凄いな。とても魔道具に見えないぞ? 領主が着るのに相応しそうな豪華衣装だ」
レヴィンは感心した口調で、人形型に着せられて行く改良された魔道具を眺め呟く。
「防御完璧で、攻撃できる魔法使いの完成ですよぉ~!」
聖なる、で防御を固めると、司祭の術が効きまくる。思う壺だ。逆もしかり。だから、聖なる術も、悪魔の術も、弾く必要がある。レヴィンの場合は、それで問題なさそうだ。
ただ、魔女であるリデルは、同様にすると魔女の力が使いにくくなる。
魔女の上位板での装備が必要なのだが、それらは魔道具の改良のために、もう一度以上の魔石の進化が必要そうだった。リデルは半端な装備で戦うことになりそうだ。
なるべく手早く準備を済ませ、狂気の森へと、先制攻撃だ。
リデルは逃げる際、記憶は欠如しているが、なんらか奇妙な攻撃を加えたらしい。司祭ザクタートは痛手を負ったのかもしれない。まだ、リデルを捕獲しに来ていない。
レヴィンの身を守るための魔道具は、皆、衣装などの身につける品に変わった。組み合わせれば、貴族風の出立ちだ。
「ああ、レヴィンさま! 素晴らしいお姿ですよぉ!」
なんて麗しい!
リデルは、うっとりと見蕩れた。
「良い感じだぜ! 豪奢な衣装なのに風格もある」
レヴィンも鏡に自らの姿を映し、感心してくれている。
改良の魔法がまだ効かない進化を待つガラクタは、全部リデルの杖に入っている。恐らく、もう一度、進化すれば全部使い物になるはずだ。
「武器は、装飾品になってますぅ。魔法武器ですから、そのままレヴィンさまの思考で発動可能ですよぉ」
魔法の武器は、良いものができた。装飾品のままでも良いし、気分的にもっと高揚感が欲しいなら凶悪な形の魔道武器に変えて手にすることもできる。効果は変わらないが。見た目に派手だ。
司祭ザクタートは、仲間がいるわけではなさそうだった。ただ夢魔や小悪魔の類いを、幽霊に偽装させて多数用意していて厄介だ。後は、死体か虜にした人間に、仮面を付けさせ操っているのだろう。
「手下共を駆逐し、森を焼き払おうぜ」
少なくとも、霊草を。霊草は炎に弱い。炎を噴射する魔道具は、たくさん出来上がった。基本的に、司祭関連を対策する魔道具になっているはずだ。
魔法の武器で夢魔や死体は、消滅させられる。正気を失っている人間は洗脳を解いて森から領地の街へと放り出される。
「はい! レヴィンさまの防御は完璧! わたしも、かなり良い感じですよぉ!」
たぶん、レヴィンの今の装備なら、見た目は領主服だけれど司祭の術は全部防げるはずだ。
リデルは攻撃に焔系を強化する魔道具を造った。司祭と悪魔の混ざり合った存在に、どのくらい有効かは分からないが森を焼き払うのが一番だ。
「お前のは、完璧じゃねぇのか?」
レヴィンが心配そうに声を掛けてくる。
「完璧にすると、司祭さんにかける魔女の魔法が効かなくなりますぅ」
難しいところだ。防御は手薄だが、攻撃が届かないのは話にならない。そして、失敗魔法を続ける必要性は続いている。
「そうか。じゃあ、気をつけるんだぞ? 命令だ」
「畏まりましたぁぁ!」
レヴィンからの頼もしい命令は、どんな防御具よりも強い。
「オレが攻撃するから、お前は構わず魔法を失敗し続けるんだぞ?」
リデルは頷いた。どのくらいで匡正の魔石が進化するのか見当もつかないが、勝利は魔石の進化に掛かっている。先制攻撃して森の霊草を焼き払いながら、ひたすら魔法を失敗して機会を待つ。
作戦というには不確定な要素が多すぎるが、効果的に魔法を失敗し続けるには良い案だ。
「はい! 作戦どおり、改良の魔法で自爆する魔道具に変わるガラクタを、ばらまきますぅ~」
失敗魔法で、狂気の森にたくさんのガラクタをばら撒いておき、折をみて改良魔法を発動させる。あちこちで爆発が起これば、司祭ザクタートも少しは慌ててくれるだろう。
「じゃあ、行こうぜ」
「畏まりましたぁぁ!」
リデルは、ふたりの身体を転移で、狂気の森へと送り込んだ。




