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リデルのポンコツ

 眠るべき頃合いになっても、ふたりの会話は続いていた。たいていは同じ事柄の繰り返し。新たな展開やヒラメキは得られそうにない。一旦、眠ろうということになり、ふたりは寝室へと入った。

 ゆったりと座れる寛ぎ用の長椅子に、向かい合って座る。

 

「ところで、お前、なんで呪いなんか受けたんだ?」

 

 ずっと訊かれたくないと思っていた。だが司祭ザクタートが『蹉跌の知識』を求めて罠を踏みたがっていたと分かったので、少し事情が変わってきた。

 

「わたしぃ、独り立ちする少し前に、師匠と一緒に洞窟調査の依頼をうけたんですぅ」

 

 リデルは、そう前置きしてレヴィンへと呪いを受けた頃の話を始めた。

 

 

 

 大量の魔法を身につけ、独り立ちできそうな頃の話。

 リデルは少しはしゃぎ、魔法が自在なことで奢ってもいた。

 わたし、師匠よりすごいかも?

 

 なのに洞窟調査の途中、うっかりあっさり罠を踏んでいる。リデルの身体は、紫の閃光を含む黒い闇に包まれた。

 

 閃光を含む闇のなかで、どうにもならずいていたリデルを、相当苦労して師匠は助けてくれたようだ。リデルは意識を失い、目覚めたときには師匠の家に戻っていた。身体中が痛い。呪いに蝕まれた身体は、肉体的にはすっかり治癒されていた。だが、痛みは消えていない。

 痛みは、徐々に消えるだろうと師匠に教えられた。

 

「どうしても、あなたには、命令に従う、という宿命があるようね」

 

 リデルの意識がはっきりしてきたと分かったのか、ため息まじり師匠は告げる。

 何のことか全く分からず、リデルは首を傾げた。

 

「でも、そうね。領主命令なら、きっと相応(ふさわ)しい。あなたが踏んだ罠には、強烈な呪いが仕込まれていたの。リデル、あなたは終身雇用されるまで、ほとんどの魔法が使えないわ」

 

 優しくも厳しい師匠。切なそうな同情するような、しかし慈愛そのものの視線を向けられた。

 

「ひぇぇぇ! そんな、馬鹿なぁ?」

 

 あまり性格は変わっていないが、その日から、魔法は全くまともに機能していない。失敗魔法が続いた。

 

 

 

「そんな呪いを受けた状態なのに、なんで師匠の元に残らなかったんだ?」

 

 少し過去の話をした後で、レヴィンに訊かれた。

 

「終身雇用してくれるかたを捜さなければ、魔法が使えないからですぅ」

 

 レヴィンには本当に感謝している。それでも、終身雇用されただけではダメで、レヴィンの命令がリデルには必要だ。それは、呪いと組みになっていた『蹉跌の知識』のせいかもしれない。

 

「お前の師匠か。やっぱり魔女なのか?」

「はい! モエカ・バノッフイ。養女にしてくれました」

 

 リデルを養女にし、モエカ・バノッフイは養母となった。けれど、リデルは母とは呼んだことはない。ずっと師匠と呼んでいる。そのほうか心地よかった。

 

「養女? 師匠とはどんな出逢いなんだ?」

 

 養女と聞いてレヴィンは少し言葉を濁し、そして訊いてきた。

 

 ……師匠との出逢い?

 あれ? どうだったかな? 幼すぎて、覚えてない?

 

「ヘンです……記憶が……ひどく曖昧で……師匠は、幼い頃から、ずっと……育ててくれながら……魔法も」

 

 訥々と呟きながら、記憶が引き出せないことにリデルは驚いている。

 おかしい。何かが、呪いのせいだけではなく。

 

「済まねぇな。疲れさせすぎたようだ」

「いえいえいえっ、とんでもないですぅ」

 

 心底心配してくれている表情のレヴィンには感謝しかない。

 

「また、いつザクの奴が来るか油断ならねぇ。なんとか、撃退できる方法を考えねぇとだ」

「武器と防具の失敗品を、端から改良しますぅ!」

「それが案外、確実だろうな」

「たくさん失敗して、魔石を進化させますぅぅ」

 

 今となっては、魔石が特殊な変化をしてくれることを祈るばかりだ。

 秋の実りは約束されている。

 だから、必ず司祭を追い出す方法が見つかるに違いない。

 途方もないことだと思いながらも、レヴィンと一緒ならきっと大丈夫だとリデルは強く感じていた。

 

 

 

 失敗魔法を繰り返すことが、苦ではなくなっている。

 気落ちしそうになったら、すぐに、匡正(きょうせい)の魔石で改良すれば良い。そうすれば、思いがけない武器や防具が造れていて驚きと喜びでリデルの気持ちは満たされた。

 

 しかし、狂気の森の司祭への対策になるような武器や防具は造れない。

 

「まあ、敵はザクだけじゃねぇしな。用意しておくに越したことはないぜ」

 

 レヴィンは揃って行く防具や武器を眺めて嬉しそうな表情だ。確かに、城としては必要な装備だろう。

 

「わたし、頑張りますぅ!」

「とはいえ、雇用した者たちには、まだ忠誠心もねぇだろうし。家臣たちに命を賭けろと言う気はないぞ?」

 

 基本的には、司祭に対してはリデルの魔法で対抗する以外に手はないと自覚している。レヴィンの命令が的確であれば。

 そのためには、もっと互いを知る必要がある。

 

 司祭は、レヴィンに懸想して闇堕ちし、何かの目的のために『蹉跌の知識』を追っていた。レヴィンに固執しているなら、司祭はとぼけてはいたがテシエン領主になったことも知っていたろう。

 

 今後は、レヴィンだけでなく、『蹉跌の知識』を所持しているリデルにも魔の手は迫る。

 殺せば『蹉跌の知識』は消える。司祭ザクタートが『蹉跌の知識』を使いたいなら、リデルを捕らえ道具として使用するしかない。

 

「領主権限があるからな。ザクはお前を捕まえることはできないぜ?」

 

 リデルの不安を感じとったのか、やはりリデルを捕らえる方向で司祭が動くだろうことを予期しているのだろう。レヴィンは確認するように呟く。

 その通りではある。リデルは言葉には頷いた。

 

 ただ……。レヴィンも同時に捕らえられたら。一緒に囚われとなれば、逃れがたい。今のままでは、リデルの魔法は、司祭に対応できない。レヴィンの呪いを活用すれば、幽霊で脅すよりも簡単に従わせられるかもしれない。

 

 強制されたにしろレヴィンの命令があれば、リデルは『蹉跌の知識』を司祭のために使用する……などという羽目に陥る。

 

「何か、秘策がでて来ないですかねぇ」

 

 失敗魔法を続けながらリデルは呟く。

 

「また、絵画に入るか?」

「あ! それは、良いかもですぅ」

「『禁呪の聖域』って絵が気に掛かっていてな。聖なる術式がどうのって書かれていたから、ザクに効かねぇかな」

「確かに! 悪魔の術には効きそうですねぇ」

 

 ただ、リデルが使いこなせるかは未知数だ。自分の力を打ち消しかねない危険がある。

 魔女の魔法は、聖なる、とは真逆な場所にあり、はるかに悪魔の術に近い。

 

「御守り代わりにでもなれば、気分も違うだろう?」

 

 どの道、レヴィンと共に全ての絵に入る必要があるのだろう。

 

「この際、思いつくことは全部やってみるのが良いですぅ」

 

 リデルはレヴィンと共に、絵画の部屋へと向かった。

 

 


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