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幽霊騒動

 森のなかは綺麗な川が流れていた。古びた神殿はレヴィンの命令とリデルの魔法で、瀟洒(しょうしゃ)で神聖で棲み心地のよさそうな建物に甦っている。

 ソジュマの精霊は、テシエンの繁栄を約束してくれた。

 

 しかし狂気の森にすむ司祭たちに関しては、レヴィンとリデルで解決しないといけない。

 

 

 

 リデルとシグは、かなり頻繁に城の敷地のあちこちを転移で飛び回っていた。レヴィンに気づかれないように、密かに送り込まれてくる幽霊を駆除していたのだ。

 司祭ザクタートが仕掛けてきているに違いない。レヴィンに悟られないように頑張っているが、命令のない魔法は効きにくい。

 

「お前たち、こそこそと何をしている?」

 

 さすがに気づかれた。レヴィンはいぶかしそうな視線で訊く。

 

「ぁゎゎゎゎゎ! ぃぇぃぇ、なんでもありません!」

 

 バレるのは時間の問題だとは思ってたけどぉ……。

 リデルは、早すぎるよぉ、と、心のなかで呟き足した。とはいえ、いつまでも内緒で処理するには無理がある。送り込まれる幽霊の数は、どんどん増えてきているし、神出鬼没だ。

 

「そんなわけないだろう? ちゃんと話せ」

 

 語気荒くではないが、レヴィンは有無を言わせぬ気配だ。

 呪いがなければ、襟首掴んでいたに違いない。もしくは猫のように首根っこか。

 

「ぁぁぁぁっ! ごめんなさぃぃぃ! 幽霊しかけられているのですよぉ!」

 

 ひっ、と、レヴィンは息を呑んだ。が、すぐに毅然とした表情になった。ザクタートが敵認定となったときから覚悟はしていたのかもしれない。

 

「全部、迎え撃て!」

「畏まりましたぁぁ!」

 

 幽霊と口にするのも嫌なのだろう。しかし、レヴィンの命令は貰った!

 リデルは、ここぞとばかりに、箒を振り回して魔法を城の敷地中へと浴びせ、特に城壁へと幽霊除けを張りめぐらせる。

 

「ひときわ綺麗な魔法だぜ。頼もしいな」

 

 レヴィンは絶賛してくれるが、リデルはそれでも不安でいっぱいだ。なにしろ、レヴィンが幽霊が苦手だと知っているはずだから、どんな手でくるか分からない。

 

「レヴィンさまは、いつから司祭さんと、お知り合いなので?」

 

 対処のためにも、若干、司祭の知識が欲しい。

 

「小さい頃……の、ご近所さんだ。神官の息子でな」

「うっ、じゃあ、神官の使う魔法を使えるのぉぉぉ」

 

 それであんなに余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)なのだな、と、リデルは思案する。しかし神官の術で霊草や幽霊を操るなんて不徳にも過ぎる。その手合いを諭し転生の輪へと導くべき存在が、幽霊を使役とは。

 

「堕落しても、神聖な魔法は使えていたぞ」

「どのような……堕落……で?」

「まずは、色事。だが、だんだんヤバいことに手を出し始めて、オレは付きあいきれなくなった」

 

 悪魔に魂を売りやがって、と、小さく呟き足された。

 

「ひえっ、悪魔の術も使うので?」

 

 神官と悪魔の術、両方を使いこなすとなれば、かなり厄介だ。リデルにとって神官の力は天敵で、悪魔だって序列にもよるが太刀打ちできない可能性が高い。ヘタに刃向かえば、逆に操られてしまいかねない。

 

「どんな術かは知らんぞ。それを知る前に逃げ出した……というか、娼館に売られる借金を背負わされた」

「……幽霊でもけしかけられましたので?」

 

 リデルはボソッと訊いた。軽率なようで用心深いレヴィンが、そうそう簡単に借金を背負うとはとても思えない。

 

「ああ。良く分からない契約書に署名させられた」

 

 幽霊に囲いこまれて怖くてな。何でもするから助けろと、言ってしまった、と、小さく言葉が足された。

 

 うわぁ、何でもするだなんて~! なんて危ない言葉を!

 訊いているリデルのほうが冷や汗だ。それで借金で済んだなら良かった。領主になったから娼館が買い取ることはできない。領主権限は強い。借金も取り立て停止だ。

 

「ううっ、そしたら、また、来ますよぅ。特殊な幽霊。多量にレヴィンさまに嗾けるに決まってます!」

「奴に捕まるのだけは嫌だ」

「他の者ならよろしいので?」

 

 他の者との言葉に、レヴィンは頷いた。

 ザクタートでなければ逃げられるからな、と呟いている。

 

「それに、オレがするならまだしも……」

「はぅ?」

「昔から、隙あらば抱こうとする」

「ひゃ、ひゃぅぅ! ご無事でしたので?」

 

 リデルは妙な方向に転がって行く会話に冷や冷やしながらも、反射的に訊いていた。レヴィンとザクタートでは凄い体格差だ。とても逃げるのは無理なのでは?

 

「当然だろう?」

 

 しかし、レヴィンはさらりと言う。魔法も使うし体格差もあるような相手から、レヴィンはなぜ逃げることが可能だったのか? リデルは不思議そうに瞬きしたが、まあ、ご無事で良かった、と安堵の吐息だ。

 

「奴はテシエンの呪いを知ってるようだったからな。テシエン領主相手に試したことがあるのかもしれねぇぜ」

「ぁゎゎ、それって、呪いの雷がぁぁぁ!」

「そういうのが、好きなんだろう?」

 

 呪いの雷を受け苦痛に悶える身体を蹂躙したい……ってことぉ?

 ぜったい、ダメ、そんなの!

 レヴィンさまは、ぜったい、渡さないぃぃ!

 リデルは改めて決意を新たにした。

 

 

 

 しかし、城壁に幽霊除けを施したことで、幽霊よりずっと上位的で幽霊そっくりな厄介な存在たちが城へと突入してくるようになった。

 シグが撃退に苦労している。

 

「レヴィンさまぁ、幽霊みたいに見えますけど、幽霊じゃないですよぉぉぉぉ!」

 

 お陰で普通には倒せません!

 と、心で叫ぶ。せめて、レヴィンが幽霊認定せずに怖がらないでくれたら、冷静な対処が可能かもしれない。

 

「ああああっ、こいつら幽霊じゃないのか? すっかり幽霊だと思って騙されたぜ」

 

 どうやら、レヴィンがヘンな契約書に署名するはめになったときの幽霊(もど)きらしい。

 元々、幽霊ではレヴィンを捕らえることなど無理だろう。

 

「幽霊に擬態した夢魔ですよぉぉぉ。もしかして、これなら平気ですかぁぁ?」

「いや、ダメだ……っ。怖い」

 

 しかし、リデルが闘おうとしているので、レヴィンはそばにいる。

 

「あ、わたしひとりで大丈夫ですよぉ」

「ダメだ。オレはお前から離れない」

 

 怖いのに。いや、怖いから、かも?

 

「わわ、分かりました! 全力でお守りします!」

「倒せなくていいから、城から追い出せ」

「畏まりましたぁぁ!」

 

 しかし、レヴィンの命令を受けての魔法を大量に振りかけても効果が弱い。一体一体に集中させないと追い出すこともできない。レヴィンの幽霊への苦手意識というかおびえのために、領主権限が効いていないかリデルの力を引き出せていない。

 

「リデル。だ、抱きつきたい。これは、怖すぎだ」

 

 雷の衝撃で意識を失うほうがマシという判断?

 

「いえいえ、こんな場所で意識手放すくらいなら、撤退しましょう!」

 

 って、どこへ?

 唯一の幸いは、幽霊擬きはレヴィンを追尾している。

 

「撤退? どこへだ?」

 

 すかさずレヴィンにも突っ込まれた。

 

「絵画の部屋です!」

 

 レヴィンへと魔法を振りかけ、リデルはふたりの身体を絵画の部屋へと転移させる。

 たぶん、幽霊も夢魔も入れないはず。

 その間に、レヴィンに落ち着いてもらおう。

 

 


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