農地ですくすく育つ作物たち
レヴィンが魔道具の実験で壊した城壁部分は、リデルが綺麗に復元した。元の城壁よりも、その部分だけ立派になっている。
「そのうち、全部、修復しますぅ。きっと、堅固な護りになりますよぉ」
リデルは、他の部分との差が余りにあるので、ちょっと慌てながら告げた。
「そうだな! 全部、この城壁になったら壮観だろうぜ。だが、まぁ、無理はするな」
城壁の復元は、それほど手間ではなかった。どちらかというと、レヴィンの攻撃する魔法が凄まじくて驚いたままだ。
「レヴィンさま、わたしより、ずぅと魔法がすごいですぅ!」
同じ魔道具を使ったとして、あの破壊力が出せるだろうか?
魔法を常に使う身としては、不思議な気分だ。だが、とても誇らしくも嬉しい気分だった。
「お前の魔道具が凄いってだけだぞ? でも、安心材料だな! オレでも、少しはリデルを守れる」
レヴィンは上機嫌に応えた。魔道具だけのせいではないと思う。リデルには普段魔法と縁のないレヴィンが魔道具を効果的に使えている理由がわからない。
「ぁぁぁぁ! なんて嬉しいお言葉! 幸せだから、もっと造ります~!」
と言うものの、武器や防具など、今まで一度も造ろうとしたことのないものは、まず失敗作を造らねばならない。これなら、ドンドン魔石が進化しそうだ。
領地には、あっという間に定住者が増えた。税率の低さを聞きつけ、喜んで移住してくる者が多いらしい。真新しい家もある。家の中にあるものは、好きに使ってくれて構わない。
皆農作業を始めているので、農地にはさまざまな作物が育ち始めた。
「農作物の育ちは、順調ですぅ!」
すくすく育つ作物の映像を壁に映しながら、リデルはウットリと呟く。雨が足りなければ散水するし、必要に応じて肥料を足したり、何気にそういうのは得意だ。
元々にレヴィンの命令があるから、失敗なしの強力な魔法が農地の世話をしてくれていた。
魔法が順調過ぎて怖い。
「いい風景だなぁ」
あちこちの農地で、作物がガンガン育っている。レヴィンも上機嫌だ。
リデルは、農地への強風を避け、水害を避け、日照りになりそうなら川からの水を散布した。なにもかも、秋の収穫のため!
「まるで別の街のようですぅ! 働き者の方々に住んでいただけて何よりですねぇ」
森に関すること以外は心配事もなく、領地の発展は確約されたように感じられた。
「執事のベビットは、上手に人選しているようだぞ? 全部は受け入れていない」
ベビットは思った以上に有能な執事だ。リデルとレヴィンが次々に拾ってくる行き倒れの札付きたちを、適材適所に置いている。更に極秘に情報を流し、詐欺まがいで徴収の札を付けられた者を捜してくれていた。
「ひゃぁぁ、すごいですぅ、人選できるほどに人が集まってきてるなんて!」
農作業の希望者が、こんなに多いとは思っていなかった。これならば、秋の収穫からの前借りが凄くても納得できる。たくさんの農家が、皆豊作の秋を迎えることができるのだろう。
「農業経験者が多いらしい」
「そうでしょうねぇ。みんな素晴らしい働きですぅ」
「店舗物件にも、ちゃんと希望者が入れたようだな」
壁に映し出される街の情景に、レヴィンは満足そうだ。
店舗物件はあちこちにあったし、商店街のようになっていたりもしていた。それぞれ甦った過去の建物で、それぞに商売を始めている。
食材やら、普段の生活に必要な雑貨類も買い物が可能になっていた。
「わたしも、頑張りますぅ」
失敗した品々を、匡正の魔石を使って甦らせる作業に取りかかろうとリデルは決意の声をあげた。
「魔道具の販売店をだすのはどうだろうな?」
「あ、そうですねぇ。資金的には困らなくなってきていますしぃ。無難なところから、テシエンの街で売ることができると良いですよねぇ」
何しろ、甦った品はあふれている。ちゃんとした魔道具だ。ただ、魔法の効能にはバラツキがある。
「鑑定できる奴が必要か?」
リデルが賛成しつつも思案気な表情をしていたのだろう。レヴィンは敏く訊いてくる。
「魔道具の真価を知らずに売るのは、足元みられるから拙いですぅ。鑑定と販売とできる方を、城で雇うと良いかもですねぇ」
そんな人が雇われてくれるかは謎だ。とっくに自分で店をもっているだろう。
「じゃあ、ベビットに頼んでおくか」
きっと直ぐに見つかるぜ、と、言葉が足された。
リデルは、失敗した品々の改良と、武器や防具の失敗品を造るべく魔法を使い始めた。
その間も、いつでもレヴィンが見られるように壁には領地の様子を映しておく。
リデルは適当な場所で、武器や防具を造ろうとしては失敗し、端から空き部屋へと送り込んだ。一応、造ったときに武器、と考えたものは、武器用の部屋へ。防具、と考えたものは、防具用の部屋へと慌てて転移させた。
失敗作を造るのだとレヴィンは分かっているのだが、リデルとしては本能的に隠したい。
「あっ、あああああっ!」
失敗の酷さに、思わず叫んでしまう。レヴィンの眼に触れないように即座に転移させているが、そんな声を上げたら失敗したことはバレバレだ。
「本当は何をするつもりだったんだ?」
ちらっ、と、見られたらしい。何気にレヴィンはリデルの手元を見ていることが多い。
「あ、いえあの、その……」
今のは、呪いを解く方法を探してのことだった。だが、いつも通り、なんだか良く分からない品ができ、反射的に隠した。たぶん、解呪系の魔道具として甦るだろうがレヴィンの呪いを解く方法ではないだろう。
きっと、魔道具としては解呪を基本としたものが多く造られているに違いない。
と、リデルは思っていたが。呪いを解くことを考えながら造った品ばかりのはずなのに匡正の魔石で甦らせると、素晴らしい魔法効果のついた魔道具の数々が並んだ。
「良く、そんな魔法を思いつくなぁ」
甦った品を鑑定して説明するたびに、レヴィンは驚いてくれる。そして、レヴィンはリデルが造った魔道具を、とても気に入ってくれていた。必ず魔法の力がついている所も、評価が高いようだ。
「ああ、でも、レヴィンさまには、もっと防具的なものが必要ですよぉ」
衣装替えの魔法は、適当に貴族っぽくレヴィンに似合う服装を選んでくれる。ただ、それは、たぶん、レヴィンが着てみたいと密かに考えていた衣装に違いない。それに防具効果が付けば問題ないのだが、そうもいかない。
「まぁな。いつ、親玉が森からでてくるか知れたもんじゃないからな」
リデルは頷く。失敗防具も増えてきたから、明日には匡正の魔石で甦らせてみよう。
今は、レヴィンと会話しながらの失敗作業が愉しく、ちょっと動きたくないな、と、リデルはコッソリ考えていた。




