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リデルの魔石

 レヴィンが骨董市で買ってくれた魔石が、慌ただしさのなかで放置状態になっていた。

 何の魔石であるのか謎だ。しかも魔石は進化して行くので最終的にどんな魔法が使えるようになるのか、最後まで分からない。

 

 リデルは森の調査と、城の部屋の調査に魔法を使いながら、空き時間にコマコマと売れそうな品を造っている。余程のことがない限り、常にレヴィンと一緒。というかレヴィンが着いてくる。

 レヴィンと一緒に居られるのは、とても幸せな感覚で満ちるから何の文句もない。

 ただ、リデルは魔石が気掛かりで、魔石に向かい合うとなると、ひとりの時間が必要だった。

 

「レヴィン様、少々込み入った御相談がありまして」

 

 執事のベビットがレヴィンへと声を掛けている。税収やらの取り決めで、込み入った話になるようだ。レヴィンに相談し、魔石のために部屋に閉じこもらせて貰おうかと思っていた。だが都合良く、ひとりになれそうだ。

 

「ああ。分かった、ベビットの部屋に行くよ」

 

 ベビットに応えた後で申し訳なさそうな表情で、レヴィンはリデルへと顔を向ける。

 

「あ。では、わたしは部屋の調査の続きを……」

「済まないな」

「いえいえ、話をややこしくしてはいけませんしぃ」

 

 リデルは魔石に向かう良い機会だと感じた。レヴィンは、執事と詳細な打ち合わせなので、時間はかかるだろう。丁度いい。リデルはレヴィンの入れない、魔法が強めの部屋を選んだ。

 レヴィンに魔石のことを隠したいわけではないのだが、初めての対話は慎重にする必要がある。

 

 今日こそ、魔石の正体を――!

 

 骨董市で見掛けたときは、灰色の丸みを帯びた石にしか見えなかった魔石。魔法で軽く汚れを落としてみる。少しまだら模様で、不透明な宝石めいた光沢の綺麗な魔石になった。

 

 手のひらに握り込めば、少し魔石が見えているくらいの大きさ。

 

(こんにちは、リデル様! 私は匡正(きょうせい)の魔石です)

 

 握り込んだ途端に頭のなかに魔石の声が響く。握った者の頭のなかへと語り掛けてくるのが魔石の特徴だ。そのときに持っている者の意志に従う。他の者へと渡ることがあっても、再度戻ってくれば、ちゃんと個体認識で覚えていてくれる。

 

(はぅ? ききき、きょうせ……???)

 

 何を言われたのか分からず、リデルはいきなり恐慌しそうな状況だ。

 

(匡正の魔石です。あ、進化進化進化進化進化進化進化しました……! 改良魔法が使えます)

 

 なぜか魔石は一気に大量の進化をしてしまい、進化途中で使えるはずだった魔法の解説はすっ飛ばされた。

 

(改良? ひぇぇ、どうして、一気に進化なのぉぉ?)

 

 匡正の魔石が何の魔石なのか分からないが、匡正の魔石を使用するのに必要な経験をリデルはかなり積んでいるということになる。魔石を一回進化させるのには、それはもう、果てしない徒労のような繰り返しの魔法が必要なはずなのにだ。

 

(リデル様は、たくさんの失敗魔法を繰り返しています!)

 

 失敗魔法が、匡正の魔石における進化の条件?

 

(えええええっ! それって、酷くないですかぁ?)

 

 この魔石を使い熟すためには、手にいれた者は魔法の失敗を繰り返す必要がある、ということだ。

 リデルは確かに失敗魔法は多いが、魔法が成功しないわけではない。特に、レヴィンが命じてくれればかなり確実だ。

 

(そうでしょうねぇ。皆、私の進化は諦めます)

 

 それで魔石にも拘わらず、二束三文で骨董市に流れていたのだろう。

 まぁ、失敗魔法が進化に必要だというなら、リデルには今後もいくらでも進化させられる自信がある。

 

(失敗魔法はたくさんしますけどぉ、役に立つ魔法が使えるようになりますかぁ?)

(もちろんです! 改良の魔法は素晴らしい。これは、リデルさまでも失敗なしです!)

 

 言葉に少し引っかかりは感じたが、失敗なしの魔法が使えるらしい。

 

(改良って、何を改良するのでしょう?)

(今まで造った、失敗魔法の品々ですよ?)

(はぅぅ? マジですか?)

(はい! 私を使って、造りたかった品に改良するのです)

(ええええっ! そんな便利な魔法があっていいのぉ?)

(もちろんですとも! 更に進化すれば……おっと、これはダメですね)

 

 魔石は進化の先の話はしてはいけないらしいが、口を滑らせそうになっている。

 本当に大丈夫な魔石なのだろうか?

 

(リデル様に残る呪いの残滓も、私の進化を早めています)

 

 リデルは、うっ、と一瞬言葉に詰まる。終身雇用されないと魔法のほとんどが使えない……あの呪いのことだろう。

 

(え? じゃあ、呪いが消えたら、魔石の力もきえちゃぅのぉぉ?)

 

 せっかく便利そうな魔石なのに、使えなくなったら悲しい。とはいえ、終身雇用されたのに魔法の失敗が続くのは、呪いの残滓のせいらしいと分かった。

 

(大丈夫です! 呪いの残滓を魔石で吸収消化しながら、呪いを消して行きます)

 

 自信満々な魔石の声にリデルは頷く。

 そんなふうに、レヴィンさまの呪いも解けたら良いのに……。

 

(通常魔石は助言しませんが、リデル様は、『蹉跌の知識』をお持ちですから特別に一度だけ。リデル様は、レヴィン様の呪いの解決方法に必ずたどり着けます。ですが条件として『蹉跌の知識』は誰にも告げてはダメです。呪いが解けるまではレヴィン様にも)

 

 レヴィンさまの呪いが解けたら、告げてもいいのよね?

 ならば、ウソをつかずにすむ。リデルは魔石の言葉に頷いた。

 

 

 

「レヴィンさま! この前、購入頂いた魔石ですが、匡正の魔石だそうです!」

 

 匡正? と、レヴィンは首を傾げたが聞き直しはしなかった。

 

「何ができるんだ?」

 

 その代わりに、単刀直入だ。

 

「えーと、凄まじい勢いで進化したのですが、要するに、改良できるのだそうで……!」

 

 失敗した魔法の品を、本来の形にできるとか……、と、リデルはぼそぼそ言葉を足した。

 進化の過程で、きっと他にもできることはあるのだろう。だが、まぁ、今は改良だけで手一杯だ。

 

「凄いじゃないか!」

 

 レヴィンは感動した表情だ。

 まだ、試していないから、真偽のほどはリデル的には謎だったが、事実なら確かに。

 

「まだ試してはいないですけどぉ」

「よし! 早速試そうぜ!」

 

 ウキウキ顔でレヴィンは言い、リデルの手を引っ張ろうとして慌てて手を引っ込める。

 必ず、呪い、解きますからね~!

 リデルは心の中で叫ぶように決意を新たにしていた。

 

 


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