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#船医者コラボ

 国道をしばらく走り、立体駐車場をぐるぐる回り、車を停める。


「時間がかかるし退屈でしょうから、洵子はこれでランチでもしてらして」


 シートベルトを外したダフネが、ぴんぴんの五千円札を指に挟んですっと差し出した。


「え? どこのどういうお金?」

「お父さまにいただきましたわ。洵子がお世話になっているからって。逆ですのにねえ」


 ダフネは笑った。


「逆? いや、うーん……?」


 身近に自分のアバターがリアル受肉したVいないから、逆も裏も真も分からん。


「令嬢たるもの、ご厚意をお断りするのは恥ずべきこと。でもやっぱり悪いですから、洵子に喜んでいただきたいの。受け取ってくださる?」

「ヴッ」


 上目遣いで手をぎゅっと握るな。眩しすぎる。

 結果的にお父さんにお小遣いもらったみたいで、成人女性として気まずいな。


「ていうかあんた――」

「ダフネ!」


 でかい声で遮られた。


「……ダフネは」

「んむっふっふ。どうしたんですの、洵子」


 ダフネはうれしそうに私の名前を呼んだ。

 かねてから月桂樹が丘ダフネにガチ恋勢が存在することをいまいち呑み込めていなかったが、これはなるほど。高額長文スパチャを読まなくても、こんな風になつかれたらくらっと来るのは分かる。


「ダフネは金どうすんの?」

「令嬢たるもの、お買い物はつけ払いか外商さんですわ!」


 令嬢たるもの構文でガチお嬢様っぽいこと言ったらネタとして成立しないだろ。


「地方都市のショッピングモールにはつけ払いも外商もないよ多分」

「まあ!」

「……はいこれ。使って」


 私は財布から三井ショッピングパークカードを抜いてダフネに握らせた。


「いいんですの?」

「いいよ。なんていうか……私の買い物だし、結局は。いやニュアンス難しいけど。あとポイント溜まるし」


 使途も豊富だしな、永久不滅ポイント。


「ありがとうございます!」


 だから手をぎゅっと握るんじゃない。


「では、いざバトルフィールドに! ですわ!」


 ダフネは編み上げブーツのヒールをかつかつ鳴らし、さっそうと駐車場を横切っていった。

 なんか、もう、異様に疲れた。

 この悪い夢はいつまで続くんだ?


「はー……寿司でも食い行くか」


 私は寿司でも食いに行った。ありがとうお父さん。

 

 ◇


 私たちは床の上に買ってきたものを広げ、整理しはじめた。


「これ何? タンクトップ?」

「ナイトブラですわ! 肉を胸に寄せる効果がありますのよ。令嬢たるもの、いつだっておっぱいを限界まで盛るペコしませんとねえ!」

「ぐっ……付けてもねえナイトブラについて配信で語ったばかりに……」


 良いだろうがよ別に夜ぐらい解放しても。おっぱいがどこへともなく散っていく責任は私じゃなくておっぱいにあるだろ。


「このおもちゃは?」

「ジェルネイル用のライトですわ! お好きでしょう?」


 ダフネは彫刻刀みたいな甘皮削りのパッケージをむきながら私ににっこり微笑みかけた。


「虚像が……虚像が私を殺しに来る」

「んむっふっふ、一緒にネイルしましょうね」


 私はとっさに拳をつくり、甘皮ぼさぼさの爪を隠した。


「おそろい、きっと素敵ですわ」

「ヴッ」


 ふざけんな、ガチ恋するぞ。


「ナイトキャップ、枕カバー、うおまじでアルガンオイル。これは?」

「ヘアミルクですわ。芍薬の香りがしますの」


 芍薬の香りって言われてあーはいはい。ってなる人いる?


「いや、まあ、でも、なんだろ……懐かしいな。こういうの見てるだけでうきうきしてた気がする」


 はるかなる遠い過去、自分が自分であることをまだ楽しめていた日々について思い出す。


 ガラクタみたいな顔面が手を加えれば外をうろつける程度にはなったり、あほみたいなところにあほみたいなサイズで鎮座していた頬のほくろを手術で取っ払ってみたり、あまりにもなんか、コリオリの力? みたいな感じで右にうねった陰毛を脱毛サロンできれいさっぱり消滅させたり――コンプレックスでさえ、前進するための燃料にできた日々。

 

「楽しいですわよねえ。ヘアカラーチャート眺めてるだけで二時間いけますわ」

「持ってた持ってた、あのくそでっけえ本ね。毛束が挟まってるやつ」

「爪びっしりのチャートもうきうきですわ!」

「吉良吉影みたいな気分になれるしな」

「絶好調! ですわ!」

「月三十センチ以上伸びてんじゃん爪が」


 私たちはけらけら笑った。


 やや打ち解けられた気分で荷物をいじりまわしていると、タブレットから通知音が鳴った。タップするとディスコードが立ち上がり、心臓が変な低い音で鳴って手足が冷たくなった。


「どうしましたの?」


 やめろ、顔の良い女が軽々に顔面を近づけるんじゃない。


「今日メディコと配信するから」

「まあ!」

「あー」


 私はあーって言いながらサーバーに入った。

 チャット欄に、ペストマスクのアイコン。同期のV、病狩やみがりメディコのものだ。


 きょう七じはんからであってますか


 合ってるよ、と返信する。


 よろしくお願いします!!!!!!!!

 お嬢!!!!!!!!!!

 お嬢!


 なんだよ。


 呼んでみただけ!!!!!!!!!!!!



 うるせえなこいつ。


 すごい速度で気が重くなってきた。コラボ配信っていう文化この世から消滅してほしい。 


「わたくし、お父様とリビングで同時視聴しますわ!」

「いいいい、しなくていい。風呂入ってなよその間。アルガンオイルあるし」

「いいえ! 令嬢たるものアーカイブ視聴に甘んじることなかれ! メン限添い寝ASMRもリアタイですわ!」

「それは本当に勘弁してください頼むからまじで」


 ライトに性欲解消してるところを自分のアバターに覗き見されるの新種の刑罰でしょ。


「はー……コンタクトしてこよ」


 私はとぼとぼと風呂場に向かった。


 

【It Takes Two】こんなになっちゃった…………たはは #船医者コラボ【月桂樹が丘ダフネ/病狩メディコ/ぶいばーす】




「領民のみなさまごきげんよう! ぶいばーす所属の悪役令嬢、月桂樹が丘ダフネでございますわ!」

「んふふ声でか」

「アッアッ……エッ」

「こんめでぃこー。病狩メディコだよ。今日はお嬢と協力プレイだよー」

「ふんすんすんすん」



 ごきげんよう!

 こんめでぃこ!

 人見知り出てておハーブ

 人見知り悪役令嬢!

 鼻息で草

 ダフネ鼻どうしたw

 ごきげんよう!

 うるせえ!

 即ギス大好き

 離婚決定



「――なんですのこれ!? なんとかバニアになっちゃいましたわ!」

「へー、ウィッカーマンが主人公なんだ」

「なっちゃったからにはもうですわ!」


 

 ちいかわw

 ヤダーッ!

 草

 なんとかなれッ!

 燃やすのかな?



「――へいへーい」

「アッ痛っやめっ、攻撃やめて! なんかつらい! 仲良くして!」

「ぶはははは」

「んまっ、本当に待って! 早い早い早い! 先行くの待って壁に張り付けない! ああーいつでも何もかも誰よりも劣っている!」

「のろまはそこで乾いていけ」



 なんかつらいw

 よわよわ令嬢でおハーブ

 なまはげで草

 うしとら!?

 草

 体が乾いちまう!

 獣の槍でRPを剝がされる令嬢

 


「――まあ! でっけえ掃除機! 擬態型なんですの!?」

「ボスっぽいねー。お嬢よろしく」

「令嬢たるもの、威力偵察で敵を地表から吹き払ってさしあげます! くたばりあそばせウギャー!」

「はっはっは、ざぁこ」


 

 ヤーッ!

 ちいかわ好きすぎ悪役令嬢

 擬態型かー?

 悲鳴助かる

 ウギャー好き


 

「――はー楽しかった。ボスも倒したしダフネもぼこったしこの辺にしといてあげよう」

「わたくしを罠にかけるときの熱量がおかしいですわ!」

「いい声で鳴くんだよなー」

「離婚ですわ! 絶対に離婚! くたばりあそばせ!」

「それじゃあおつめでぃこー」

「ごめんあそばせー次こそはこのヤブ医者を仕留めてみせますわ!」



 ごめんあそばせー

 離婚届提出コラボ楽しみ

 楽しかったおつ

 ヤブ医者てw

 そういうゲームじゃねぇから!

 次回楽しみ!

 ごめんあそばせ!

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