8話 秘密
倒れ込んだ私に強烈な視線を突きつける一人の男。白髪のパーマ、どこか幼さが残る純粋な目つきが印象的。同時に、威圧感を感じるオーラが彼から感じられる。
『おい、大丈夫か?』
落ち着いた口調で、接してくる白髪の男性。
『都市伝説は本当だったんだ・・・怪物狩りの』
『気をつけろよ。この頃、人の良いとされてる部分の感情を食らう影の怪物が出現してる。あまり外には出ないように。奴らは幸せ者の匂いを嗅ぎつけるのが得意だからな』
彼からの重要な情報に敏感になっていた私はすぐ、遼くん、自分に起きたことの伏線が繋がった。優しい彼が急変し、別人になったあの日。私の何かが崩れ去ったせいで、自殺しようとしたこと。全て、怪物に大事な感情を食われてしまっていたのだ。
『でも、良心が食べられた彼らは、治るんですよね?』
『はあ?治るわけねえだろ?根本がないんだから、そこから立ち直るわけがねえだろ』
私の質問に眉間にしわを寄せて答える白髪の男。何を言ってんだと言わんばかりの表情で。
え・・・じゃあどうして・・・
『むしろ心を奪われた奴は、残酷に人を殺すことも厭わない。そんな奴・・・治す余地なんてないだろ』
なぜ?じゃあ、私たちは・・・
その答えを導き出す間に背後から、足音を立てて向かってくる誰かに感づく。その靴底はローファの鳴らす音に近い。その音と共に近づいてきたのは、息を切らしたあの紘くん。
『ここにいたのか・・・捜したよ・・・』
私たちを捜していた前提で話を進める彼は、地面に倒れこむ私に手を差し出す。彼の優しさに応えるべく、差し出された手をゆっくり掴む。おかげで恐怖で抜けていた脚力は引く腕力で起き上がった。
『ハンカチ使って!』
さらに差し出されたのは、清潔かつ綺麗に折り畳まれたハンカチ。自分の制服を見ると、踏みつけられた靴跡で黒く汚れていた。でも借りることが申し訳なく思った私は・・・
『いいよ!帰ってすぐ洗濯するし』
『使って!岡本さんの服に靴跡が残ってるの見たくないんで』
彼の押しがいつもより強く感じる。押しに弱い私はそのままハンカチを受け取ることに。
そのまま、彼が視界から消えると、刀を握る白髪の男に歩み寄っていく。何をするのかと思えば突然、深々と頭をさげる彼。
『大事な友達を助けてくれてありがとうございました』
もう、敵がいないことと確信した白髪の男は刀を竿に戻す。
『これが仕事だからな』
『あの、また黒の怪物が出くわしたら何なんで、電話番号を教えてもらえませんか?』
『何?』
初対面の彼に遠慮ない頼みを申し立てたせいか、威圧的な眼差しを紘くんに突き出す。
『何かあってからでは遅いでしょう、ね?あなたのプライバシーは守るんで』
そう満面の笑みを見せる紘くんの振る舞いには驚きを隠せなかった。いくら助けてくれたからって、彼は黒の怪物とそれに乗っ取られた人たちを殺している。・・・そういう組織と緊張感を感じさせないやり取りが脳裏に焼き付いていった。
* * *
紘くん、遼くん、そして私3人並んで帰る夕日の帰り道。なぜかわからないけど、とても新鮮な気分になる。
結局・・・
『このQRコードから読み取れ』
その言葉とともに、紘くんは怪物狩りの人の友達を追加できた。でも、そんなやりとりのことより、紘くんには他に聞きたいことがある。その気持ちを抑えられなくなってしまった私はあの質問を突き出す。
『紘くん!!聞きたいことがあるんだけど・・・』
『何?』
わざわざ私と真正面になって向き合ってくれる彼。
『何で私たちは影の怪物に良心を奪われたのに・・・あの怪物狩りから逃れることができたの?普通は・・・心を奪われた人を治す方法なんてないのに』
『何でそr・・・』
彼が言いかけたことを遮ってでも、答えの要求を突き出した。
『答えて!!!遼くんだって怪物に心を奪われたはずなのに、今、こうやっていつもの優しい彼と付き合えてる。私もそう!あの時、心を失って死ぬことを選んでた!!でも今、こうして・・・生きてる』
説得力ある説明を並べていくと同時に、彼の表情が暗くなっていく。
『紘くんは何か知ってるんじゃない?』




