7話 追跡
7月に入り、暑いという言葉が浸透する時期になっていた。
『暑い〜暑い〜』
『暑い〜言うな。そんなのわかってるっつーの』
遼くんの連呼に、喝を入れる理恵。そんな日常に映る一人の男子高校生に私は目を引くようになっていた。その彼というのはあの転校してきた坂口 紘。後に知った話だと、屋上で死のうとしたあの時、彼がいち早く場所を把握していたと言う。そして、遼くんや理恵を呼んで集めたのも彼だと。
それらの行動が私にとって疑問だった。なぜ、紘くんが私の行動を予期できたのか。・・・その答えを知りたいという欲が募っていった結果、度がすぎた行動に出てしまう。
放課後、いつも通り澄ました顔で下校する紘くんの後を追ってみることにした。
『どうしたの?そんな腰低くして』
『あ!!いや、別に・・・』
突然の声掛けに高めの音で反応してしまう。
『紘がどうしたの?』
『本当になんでもない!!なんでもない!!』
なんとか誤魔化そうとするが、慌てた挙動がなお不審に思わせてしまったみたい。でも察しのいい彼は私の考えが手に取るように分かった。
『まあ気になるよな。なんか裏が見えないって言うか、言いすぎると人間に見えない・・・前の優花とそっくりだ』
* * *
どこかの屋上にて。制服の白くヒラヒラした半袖シャツに、紺色のスボンが涼しい風に吹かれる。清々しい姿だが、彼に映る瞳にはどこか真剣な眼差しを突きつけていた、何かを探すような・・・その目先に映るのはあの黒い怪物。また誰かの心を奪おうとしているようだ。紘は急いでその現場へと向かっていく。
* * *
その頃、現代化が進む都会にしては風情がある商店街を延々と歩いていた。
『ここら辺で歩いてたと思うんだけどな』
眩しく照りつける日差しを手で防ぎながら、辺りを見回す私。
私の袖を引っ張る遼くん。
『やっぱり帰ろう。これ以上見つけられないよ・・・』
『そうだね。・・・・ここまで付き合わせてごめん』
素直に話が通じた私たちは、そのまま来た道を戻っていく。その時だった。
辺りを不自然にうろついてたガラの悪い不良たち。彼らは左右大きく揺れながら私と遼くんに差し迫っていく。
『あなたたち、なんですか!!』
そう問いかけても、何も反応しない不良たち。よく見れば、近づいてくる5人とも、目元が黄色く光っている。もしかして・・・遼くんも彼らを見て感づいたのだろう。
『優花!!ここは逃げよう!!』
彼の必死な声と強く引っ張る腕で私も、急いで逃げる。だが、彼らは人間の速さとは思えない脚力であっという間に距離を詰める。そのまま彼氏の遼くんは襟元を掴まれ、弧を描くように投げ飛ばされる。
『遼くん!!!』
遠慮なく私の腹部に蹴りを繰り出す不良たち。それを見た彼らは、歯を見せながら、ゲラゲラ笑い出す。
『ちょうどイライラしてたんだ。お前らでストレス発散させてくれよ!!!』
そこに一人の靴にしがみつく遼くん。
『彼女に・・・・手を出すな・・・』
『ウッセーんだよ!!』
そのまま顔面に強烈な足蹴りをダイレクトに食らう。
『あなた・・・たちに心はないの?』
『ああ!!そんなのいらねえよ!!!』
ヘラヘラ笑う不良を強く睨んだ次の瞬間、5人の不良の間を残像の速さで、一つの影が通り過ぎる。同時にバカにしてた笑いも一瞬で静まる。よく見ると、白い切り込みが不良たちの首、腹部、足に入っている。
『何しやがった・・・』
そのまま、白く光る傷口から少しずつ、皮膚が剥がれていく。気づけば、目の前にいた彼らは白い塵となって、跡形もなく消えてしまった。
辺りの視界がひらけた私の目の前には白髪のパーマが特徴的な男が立っている。日本刀を片手に握って・・・それを見て察した。
『怪物狩りの・・・組織』