4話 侵食
なんだかんだで私が食堂で掴み合いになっていた坂口くんと財閥の息子・吉田の怒りを沈めていた。おかげで、ことは収まり一件落着。その後、何人かの教師が”助かった、ありがとう”と言葉を私に残していった。食堂の出来事だけでいつもの日常とは少し変わった1日だった。
もう時間帯は放課後。このまま期末に向けて、家で勉強するのもいいけど・・・せっかくだし、図書室で勉強しよう。そう脳内で予定を立てた私は必要な教材とノートを自分の席で整理していた。赤く染まる教室で何人かの生徒が楽しそうに会話する音楽の話題。アーティストの名前や曲名を聞くたびに、体の動きが止まる。いやいや・・・もう忘れよう、優花。そう暗示をかける。引き続き、整頓作業へと意識を向け、体を動かす。
そのとき・・・何か不穏な空気を一瞬感じ取る。うまく言葉にはできないけど・・・彼氏の遼くんが拳をふりおこす前の前兆に近い感覚。それもその不気味さは次第に高鳴っている気がする。その正体を突き止めるべく、背後にいる何かに勢いよく振り返る。でも、そこには予定表と大学の案内のチラシが貼られた掲示板。特に何もなかった。挙動が不自然だったのだろう。理恵と同じくらい大事な友達・橘 萌絵が私に声をかける。
『大丈夫?』
『ごめん、何か忘れてないかなって予定確認しただけ・・・』
適当に理由をつけて、図書室に向かおうとした時だった。その不気味な雰囲気を醸し出していた何かを目にすることになる。赤く染まった夕日の光で生まれた自分の影。そこに影にぽっかり二つの穴が開いた。顔の部分には白く光る2つの目が、自分の方を見ていたのだ。
キャアアアアアア!!
思わず、普段は出さないであろう悲鳴をあげていた。でも、状況は変わらず。むしろ、絵に描いたような口が生えてきて、ニタニタ笑いかけてくる影。
『本当に大丈夫?』
あまりに様子のおかしい私を、心配そうな目で見てくる萌絵。しかし、そんな周りの人に返事を返す余裕もなく、そのまま影ができない、見えない物陰へと走り出していく。自分の影から浮かび上がる顔が記憶の中に焼きつかれていく。もう見たくない!!とにかく、自分の影ができない場所・女子トイレへと駆けていく。あそこなら、光も入ってこないし、大丈夫。
そう・・・思っていた。
様式の便器にうずくまる私。気づけば、冷や汗で服と肌がのりのようにへばりつく。しばらく、ここで休もう・・・勉強のしすぎで頭がおかしくなった可能性もある。認めたくないけど・・・。しばらくトイレで休んでいた私は平常心を取り戻していく。その平常心を信じて、洋室のトイレから出ようとすると、そこには目の前に立っているあの影がいた。さっき見た白い目と笑いかける口元。その影と目があって数秒後のこと・・・
なんか自分の内側が蝕まれていく・・・何が・・・起きているの?
* * *
『優花ちゃん、どうしたんだろう?トイレに走っていったきり、出てこないけど・・・・』
教室にいた萌絵は優花のことが心配になったのか、トイレの前まで様子を見ることに。そこには下を俯いた彼女、表情は隠れた長い前髪で読み取れない。
『どうせ、私のこと・・・恨んでるんでしょ?優等生ぶりやがってとか思って・・・』
様子を見に来た彼女に向かって突然、皮肉を込めた口調で語りかける。
『どうしたの突然?そんなこと思ってないよ』
『嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!いい人ぶって周りからの関心を集めようとしてるって思ってるだろ!!!自分でもわかってる。でもこうやってしないと私は生きられないんだよ!!だって・・・』
彼女の気持ちはまだおさまらない。次第に彼女から溢れる負の物質が目に見えるようになった萌絵に・・・
『あなたちは夢があって、それを持つ権利があるんだからいいよね・・・萌絵はイラストレーターか漫画家になりたいんだっけ?その夢、今私が奪ってあげる!!』
明らかに優花の声質ではない。何かに取り憑かれたような彼女は勢いよく、手元に握っているナイフを萌絵に目掛けて、切りかかる。そこに、また坂口紘が割り込んでくる。握ったナイフの手首を掴んで。
『おい!!岡本さん!!!目を覚まして!!!』
瞼を閉じたり繰り返すその仕草。気づくと、黄色に光った瞳に色が変化していた。それを目にした紘は覚悟を決めた表情で・・・
『岡本さん・・・許して』
そう呟いた瞬間、手元に握るナイフを高い足蹴りで吹き飛ばす。
その次に起きた行動・・・それにクラスの女子生徒は目が離せなかった。なにせ優花の胸に向けて、思い切り拳を突き出しているのだから。




