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デイズ -名も無き魂の復讐者-  作者: 竜
Season1
21/37

最終話 本当の愛

(紘目線)

草木で生い茂った無人島。その影響もあってか、1本道に引かれた通路も見当たらない。萌絵には、黒山島に近づいてる敵を見つけた場合は、信号拳銃を空高く打つ”見張り役”に頼んだ。どうやら、この浜辺から目的地までそう遠くない距離にあることから、信号は見えると判断した。紫苑先頭で、草木の中を進んでいく俺たち。島の中心へと近付いてくうちに、傾きを感じさせる斜面が現れる。


『おい!!しゃがめ!!!』

紫苑の合図で、一斉に腰を低くする一同。俺に視線を突きつける紫苑が手招きする。彼の誘導に紫苑の位置まで顔を覗かせると、その先には、何体もの怪物が辺りをうろつく姿が映っていた。さらに先には、あるはずのない人工物の建物が立っている。よく目をこらすと、廃墟と化した洋館のようだ。窓が何枚もあることから、なかなか大きい洋館であることは間違いない。

それよりも、あたりの怪物をどうする?そう言わんばかりの眼差しを俺に突きつける。

『俺と紫苑が囮として付近の怪物を引きつける。その間に、優花たちにあの洋館に辿り着かせる』

覚悟を決めた鋭い眼差しと共に、うなづいた紫苑の仕草でこの作戦は可決。その作戦を、優花たちに知らせる。

『それじゃ、紘と紫苑が・・・』

隆文が思うことはもっとも。だが、これ以外思いつく作戦はない。

『頼む。この作戦で動いてくれ』


すると突然後ろから微かな銃声と空高くに上がっていく赤色の煙が、確認できる。誰かが来たのか!!!もう吉田財閥がここまで駆けつけてきたのか!?

『もう急がねえと!!!』


*  *   *


『おい、怪物ども!!!』

不良に匹敵するほどの荒々しい口調で、紫苑は、怪物たちの注目を集める。

『ここにおいしい朝ごはんが待ってるぞ!!だがな、朝飯前に俺たちとの鬼ごっこだ!!!』

一斉に口元の口角が上がると共に、見せる白い口元。餌に食いついた。

『よし走れ!!!!』

紫苑の合図で、全速力で緑に塗れた自然の中を駆け抜けていく。影の怪物のほとんどが一斉に後を追いかけてくる。

『俺は左へ!!お前は右へと分かれるぞ!!!』

紫苑の指示通りに、少しでも怪物を少人数へと抑え込む。

『ああ!!絶対死ぬなよ!!!』

俺は彼にその言葉を残し、樹木の横を通り抜けていく。さすがの大きい図体にいくつかの怪物は枝が絡み、抵抗できない様子。とそこに金属の鋭い光が俺にめがけて降りかかる、瞬時にしゃがんだ勢いで、その危機から乗り越える。

『新幹線の時はどうも』

若手男子の幼い声と共に顔を出したのは、紫苑が名指ししていた相手・桐島 慎也。

『あなたとの決着、ここでつけさせてください』

その言葉に、俺も覚悟を決める。この男の剣術で一回、死にまで追い込まれた。今度こそ・・・

鋭い刀を突き出した桐島は、容赦無く俺に斬りかかる。


*  *  *

(優花目線)


紘たちが引きつけてる間に!!!その気持ちを背負いながら、駆け足で古びた廃墟へと入っていく。手入れされてないだろう植物がドアまで絡みついている。何とか扉に絡まった草木を剥がして、玄関の扉を開ける。開けた勢いで、煙と共に現れた長い廊下。

『ひとまず、紘が言っていた階まで上ろう』

理恵の一言で、それぞれ1階の大きい空間へと歩み出す。どうやらリビングであろう先に階段があるようだ。それを目視で確認できた私は、また足を進める。その時だった。長い廊下と1階のリビングの境界線となる扉が、唐突に閉まる。リビングに足を踏み入れていたのは私だけ。私と理恵、隆文に前に立ち塞がる扉をこじ開けようとするも、ビクともしない。これも影の怪物の仕業なの?

そこに階段を降りてくる一人の影が浮かび上がる。

『誰!?』

『久しぶりだね、優花』


*  *  *

(紘目線)

降りかかる剣さばき。だが自分に兼ね備えられている瞬間移動を使えば、あっという間にかわせる。向こうも瞬間移動を使える状況下だと、格闘はほぼ互角。桐島の鋭い剣が触れそうになるも、荒れた息と大量の汗から。体力が失っている様子。その隙にめがけて拳をお見舞いする。

『うっ!!!』

顔面にヒットした拳で、よろけながら後ずさりする。

『何で・・・なんで財閥と怪物に抗うんだよ!!!』

爽やかな口調とは別の一面、鬼瓦のごとく怒り狂う桐島は、幾度ともなく剣を突き出したり、振りかざすが、どれも動きが遅い。最後のケリとして、瞬間移動の勢いに込めたタックルで、桐島をひれ伏させる。

『なんでお前は吉田財閥側についたんだ?』

『抗うことが一番苦しいのは・・・お前がわかってるだろ!!!・・・だいじな人も傷つき、自分も犠牲になる。だから俺は利益がある方、勝ち目がある方についた!!!』

そんな彼の考えには共感できなかった。

『必ずしも、弱い者が負けるとは限らない。吉田琢磨より・・・強い信念や思いやりで、行動する人たちはたくさんいる。俺はそういう人の方が輝いて見えるし、きっとそう言う奴らが最後に打ち勝つと信じてる』

『あああああああああああ!!!!!』

怒り狂った叫び声、四つん這いになっていた身を上げ、桐島は最後の力を振り絞る。だがそんな攻撃を食らうはずもない。また素早い攻撃で、地面を這いつくばらせる。

『僕が負けた理由は・・・そこなのか?』

『お前は吉田のやり方が間違ってると気づきながら、本心に従えなかった。だろ?』

『なんで・・・わかる?』

土の汚れが染みた桐島に、答えを見出す。

『君を見ればわかる・・・きっとその矛盾が君をこんな風にしたんじゃないのか?』

呼吸が荒れた彼はしばらく、地面に顔をうずめることしかできなかった。嗚咽した泣き声と共に。桐島を最後に、後を追いかけてきた辺りの怪物は、全てねじ伏せた。あとはあの建物に向かうだけ。俺は洋館のある方へと走っていく。


*  *  *


能力の力を使って向かった先には、あの洋館。優花たちが入っていったであろう玄関ドアを開け、一直線の廊下先に広がる部屋へと歩んでいく。あの時の記憶通りなら、3階の扉が影の怪物につながっている。そのまま軋む階段を駆け上がっていく。そこには少し涼しい風と一緒に現れたあの扉があった。

『そこまでだ』

目の前に希望が見えた俺の横から、聞き覚えのある声を耳にする。物陰に隠れていた場所から現れたのは・・・あの死んだはずの・・・遼だった。

『お前・・・・・・なんで?』

今見えたはずの現実は遼の登場により、天地がひっくり返るほどの衝撃が走る。頭が真っ白になると、身動きできないくらいに。確かにあの時・・・息を引き取ったはず。

『本当に・・・遼なのか?』

『遼なんて人物は、この世に存在しない』

『え?』

遼と同じ外見をしたその男はそう告げる。驚きの連続に目が離せなかったが、すぐに答えは出た。影の怪物が人間へと変身できる俺ならなおさらだ。目の前に立っていた遼は徐々に、人間の姿からあの影の怪物へと変身を見せる。その姿を見て、確信した。

『・・・師匠』

そう。今まで遼という人物を演じていたのは、師匠という名で慕っていた育ての怪物だ。

『師匠・・・ずっと岸本遼という人間になりすましてたんですか?』

『なかなかの名演技だったろ?お前が負の感情を取り込むほど、人間世界に憧れてるみたいだったから、俺も試してみたんだ。本当に人間が興味に値するほどなのか・・・』

大きい体の影の怪物として現実をつき受ける師匠。遼の正体が怪物なら、妹の岸本理恵は・・・

『じゃあ、岸本理恵は?兄さんがいたと思い込んでるだけ?』

『ああ。本当は岸本家は理恵っていう一人娘だけ。だが俺のマインドコントロールであっという間に、兄さんがいたと思い込んでる』

一つの謎は、今の発言で解けた。次に突きつけてくる人間世界のこと。その答えに俺は身体が震えていた。

『それにしても人間は愚かだな。負の感情まで取り込んで損したよ。バカなことで喚くし、どの人間もどこか欠けてる不良品だ。それにお前が恋した優花も大したことないな』

その一言で、身体中に力が込み上げてくる。血管の筋を浮き出すほどの力で。

『優花はどこにいる?』


『間に合ってよかったよ』

師匠とは違う声が、別の物陰から聞こえてくる。その声にだいたい見当がついた。予想通りそこから現れたのは、優花に銃を突きつける吉田琢磨の姿。

『私をここまで追い込むとは・・・冷や汗かいたよ。それにしても、影の怪物と契約を交わしといてよかった』

『まさか師匠が・・・吉田琢磨と手を組んだ?』

『そうだ』

自分が慕っていた師匠が黒幕と手を組んでいたことに、肌の色は、血管がはち切れそうなくらい真っ赤に染まる。だが、優花が囮にされてる状況を見ると、怒り任せに攻撃を仕掛ける余裕はなさそう。


『窓の外を見てみろ』

琢磨の挑発的な態度に逆らえず、窓の方へと視線を向ける。そこには、隆文、萌絵、理恵の後頭部に銃を突きつけた護衛が、上を見上げていた。俺が映っている窓際に。だが俺には鼻で笑う余裕があった。なにせあっという間に護衛が地面に伏せられている。紫苑だ。あとは目の前の優花を助けるだけだ。

『窓の外がどうした?』

さすがに余裕を見せる俺に違和感を持ったのか、琢磨は窓辺へと動き出す。

『もう終わりだ。吉田』

チェックメイトを決めたごとく、清々しい表情で彼が降伏するのを待ちわびた。

そこに階段を駆け上がってきた紫苑も登場すれば、抵抗できないだろう。


だが・・・ 追い詰められているはずの彼、琢磨は親しい間柄のように紫苑と接する。


『おー!如月 紫苑か。いいとこに来たな。お前に話したいことがある』

”話したいこと”?。なんのことか見当が付かぬまま、彼は俺のことを指差す。

『君が長年追いかけていた事件の犯人がわかったよ。今そこにいる彼・・・君の大事な彼女さんを殺した張本人だよ』

突然の事実に、紫苑は何も信じられなかった。

『説明しよう。君の彼女さんは確か、不良のナイフによって刺殺してしまったのは覚えてるよな。その不良の良心は紘である彼が奪ったから・・・二次被害として君の彼女さんが巻き込まれたのさ』

その話に紫苑は目が泳ぎ始める。同時に、俺の脳内には様々な場面がフラッシュバックする。確かあの日の夜、俺は一人の不良高校生の良心を食らった。それが紫苑の彼女が殺される結果になるとはおもわず・・・


9話より

"『楓・・・には手を出す・・・な』

『うるっせえんだよ!!』

容赦無く日向という男の顔面に足蹴りを食らわせる。

『もういい。やれ!』

その言葉と共に、不良高校生の仲間が持ち出したのは大きな金属バット。重圧感を感じさせるバットを握りしめた男は、地面で身動きしない日向に歩み寄っていく。

『まずお前から終わらせてやる!!じゃあな!!!』

*  *  *

『ありがとうございます!!!』

アザと血で埋めつくされた身になっても頭を下げて感謝を示す日向とその彼女だと思われる女子高校生。

『なるべく安全な道を通るようにしろよ。二度とこうならないためにも』

助けた男の言葉を機に、長い道を歩んでいく。

男の方が足を引きずりながらも、肩に手を置いて彼女が寄り添うその姿に目を奪われる紫苑。

*  *  *

傷だらけの二人が帰っていった道に視線を向ける。その男の目には無事に帰れたことを祈るようにしか見えなかった。

『自分と重ねてしまっただけだよ』”


*  *   *


『なあ、嘘なんだろ?』

俺が答える間も無く、琢磨は、自分の携帯に録画していた監視カメラの映像を見せる。そこには不良少年が乗っ取られる前に映った怪物の姿がしっかりと捉えられていた。確かにあの金髪染めで、制服の下に赤シャツをチラつかせていたこの男。俺が追い詰めた男だ。


『なあ紘。今ここで影の怪物に変身しろ!さもなくば、こいつの頭に風穴開けるぞ』

そう優花の頭に練り込む銃が嫌なほど、脳裏に焼きつく。これ以上、足掻くことができなかった俺は、そのまま紘から影の怪物へと変身する。紫苑の目の前で。監視カメラの映像と全く同じ位置に生えた二本の角に、灰色に近い皮膚の色。影の怪物は個体によって形や色合いが異なる。そのことを熟知していた紫苑は・・・今までに見たことない剣幕な顔で襲いかかってくる。


『この裏切りもんがああああああああああああ!!!!!!!!』


大きく振りかざしただけで、強烈かつ鋭い風が巻き起こる。その威力は床が抜けて、そのまま2階へと崩れ落ちるほどだった。桐島の時より、素早い剣さばき。感情任せな振りかざしでも威力のを込めた攻撃。それに身は大きく壁際へと投げ出される。

『っく!!!』

『お前が俺の大切な人を殺したも当然だ!!死ねええええええ!!!!!!!!!』

四つん這いで地面に伏せていた俺の首元へと刀を振り落とす。

なんとか瞬間移動で避けるも、彼も同じく瞬間移動で俺の身体に切り傷を入れ込む。


*  *  *

(優花目線)

『さあお前たちはもう散り散りだ。早く鍵を渡せ』

私の手に強く握られていた鍵を、さらに強く握る。銃という恐怖に怯えながらも、みんなが諦めてこなかった結晶を言葉として突き通す。

『ここまで来たのに、諦められるわけない』

するとめり込んだ銃がさらに押し付けられる。萌絵、理恵、紫苑、隆文そして紘が繋いできたバトンをここで放すわけにはいかない。その気持ちは頂点へと達し、背後にいた琢磨に背負い投げをお見舞いする。身が宙へ、高らかに上がっるほどの威力で。

『私たちの復讐劇をなめるなあああああああああああ!!!!!!!!!!』

今まで下された苦しみや悲しみ、そして怒りをこの背負い投げに込める。そのまま一回転した身体は抜けた床の底へと落ちていく。無様な声と共に。


そして次の相手は高みの見物をしている影の怪物。その彼に睨みの視線を突きつける。建物に入ってくる風も、私の本気度に応えるかのように、乱れた髪をなびかせてくる。

『ずっと人間になりすまして、近づいてたのね・・・岸本遼』

『その名前は仮だ。良心を食らうこと以外は、人間と関わりたくないと思うほど退屈だったし・・・愚かだったよ』

『そう、あなたの言う通り。人間は愚かだし、欠陥がある不良品に近い存在。でもそれが生きる糧へとなっていくんじゃない?』

私の一言に白い視線を向ける怪物。

『完璧じゃ・・・つまらないでしょ?どこか足りない部分があるから他人を必要とするし・・・そこを改善しようと前へ進んでいく。それが私にとって人を愛おしいと思える瞬間なの』


優花のような人間には見えないが、何本もの白い糸で彼女の感情をコントロールしようとする影の怪物。だが、全くそれらの攻撃が効かず、影の怪物は目をパチクリとさせる。


『どうして・・・効かない!?』

思わず、動揺を言葉にせざるを得ない怪物に対し、私・優花は真実を突き出す。

『もう影の怪物なんかに負けませんよ』


感情を操れない以上、言葉で、人間世界の現実を突きつける影の怪物。

『世の中にはどうにもならない奴もいるぞ?なんでこんな奴が生きてる?消えてしまえばいいのにと。』

『その悪と言われる存在がいるからこそ、対照として善が生まれる。それは感情も同じ。悲しみや苦しみがあるからこそ、喜びを感じる時間が大切な一時だと思えるんです!!!』

そう怪物に言葉と気持ちで挑む。初めて彼らと話せる機会だから・・・今まで私が経験してきたことを言葉として伝える・・

『私はそんな日々が・・・人生が誇らしいです』

気づけば、頰に涙の線を描いていた私は、糸状の線を焼きつくすほどの勢いで怪物の洗脳を解いた。これ以上抵抗を見せることができない怪物は・・・

『なら・・・人間に成り代わっても・・・それに気づなかった私が愚かだということになるな』

それ以上、何にも言葉にできないのか、怪物は黙り続ける。

『もう俺が君を襲う理由はない。早く行け!紘のとこに・・・』

降伏させた彼を背に、私は急いで紘の元へと走っていく。


*  *  *

(紘目線)


『っく!!!』

思い切り身をぶつけた俺は次第に視界が霞んでいく。

『どうした?その程度か?』

強烈な蹴りを顔面、腹部へと喰らい、さらに意識が遠のいていく。

『よくも平然と生きてたな?人の大切なものを奪っといて・・・お前の罪は・・・これしきのことでは償えない』

この建物に舞っていた埃や煙が雪のごとく降り始める最終決戦。そこに僅かな光が差し込んでくる。

その光と同等の力でしか、体力や気力を保てない。怪物の時は当たり前だったことが・・・人間世界だと、とんでもない過ちと変わり果てる。それが胸に身に沁くほど痛いものだと心で感じる。

『ごめん・・・なさい・・・』

今できるのは息だけの声で・・・反応するだけ。だがその無様さに怒りをあらわにした彼は、またもや刀を振りかざす。

『もうやめろ!!!」

そう紫苑の背後から止めに入るのは、あの隆文。

『俺には大切な人を失うことが、どれほど辛いことなのか・・・わからない。だが、彼を殺すのは絶対間違っている』

『お願い!!もうやめて!!』

隆文に続き、優花の声が聞こえてくれる。

同時に俺の前に現れたのは、必死に守ろうとする力強く、凛々しさに満ち溢れた優花の後ろ姿だった。だがこれ以上ブレーキのかからない紫苑は、後ろにしがみつく隆文を振り払い、止めに入る優花を吹き飛ばす。そうして再び振り落とされる刃。もうこの攻撃に逆らうことはできない。もう・・・いや!!!違う!!!違う!!!!



その強い意志を灯した瞬間、振りかざした刀を手の平で受け止めていた。手から赤く染まっていく血の海。

『まだ・・・死ねない・・・この戦いを終わらす責任を果たせず・・・死ぬわけにはいかない!!』

だが、手の平に入り込んだ刃はさらにめり込んでいく。痛みなんてすでに通り越えている。これ以上追い込むかは、紫苑次第だ。しばらく鋭く牙をむいた眼差しとにらみ合いっこしていた。だがやっとの事で手から離れた刃。そのまま彼は何も言うことができず、その階から去っていった。

『紘!!!』

気づけば拒まれたはずの俺は、優花に強く抱きしめられていた。

『もう終わったのよ!!!紘!!!あとは鍵で閉めるだけ!!!』

『・・・なら早く行こう。浸るのはそれからにしたい』


* *  *

俺の言葉で、例の師匠がいる3階へと登っていく。そこには、紫苑、理恵、萌絵が並んで見送っていた。もうわかってる。

『お嬢ちゃんに言わなくていいのか?』

師匠はやっぱり勘の鋭い方だ。そう思い、一直線に優花の目を見つめる。

『優花。怪物にならない代わりに、人間としてこの先もずっと生きていく。そう約束したよね?』

俺の確認に深く頷く優花。

『悪いけど、その約束は嘘なんだ・・・』

その一言で喜びの瞳からうるうるした涙目に変わっていく。

『え?なんで?』

『この鍵を閉めれば、この世にいる怪物は全て消え去る。たとえ別の場所にいても。だから、ここで鍵が閉まるのを外で見ていたとしても、俺の肉体と心は自動的に向こうの世界へと飛ばされる』


しばらく溢れ出す涙を止めることはできない優花。

『・・・そんな・・・お別れしたくない。なんで!?そんなことしなくても、他に方法があるかもしれない!!!』

『ううん、もうない』

心の中では酷く痛むが、きっぱり伝える事で、愛す彼女を突き放すしかなかった。


『最後に聞いていい?あなたが昨日話してくれた時に出てきた女の子・・・あれ私なんでしょ?』

『そうだよ。ずっと君のことが好きだったんだ。だから、君が幸せになるように頑張ってきたつもりだ』

『その気持ちに・・・私は今日まで気づけなかった・・・』

泣き崩れた優花はそのまま、地面へと顔を埋めてしまう。

『だけど、君といたこの夏休みは、とてもかけがえのないものばかり。それに人間世界がいかに魅力的なのかを教えてくれたのも君たち仲間だ』

そう俺は一人一人の顔と向き合う。


『ありがとう優花。愛を教えてくれて・・・もう後悔なんてない。本当に幸せだった』

その言葉を最後に、俺は彼女を強く抱きしめる。


*  *   *


(優花目線)


そうして、隆文を代表に、影の怪物とこの世を断絶する鍵を目の前の扉に差し込む。

『じゃあね、みんな!!!ありがとう!!!』

その声とともに、紘と師匠と呼ばれた影の怪物は眩しい光に包まれていった。その光はやがて塵となり、空高くへと飛び立っていく。私はその光景から目が離せずにはいられなかった。そして涙も抑えれなかった・・・



*  * *


その後、その島を管理している県は、黒山島の洋館は燃やしたそう。影の怪物と再び契約を交わす者が現れないように。続いて吉田財閥の犯罪に触れる行為、そして、吉田財閥の不正に対する告発を、前川結城の母親である副社長がしたことで、財閥は解体した。働いてた身としては大損害だが、彼女は正義を選んだ。そうして、全てのことを終えた。


*  *   *


その一連の出来事に関わってきた私だが、今ではおとぎ話のような世界にまで現実離れしていた。


『なんか、壮大かつ考えさせられるような話でした。本当にそんなこと・・・あったんですか?』

その話に興味を抱いていた一人の後輩がそう問いかける。

『長話させたのに、信じないつもり?』

『イヤイヤ、そんなことないですよ!!!』

私が怒ったかのように見えたのか、慌てて誤解を解く仕草を見せる。まあ信じられないのも、無理はない。


*  *   *


それから3ヶ月後のこと。私は軽音部の練習を終えた後、そのまま電車を使って塾に通う毎日を送るようになっていた。いつものように変わらない電車内の風景だと思っていた。でも、その時、つり革に手を乗せていた私の横に、身長の高い男性が現れる。あまりの存在感に、軽く視線が移ると・・・そこには見覚えのある人物にそっくりの男性が立っていた。まるであの人が帰ってきてくれたかのように。






ここまで読んでくださり、ありがとうございます。夏休み期間中に完結という事で、だいぶ誤字脱字や矛盾がありました。ですが、『デイズ』で何か心に残るような言葉や場面が一つでもあれば、大変嬉しく思います。今まで、本当にありがとうございました!!!もし気が向いたら・・・番外編を書くかもしれません。その時はまた、よろしお願いします!!!


*追記:みなさんのおかげで、最終回後のPV数(”自分の作品”デイズ”のみの記録で)は今月第1位となりました!!本当に感謝の気持ちでいっぱいです!!! ありがとうございます!!!

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