19話 決戦前の夜 (修正版)
鳴り響いている通知が、ある携帯画面に映っている。名前を見ると”桐島 慎也”からだ。
その相手に反応するべく、あの男が携帯を手に取る。
『もしもし?』
『琢磨さん。桐島慎也です。』
『紘たちは連れ戻せたかな?』
『残念ながら、できませんでした』
桐島 真也の一言に眉間にしわを寄せる琢磨。
『なんだと?』
『あと・・・吉田隆文を操っていた怪物が殺されました』
桐島の言葉から生まれてくる衝撃な事実。
『つまり・・・隆文は?』
『今頃、本来の自分に気づいて、紘たちと行動を共にしてるでしょう』
次の瞬間、彼の中で切れ、目の前の椅子を思い切り蹴り上げる。
さすがの物音にそばにいた秘書はビクッと体を震わせる。
『それで・・・あいつの行き先がわかってるのか?』
『島に向かってるのは確実ですが、彼らの足取りはまだ追えていません』
何にも情報がつかめていない桐島に怒号を浴びせる。
『何をやっている!!!!!!見当がついてるのに、何もできないとは・・・早く見つけてこい!!!!私もそちらに向かう』
『ですが・・・・』
『お前だけでは、何もできないクズだ。私も今すぐ向かう』
そう上着を羽織った彼は、そのまま室内から勢いよく消え去っていく。
* * *
(理恵目線)
優花と萌絵の迎えでやってきたのは、結界前に佇む(有刺鉄線による)フェンス前。
『ここは?』
『影の怪物で、やれらた人々と街。このままじゃ、日本中に広がってもおかしくないのかもね』
そんなことを話していると、結界の内側から、迎えに来た紘たちが現れる。
『なんとか、道は開けることができた。こっちに入ってこい』
どうやら、私を探してる間に結界にいた怪物を全員倒したとか倒してないとか?でも優花の話が本当に正しくて、汚染されたはずの町を普通に歩けるなら、怪物の駆除は完了したということになる。
まあそんなことを考えながら、崩壊した町のど真ん中を歩いていく。ところどころ、家の壁一面にかかった血痕跡や破壊された破片が転がっている。
『心を失うと、こんな事態まで起こしてしまう』
紫苑はそう事態を重く受け止める。それは私もそうだ。
* * *
(紘目線)
『本当にこの先に。隆文の別荘があるの?』
理恵の疑問に、隆文は面と向き合いながら答える。
『あるよ』
その答えを聞き出してから10分後、見えてきたのは、廃墟と化した住宅街とは縁を感じさせない立派な建物。歩いてる間に見てきた日本式の家より頑丈なコンクリート製の建物。そして庶民であろう住民と距離を置くためにも、周りの壁が威圧感を与えている。そして住宅街の崩壊とは鮮やかで綺麗な海が広がっていた。
『これが家?立派すぎないか?』
あまりの高級自宅に開いた口が塞がらない。隆文にとって見慣れた光景なのか、そんなことを御構い無しに、建物中へと入る。住宅の横側から見える広大な海と綺麗な色合いをした砂浜。この先には、かすかに見える島らしき影。
『ついにここまで来た』
俺の中で、少し希望が見えた。
『ここまで来たね』
優花は久しぶりに晒した俺の笑顔に、優しく応える。
だが、なんだかんだで、夕方の紅の日が突き出ていた。住宅内のの案内でもしていたのだろうか、階段を降りてくる紫苑が急いだ足並みで俺のとこに詰め寄る。
『今すぐ行かないと。日が沈んでしまえば、真っ暗闇の島で迷子になるぞ』
『今日はやめといたほうがいい。荒波がきてるし、このまま向こうの島へ行ったって目的地に着くかどうか・・・』
焦りを見せる紫苑に冷静な見解を下す隆文。
『何言ってるんだ!!今すぐ終わらせないと!!』
『焦りは禁物だよ』
紫苑の荒ぶった口調に淡々と返事を返していく隆文。俺はその彼の意見に同意した。
『そうだな。今日は、みんなと過ごしたい』
今まで誰よりも事態の収拾を望んでいた俺が初めて冷静な決断を下す。その違和感に、紫苑もひそめた眉と細々とした目つきで俺に向けてくる。
『・・・みんな全員が、生き残れるとは限らないし』
初めて弱音を吐いた。というかここまで来ると、急に自信を失う。もちろん、誰も死なせるようなことにはさせないと思いつつも、みんなが無事に帰ってくる確証がなかった。
『せっかくだし、後悔しないよう、みんなで楽しいことしたいんだ』
『はあ?』
俺の向ける視線にあったネットを見て、やりたいことができた。そこに紫苑も視線を集める。
『俺のわがままを聞いてくれ』
そうみんなにお願いした。
* * *
(紘目線)
最初は、目にしてきた住宅街や決戦前日ということもあって、他のみんなは乗り気じゃなかった。だが、いざやってみれば、みんなの笑みがこぼれ始めてる。表情が曇りきっていた紫苑さえも。
笛とともに始まったサーブ。綺麗な放物線を描いたものも、相手の隙ができるポイントに打ち込む優花。だが、瞬間移動で、優花の攻撃を防ぐ相手チーム・紫苑。
『ちょっとそれは反則だろ!?』
『始める前に、禁止って言わなかったこと後悔するんだな』
(紫苑と同じチームの)理恵のパスで上へと押し上げられたボール。それをチャンスに変えるべく、高らかに飛んだ身でスパイクを決める紫苑。優花が地面スレスレになりながらも、その強烈なスパイクを受け止める。
『ナイス!!!優花!!!』
優花のナイスプレーに応えるかのように、強烈なスパイクをお見舞いする。だが瞬間移動でまたもや防がれる。
『おいおい!!男なら能力なしでかかってこいよ!!!』
俺の挑発に乗ったのか、Tシャツを脱ぎ始める紫苑。鍛えられた筋肉美と共に、突き出す鋭い眼差しで、本気を口にする。
『じゃあ、見せてやるよ!!!』
再び笛の合図で開始された試合。順調に綺麗な連携でつないでいくパスに、男たちがアタックを仕掛ける。あ!!!
ついに、隙が生まれたポイントへと打ち込んだ優花のボールで点が、追加される。
『上手いな!!』
ハイタッチを要求した手に、優花は優しく応えてくれる。
『このまま勝つよ!紘!!』
優花のかけ声で引き締まった紘、優花チーム。
俺も見せられるところは見せないと!!!かっこいいプレーをお見舞いだ!!!その気持ちを込めて撃ち込まれたボールは変わった軌道で、点を増やす。
『なんだ!!??今の!!!』
さすがのレアプレーに目を真ん丸とさせる紫苑と理恵。
* * *
圧倒的点差で紘、優花チームの勝利。次は、萌絵、隆文チーム。久しぶりに恋仲同士で一緒にするのが、恥ずかしいのだろうか、ぎこちない様子が二人の目に表れている。試合ではどんなチームワークを見せてくれるかな?笛が始まってから数分間、見せてくれた二人のチームワークはグダグダだった。でも次第に点を取り返していく萌絵、理恵チーム。こっちも負けられまいと、あの攻撃を食らわせる。優花の綺麗なトスで、またあのスパイクをお見舞い。綺麗な軌道で相手の隙をつく。優花との完璧な連携はプレーだけでなく、ハイタッチもだ。
その後もいろんなことした。ビーチフラッグや高級別荘に置かれたゲームで対戦、手持ち花火まで楽しんだ。そんな楽しい時間はあっという間、空が真っ暗になる時間帯まで遊びつくしていた。結局は、俺と優花以外は遊び疲れ、寝てしまった。
その頃、(別荘の)どの部屋にも見当たらない優花を追うように捜していると、浜辺で座り込んでる彼女を発見する。
『ここにいたのか』
俺の声掛けにゆっくり後ろに振り向く優花。
『うん・・・もうちょっと楽しい思い出を噛み締めていたいから、ここで浸ってる』
彼女の言葉からは、どこか心を開いたように感じ、隣へと座り込む。それに対し彼女は、隣に座る込むことを拒むような表情や動作は全くなかった。
『あなたはどうするの?紘は影の怪物だから、向こうの世界に帰るの?』
少し儚げな横顔で・・・質問を持ちかける彼女。
『まあ最悪、怪物にならなければ人間としてこの先もずっと生きていけるかもね』
『絶対そうして』
突然、真剣かつ彼女なりに出た低いトーンで訴えかける。どうやら本気みたいだ。
『これ以上、誰も失いたくない・・・』
『分かった・・・約束する』
紘にはいてほしい、そういった真剣な眼差しに俺は見惚れていた。誰かに想われることを、身に染みたことがなかったから。
『君の話、詳しく聞きたいな・・・負の感情まで取り込んでしまった怪物の話』
真剣な眼差しからおおらかな瞳で、優花は微笑んでくる。同時に心臓の鼓動が高鳴っていく。これは、恐怖といった時に高鳴る鼓動より、緊張で引き起こされた鼓動音に近い。
『紘?』
本当の気持ちに気づいてしまった自分に驚きを隠せず、彼女の頼みに反応することを放棄していた。
『ああ、俺は”師匠”と慕っていた影の怪物と共に、ある一家の良心を獲物として選んだんだ。その家には大きな庭があって、草木に隠れれば、気づかれないほどの大豪邸だった。最初、師匠が獲物の狩り方を見せるべく、その一家の父さんらしき人物の良心を食らった。でも、そんなことより俺は、、、その家に住んでる女の子に好意を持ってしまったんだ。』
淡々と話を進める彼女は顔を向けながら、親身に寄り添う。距離の近さは互いの肩が触れ合うほど。さらに心臓の鼓動は高鳴る。
『だが数日後、師匠の見本通り狩りを実行するべく、また同じ家を訪ねた。そこには激怒した父が家出する姿が目に映った。同時に、しがみつきながら泣きつく彼女に、またもや気になっていた。どうして泣いてるの?怪物は負の感情を食べたことがないから、負がどういうことなのか、わからなかった。だから彼女の笑顔をもう一度見たいという気持ちを込めて、負の感情を取り込んだ。結果、人間と同等の感情を持つことができたってわけ』
その話を聞いて感激したのか”わあ”とアメリカ人のような訛りでリアクションを見せる。
『なんかビビっときたかも。その大豪邸の話は、私の一家が前住んでたところと似てるし、状況も紘が話したのと同じ。まさかその女の子、私だったりしないよね?』
俺は無言で何も返せないまま、彼女の肘が肩を突く。
『冗談だよ!!』
そのときに満ち溢れた笑顔がまた鼓動が高鳴らせていく。もう顔が赤くなってるんじゃないかと思うくらい。
『私ね。父さんが吉田財閥に関連する会社で働いてたんだけど・・・ある日を境に、彼は母や私に暴力したり、暴言を吐くようになっていたの。よっぽどブラック企業だったんじゃないかと思って、母は転職を勧めたんだけど・・・なんだかんだで父さんは帰ってこなくなった。噂では愛人ができたとか・・・』
そう優花から告げられた事実にまた目が離せなかった。
『そんなことが・・・』
『でもね、しばらく悲しみに浸っていた私の中から・・・何かがスッと消えたの。確かに失ったものはあるけど、まだ大切な母親がいる。家族がいる。だからまた前を見て歩こうって・・・私何いってんのかな〜』
これ以上自分の話をするのが恥ずかしいのか、照れくさそうに頰をかく。
『立派だよ。優花は・・・』
気づけば、彼女の頭を優しく包み込むように撫でる。
『急にどうしたの?』
それと同時に、撫でる俺の手はゆっくり退けられてしまう。
『さすがにそれは・・・』
遼の思い出と重ねてしまった彼女は、俺の想いから距離を置く。自分も本心に逆らえず、突き出してしまったが、彼女の抵抗で我に返る。
『ごめん・・・』
俺は自分のやってることの無責任さがこみあげてきて、謝罪する他なかった。でも・・・
『これだけは言わせてほしい、君のような人に会えてよかった』
* * *
早朝の少し日が照りつける頃、波も落ち着き、島にも太陽の光が当たり始めていた。その時にはすでにボードで、瀬戸内海に浮かぶ島・黒山島へと向かっていた。萌絵、理恵、隆文、紫苑、優花、そして俺の6人で。これで最後、すべて終わらせる。
明日・・・ついに完結。
*黒山島は架空の場所です。