1話 日常に潜む悪魔
紅色の空に細長い雲が行き来する頃、顧問は帰宅のサインを出している夕日に反応を示す。
『そろそろ帰る準備しろよ!!』
長時間、練習に励んでいた生徒たちは、顧問の指示を機に、片付けモードへと切り替える。いつもと変わらないルーティン。難なく片付けを終えた後、生徒たちは、駅までの道のりを楽しげに帰っていく。最近話題の漫画やアニメで盛り上がっているようだ。そんな空気の中・・・
『あ!ごめん!!俺、用事があったの忘れてたわ!!』
『まさか、彼女との約束忘れてたわけじゃないだろうな?』
下から顔を覗く一人の生徒。図星なのだろう。用事を思い出した彼の目が泳いでいる。
『早く行ってこいよ!!せっかくいい彼女ゲットできたんだから!!』
友達に軽く胸を突かれた勢いで、彼女持ちの男子生徒は歩いてきた道のりを走っていく。いかにも活き活きした彼の走り姿は青春らしいシーン。そんな日常にも悪魔は存在する。それに気づいていないだけで・・・
* * *
何もない誰もいない正門前。結んだ長い黒髪が涼しい風に吹かれながら、彼氏を待つことにした。たまに見るのは何台か通る車のみ。校舎から出てくる気配もない。そんな情景がしばらく続くと、てくてくと正門へと近づいてくる人の影が視界に映る。
『遼くん!!私との約束忘れてたでしょ?』
そう声をかけたものも反応がない彼氏の遼くん。
『どうしたの?』
様子がおかしいことに感づいた私はゆっくり彼の元へと歩み寄っていく。
『来るな!!!!』
突如張り上げた声と怒りに満ち溢れた表情。それら全て、いつもの優しさ溢れる彼ではなかった。何が・・・
『お前はいいよな?美人だから男女から人気者だし・・・』
何をいうのかと思えば、私に対しての不満をぶつけ始めたようだ。でも本来、彼の口から放たれる言葉とは思えない。
『勉強も部活もできるから、先生や親からの評判がいいんだろうよ。どうせ俺と付き合ったのも、相手を見下すことで満足感に浸るためだろ?』
『何かあったの?誰かに何か・・・言われたの?』
散々、言葉で打ち砕かれたメンタルなんか気にもとめず、彼氏の手を強く握る。あなたの気持ちに寄り添うという意味を込めて。だが、その気持ちは届かなかった。
『だから触るなと言っただろ!!!!!』
掴まれた私の手を大きく振りあげた遼くんの拳は、そのまま私へと突き出していく。女子には手加減なしの威力で。
その時!!一つの手が彼の拳を受け止める。
『冷静になって!今のあなたは本当のあなたじゃない』
そこに現れたのは、綺麗な輪郭を描いた横顔をもつ一人の青年。冷静沈着という言葉をよぎらせる静かな口調。そこに止めようとする意志が追加されたことで説得力、熱量ある言葉に変わっていた。
それに対し、拳を突き出した遼くんは見開いた瞳を止めに入った彼に向ける。怒りの矛先が変わったような眼差しを突き出して。
『黙れ!!!!!!!邪魔すんなあああああああ!!!!』
怒りの頂点に達した遼くんは、何度も拳を彼に突き出す。なんとか、遼くんの拳を手で形どったガードでダメージを軽減していく青年。
『もうやめて!!!!遼くん!!!』
精一杯の力で遼くんの力強い腕に掴みかかるが、超人的な威力で大きく身を投げ出される。地面に顔を打ち付けた勢いで、少し視界がぼやける。でも、彼を止めないと!!すぐに身を起こし、再び喧嘩を止めに行こうとした矢先・・・
目の前には黄色の瞳をした遼くん。そして彼の背後には黒い火山灰のような物質を放出する・・・黒の怪物が立っていた。
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