16話 過去と現在
怪物狩り組織の本部にて。
『お尋ね者に何ていったんですか?』
怪物狩り組織の指揮官に対し、楯突く一人の若手男子。あたりにいた怪物狩りの者は、彼の手によって地面にねじ伏せられていた。その彼らは身動き一つも見せない。
『このままだと・・・あなたのご家族も死にますよ』
『お前・・・なんでこんなことを?』
『利益がある方につくに決まってるでしょ』
入り口からいくつもの足音が鳴り響く。その相手が彼だとわかった瞬間、深々と頭を下げる。その先にいたのは、あの威圧感溢れる吉田琢磨。
『例の報告、ありがとう 桐島くん』
『お前・・・裏切ったのか?』
その桐島という男に視線を向ける指揮官。彼はもう何も反応を示さない。吉田琢磨に言われたことを為すだけの人間に成り下がっていた。
『ここに坂口 紘が来たそうだね。同時に如月 紫苑も消えたとか?どこに向かったのか教えてもらえますよね?』
そう聞き出す琢磨に何にも答えられない指揮官。
『悪いが言えない。これは俺たちを守るための戦いでもあるんだ』
覚悟を持って答えた指揮官の言葉は、それを機に最後となった。桐島は、吉田財閥の新しい内通者として彼の命を終わらせることになった。片手に握った日本刀を使って。
『君にはがっかりだ。使える犬だと思ってたんだがな』
吉田琢磨の言葉に込められた失望と共に、指揮官の目の光は失っていく。
* * *
次々現れる風景を掻き消していくほどの速度で走る新幹線。目的地は瀬戸内海に浮かぶある島だとか。現在は大阪に向けて、関西を目指しているようだ。それにしても面白い空間。右端に2席に座る理恵と萌絵は修学旅行感覚で楽しそうに会話していたり、スマホの協力プレイで遊んでいたりする様子。それに対し、左に座る紘、紫苑という人は険しい表情で、その島のことを検索している。いざ敵に出くわす時の対処法を考えているようだ。その中で私は、参考書を片手に覚えられるポイントは脳内に叩き込む。少しでも・・・母の約束を守れたらなと。ここまで来て何言ってんだって言いたくなるけど。
『なあ、優花。そういえば聞いたことなかったけど・・・』
突然、隣に座ってた紘が声をかけてくる。顔の距離の近さに、避けてしまう仕草を取る。
『な、、なに?』
『歌手のことは結局、親に許してもらえたのか?』
『あ・・・ああ。 うん。楽器もやりながら、歌いたいから、ギターも買ってもらった』
『そうか。良かった』
その笑みは、本当に私のことで、心から喜んでくれる優しい笑顔だった。
『どうして?そんなことを聞くの?』
『いや、遼の代わりにはなれないけど、というか、なろうとは思わないけど・・・君の幸せは、身近で守っていかないと』
まさかの返しに、まばたきが増えるも、素直な気持ちを言葉にした。
『ありがとう・・・なら私も、紘の幸せを身近で守っていかないとね』
久しぶりに紘に笑顔を見せるも、彼の目はそれを望んでいるようではなかった。むしろ儚げな瞳で何かを訴えたいようだった。とそこに、御構い無しの理恵が割り込んでくる。
『ねえねえ!!!せっかく目的地まで時間あるんだからさ、このゲームしない?』
そういい、チーム対戦できるスマホゲームの画面を見せつける。
『いや、私は・・・』
『お前ら、少しは気を引き締めろ』
私の返事を掻き消し、紫苑が険しい表情で場の空気を悪くする言葉を発してしまう。どうやら賑やかな雰囲気は苦手なようだ。
『いいじゃん!!これはこれ!!あれはあれでしょ!!!そんな区別もできない堅物はご免だね』
『なんだと!?』
理恵のストレートすぎる言葉が、彼の怒りのボルテージを上げていく。既に理恵は、私と紘の携帯を取り出し、アプリを入れようとするも・・・
『ごめん。私ガラケーなんだよね』
私は紫苑の言葉に続き、理恵の機嫌を損ねてしまう第2弾を発動してしまった。でも、彼女は表情何一つ変えず、リュックから何かを取り出す。取り出されたのはもう一台のスマホ。
『じゃあ、これ使って。私、萌絵チームと、紘、優花チームで勝負よ!!』
期待に満ち溢れた表情で、早速試勝負開始。
どうやら戦車のゲームで自分とは色が異なる相手チームと戦うようだ。その間に出てくるアイテムとか駆使して。最初は理恵の機嫌が悪くならないようにと、やってみた・・・ものも結構面白い。
『優花、こっち回れ回れ!!』
紘もまた楽しそうだ。いつ以来だろう。こんな笑顔をみんなと分かち合ったのは。
『萌絵ナイス!!!後は優花だけよ!!!』
あっさり紘の戦車が負けてしまい、2対1の勝負となった。
『親友だからって手加減しないよ。優花!!』
『あ!!ごめん。私やられた』
理恵の横から聞こえてる内気な声。この内気さこそ、いつもの萌絵。彼女なりに、このゲームを楽しんでいる。
『え!!!』
『さあ、食らいなさい!!!』
私ならではの決め台詞で最後の戦車・理恵の破壊する。
『やったーーーー!!!』
あまりの盛り上がりで、ここが新幹線の中だということを忘れるほどの大声を出してしまった。
『おい!終わったか?俺も1回だけでいいからやらせろよ』
そう顔を突き出す紫苑。どうやら私らの楽しそうな反応に興味を見せはじめたようだ。
『じゃあ、俺の携帯使って』
そう差し出した紘のスマホで、彼も同じくゲームにのめり込んだ。
* * *
ゲームにハマりすぎて、30分後。理恵と紫苑は爆睡をかましていた。紫苑に関してはとんでもないいびきで。
『橘 萌絵だっけ?』
再び、勉学に臨んでいた私の横から声をかけてくる紘。今度はあまり話したことない萌絵のことを気にかけてるようだ。
名前を呼ばれたことに、動揺した仕草を見せる彼女。初対面の人と会話すると、テンパってしまう様子。
『紘、くん! 何?』
『いや、君がこの件に関わる理由を知りたくて。もちろん、みんなを助けたいという一心でついてきてくれたのは、わかるんだけど』
『私、邪魔でした?』
『違うんだ。君には別の目的があるように見えるから』
優しく寄り添うように、彼女の本心を突き出す。他の目的?私は思わず、彼女の顔を見つめる。
『私・・・彼氏がいたんです。でもある日を境に、人を大事にしていた彼は暴力的かつ道徳心が欠けた別人へと変わってたんです。もしかして、彼がそうなってしまったのは影の怪物が関係してるんじゃないかと・・・』
『そのカレを救いたいと?』
これ以上言葉にできない萌絵はコクリとうなづく。長々した言葉と彼のことを思い出すだけで悲しみがこみあげてくるのか、窓の外ばかり眺め始める。それにしても・・・親友である私でも聞いたことない話に驚きを声を出してしまう。
『なんで言ってくれなかったの?』
私の質問に萌絵はさらに目が泳ぎだす。何か気がかりなことがあるような。
『そのカレは、あなたたち二人が憎んでいる一番の存在だから。言えなかった』
『誰?』
『私のカレは・・・吉田隆文』
その名を聞いた途端、驚きの声も出ないと同時に、隣にいた紘の顔は曇りきっていた。少しの時間を設けたことで、今発せられた情報が彼の中へと染み渡っていく。
『あいつも・・・心を奪われたうちの一人だと。何を?アイツは吉田財閥の息子だぞ。なぜ?自分の息子にそんなことを?』
それが事実だと理解してもらえるよう、萌絵は詳しい事情を説明してくれる。
『彼は、家族のやり方に一番反対してたんです。こんなの・・・間違ってるって。そして僕たちが犯した過ちが多くの人を巻き込んでるから、何度も父を説得したそうです。財閥にだけ利益を作るような不平等はやめようと。そう言った次の日から、彼は・・・完全に別人に成り下がってたんです。』
『家族でも、裏切り者には容赦がないってわけか』
* * *
大阪駅にて。
『さあ、予定通りくるかな。坂口紘』
すでに待ち伏せするその男は、笑みを見せながら今から来る新幹線を今か今かと待ちわびていた。