14話 Bad end?
悲しさに溢れている暗いホール。人々がやる目先には、笑顔な表情に満ち溢れた男の写像。その写真と棺を前に佇む人々が目に映る。
なんで?今でも信じられない、、、遼くんが死んでしまったこと。
『優香、久しぶり』
控えめ気味に、声をかけてくるのは中学時代、遼くんと私に親しくしてくれた友人・雪入すず。
『すず。久しぶり。今日は来てくれてありがとう』
『もちろん来るに決まってるじゃない。でも・・・こんなに早く亡くなるなんて・・・今でも受け止めきれないよ』
私たちが向けた視線の先には、棺の横に並ぶ遼くんのご遺族。そこには岸本理恵も並んでいた。
『妹さんと会うのは初めてだ。』
『うん、、、双子の妹さんで名前は岸本 理恵』
『妹さんとは初対面だ。ちょっとご挨拶してくるね』
そう言い、すずという女性は私から離れてく。
* * *
(紘目線)
俺は自分にたいしての怒りを隠せなかった。全ての元凶があの吉田に繋がっていると知ってたのに。そんなことを頭で回らせていると、俺の横から顔を出す白髪の男が。
『どうやら、怒りの感情が生み出した武器で殺されたみたいだな。怒りの感情による生みだされた武器は大抵、ナイフとして現れることが多いらしい』
怪物狩りならではの知識を共有してくれる紫苑。それより、例の作戦はどうなったのか知らない俺は、彼の肩をに強くつかみかかる。
『おい!!例の計画はどうなったんだ!!鍵は!?』
俺の問いかけに、表情一つも変えない彼。
『なんか言えよ!!』
その言葉と共に彼を突き飛ばす。
『鍵はもうこの世にはないんだ。方法がないんだよ』
突如、言葉にした彼の言葉に耳を疑った。
『な、、、なに?』
『吉田琢磨と直接会った。そこで彼にこう言われたんだ。もう鍵は用済みだから、跡形もなく破棄したと』
それから俺の前は真っ暗になった。もう止める手段はない。二度と吉田財閥には逆らうことはできない?そう考えると、なおさら全ての気力を持っていかれた。
* * *
そのショックが続き、2週間が経った。学校はもう夏休みに入り、あっという間にセミの鳴き声で埋め尽くされる季節になった。普通の高校生なら長い休み期間に期待をよぎらせているだろう。だが、遼の知り合いである者たちにとって、とてもそんな気分にはなれなかった。
同時に、ある人物の今度について心配するようになった俺は、その人の元へとよく訪れるようになっていた。そして、今日もあの稽古場へと足を運ぶ。
何度も何度も、相手になる者たちを投げつける大きい物音が鳴り響く。
『おい!理恵!やりすぎだ!』
たまに無駄に力が入るのか、周りの先輩に止められることも多くなってきた。今まではそんなことなかったとか。
そう、俺が過保護になり始めてる相手は岸本 遼の妹・岸本 理恵だ。俺の一言”残された時間で,お前との戦いに挑む”その言葉で、多くの人が巻き込まれた。岸本 遼はその巻き込まれた内の一人。俺はその罪悪感に襲われてしまったのだろう。彼の妹の今後について、見守る義務がある。そう心の中でムチを打ち付けていた。
* * *
ある日のこと・・・
休み時間に、響き渡る男子高校生の声。これが高校生活というものか、そう脳内で高校生活の光景を録画するか如く、頭の中に焼き付けていく。
『紘、一緒に昼飯食べないか?』
後ろから声をかけてくるのは、あの日助け出した男・遼だった。そのまま彼の誘いに乗った俺が行き着いた先は、暑い日光に対し、涼しく風が行き通る屋上だった。
『ここで・・・食べるんですか?』
『なんで敬語なんだよ』
俺の言葉遣いに軽く鼻で笑う。
『じゃあ、タメ口で』
フェンスに背をつけた遼はゆっくり地面に尻をつけ、持ってきた弁当を開ける。俺も彼に続き、ゆっくり腰をつける。誘われた理由は何かあるのか?呼ばれるようなことがあったかと、頭の中で巡らせるが全く心当たりがない。だが、その答えを導き出す前に彼が口を出す。
『なあ、俺の相談に乗ってくれるか?』
突如開いた彼の言葉。その時に映る澄まし顔は俺にとって初めて見る表情だった。心許したかのような表情を見て、その信頼に応えようと、真面目に彼の話に耳を傾ける。
『なんだ?』
『俺・・双子の妹がいるんだけどさ。この頃、何もしてあげられてないんだ』
『というと?』
『なんて言うんだろう。その・・・兄妹の実力に差が生まれちゃって・・・いや』
説明するのに、苦労している様子。しかし、必死に何かを伝えようとする彼に寄り添うとしばらく見届けていた。
『自分で言うのも、あれだけど・・・部活とか勉強の成績が優秀だから親にちやほやされることが多いだけど、対照的に妹の理恵が家族の中で見放されるようになってきたんだ。理恵は兄に比べて何もできないっていう親の発言で。・・それ以来、妹が口をきかなくなったんだ。もし俺の方が声をかけても、冷たく返されることが多くて』
『なぜそんな話を?』
『お前が信頼できる親友だからだよ!!』
初めて転校したあの日以来、確かに仲が深まった内の一人である。学校の案内や授業でグループワークした時とか含めて。この短期間で友達の存在の大切さを教えてくれた。
『だから、お前も俺を信頼してくれてるなら、心の内にしまってる悩みを打ち解けてくれてもいいんだよ』
そう訴えかける彼の視線にうなづかざるを得なかった。
『で、本題に戻るんだけど、どうすればいい?』
彼の悩みに対しては、もう俺の中で答えが出ていた。
『それはやっぱり言葉にして伝えないと・・・本当のことを』
『それができたら苦労しないって・・・兄妹だからこそ、言いたいことも言えなくなるんだって』
『でも失った時間は帰ってこない。どれだけ後悔しても』
俺の言葉に何も言い返せなくなったのか、うずくまることしかしない遼。こんな一面もあるのだと、しばらく彼から目が離せなかった。
その日の放課後のこと。
理恵が友達と何か楽しそうにして帰る後に続き、彼女の後を追いかける遼が目に映る。
『なあ!!理恵。ちょっといいか?』
声をかけてきた相手が、兄貴の遼だと知った瞬間、細めた目で毛嫌いしてくる様子を見せる理恵。
『ねえ、例の新作がまた・・・』
そのまま、遼の声掛けに気づかない振りを突き通す。それでも・・・
『なあ理恵!!理恵!!!』
最後の呼び名で彼女の腕を強く掴むも、柔道で鍛えた強い腕力に振り落とされる。
『触んなって!!!もう私に構わないで!!!』
友達に見せた笑顔とは裏腹の鋭い目つきで、遼は後ずさりすることしかできなかった。逆に関係を悪化させてしまっただけだと。
* * *
(紘目線)
赤く染まる夕日の頃、岸本 理恵が稽古場から出てくるのを待っていた。だが、俺を見た彼女は何もなかったように横を過ぎ去ろうとする。
『なあ、理恵・・・兄貴のことについては申し訳なく思ってる』
『別に、てかもうその話はしないで』
そのまま、その場を去ろうとする彼女を必死に受け止める。言うチャンスはここしかないと言う気持ちで引き止めて。
『兄さんは君に言いたいことがあったんだ・・・ずっと前から。でも言い出せなかった。』
『だからなんだって言うの!!もう構わないでって言ってるでしょ!!!』
『ならせめて、これを受け取って』
そう俺が差し出したのは綺麗に封された手紙だった。
『兄さんは手紙を残してでも、君に伝えたかったことがあるんだ』
しばらく動揺を見せるが、本当の気持ちに逆らえなかったのだろう。彼女は、差し出された手紙をゆっくり受け取る。
* * *
その日の夜。机の前に置かれた手紙を読んでみることにした理恵。丁寧に封された開け口を剥がしていく。乱雑に破いてしまわないように。そこから出てきたのは、綺麗に折り畳まれた手紙。彼女はどんなことが書いてあるのかと言う気持ちで、一文目から目を通し始める。そこに書かれていたのは・・・こんな形でメッセージを伝えることに対する照れくささとお互い難しい年頃だから言いたいことも、いえない関係になってしまったことを書いていた。だが、次に連ねられていくのは、そういう関係にさせてしまったのは自分であるという謝罪の言葉。そして・・・最後にこう書かれていた。
"親に注目されてしまうのは俺ばかりかもしれないが、陰ながら俺は、理恵のことを自慢できる妹だと思ってる。困っている人のためなら、周りの目なんか気にせず助けに行く姿。何度ダメ出しを食らっても粘り強く、諦めず稽古に挑む姿。それらを見て、本当に感心したことをここに書き留める。どうしても実力主義の世の中だから結果を追い求めてしまうのはわかるが、これだけは分かって欲しい。理恵が選ぶ道はどれも、兄さんにとって誇らしいものだった。きっとその人柄が今後の将来、人生に意味を持つと兄さんは強く信じてる。お前が俺の妹で本当に良かった。”
その一文字一文字に込められた言葉に、思わず呼吸が荒くなってしまう。
『兄さんの・・・バカ』
溢れ出す涙が一滴でも滴れば、もう止めらない。
* * *
(紘目線)
後日、手紙を読んだのか、理恵の連絡をきっかけに、一緒に墓参りに行くことにした。
無事に墓地についた俺たちは、"岸本遼"の名前が刻まれた墓地にお香を立てる。その煙は、兄さんを呼び起こすサインにも見えた。
『兄さん、ありがとう。私はこれからも・・・兄さんが誇れるような人になるから』
そう決意を言葉として残す。
『紘も、遼に言いなよ。なんでもいいから』
そう場所を空けてくれた理恵の気遣いに応えるべく、彼の前へとゆっくり屈む。
『遼、俺のこと大事な親友だと思ってくれてありがとう。お前のような犠牲者を二度と作らないためにも、俺は進み続けるよ。そして、お前が大事にしてきた家族や友人、そして愛する人が笑顔に暮らせる世の中を取り戻して見せる』
完全に絶望の中に埋もれていたはずの気持ちが、遼の墓を目の前に本当の気持ちが溢れ出す。そうだ。まだ諦めちゃいけない。まだ出来ることを探し続けるんだ。そう胸の奥で決意を残した。