12話 攻撃開始
こんなところで倒れてる暇なんてない!!一刻も奴を止めないと!!その意志が強すぎて、点滴の針を抜き、ガーゼを剥がし、気づけば、空高く上がった太陽が見える外へと踏み出していた。そして取り出した携帯電話で”如月紫苑”に連絡を入れる。
『おい、紫苑今時間あるか?』
『おう、ちょうど俺も話したいことがあって』
もしかしてお願いしていた調査に進展があったのだろうか?その読みは見事に的中した。
『影の怪物をこの世に解き放った内通者がわかった。だが、内通者の彼は家族を囮にして脅されたらしい』
『その脅した犯人は?』
『吉田財閥の吉田琢磨だ』。
その後も、詳しく聞いた話だと吉田は影の怪物と契約を交わしたそう。その内容というのが、この世に解き放った影の怪物に対し、彼らが好んで食う幸せ、ポジティブな感情や良心を差し出す。その代わりに、他の人々の心を操り、吉田財閥に利益を生むように仕向けることだった。その真実を知った俺は、怒りを鎮めることができなかった。全ての元凶は吉田財閥につなかっているのだから。
『それで・・・影の怪物へとつながる扉の鍵はどこにある?』
『吉田琢磨本人が保管してるらしい。会社にいる時は会社に、自宅にいるときは自宅に』
俺は彼の情報提供に感謝を示した後は、何とかして鍵を手に入れる方法を脳内で模索していく。その途中で行き着いたのは一人の男に電話をかけること。
俺は急いで、友達欄に並んだ名前をスクロールしていく。その一覧に含まれる前川結城という名で指の動きを止める。この男は、食堂で吉田隆文にパシリとして利用されてたところを助けた、あの眼鏡男子高校生だ。彼とは助けたことをきっかけに仲を深めていく間柄になっていた。
俺はその彼に電話をかける。
『もしもし』
『紘だ。お前に頼みたいことがある。だが、その前に確認だ。前川は吉田にずっと利用されて、悔しくないのか?』
『もうその話はいいよ』
『良くねぇよ!!このままじゃ・・・あいつらによって支配され続ける生活を送ることになるんだぞ!!』
突然、追い詰める形での話に頭を困惑させる前川。
『突然何なんだよ!!俺にあいつを止める力はない』
『いや、吉田財閥を潰す方法を見つけた。だが、その方法を試すにはお前がどこまで彼らと戦う覚悟があるか聞いておく必要がある。何があってもおかしくないからな』
『それは君の復讐に加担するってことだろ?』
『そう、だがこれは俺だけの復讐じゃない。あの財閥によって苦しめられた俺たち全員の復讐なんだ。』
身に沁みる言葉で慣れてしまった感覚を結城から剥がしていく。もう一度立ち上がるために。
* * *
どこかの喫茶店で茶を嗜む俺と吉田。
計画の一連をもう一度確認していく。この計画でキーパーソンとなるのが吉田財閥が率いる会社で重要な役割を担う前川結城の母親。簡単にいうと、吉田会社の右腕としてサポーとする副社長。その彼女なら影の怪物に繋がる扉の鍵がどこにあるのか知ってると踏んだ。
『その副社長であろう友達の母親が鍵の在りかを知ってるとしてだ。その彼女も心を操られているんだろう。頼んだところで耳を貸さないぞ』
紫苑が問題視する疑問にはもう答えが出ていた。
『そこで君の出番だ。怪物狩り代々の血を引き継いでるなら、どの怪物が彼女を操ってるか見えるだろ』
そう。彼を含む怪物狩りの組織は、だれが、どの怪物によって操られているのか糸状の線を通して肉眼で確認できる。
『どうやって知った?てか・・・お前本当に何モンなんだ?』
彼の驚く表情に満面の笑みで返す。
『相当調べたんだよ』
前川結城の協力を得た甲斐があった。車から出てきたセレブの副社長、その彼女がいつ、どこに現れるのか聞いていたおかげで、待ち伏せすることに成功した。今彼女は喫茶店の窓から見える距離に位置する。
『あの人か?』
『ああ、行くぞ』
副社長である彼女を肉眼で確認できた俺たちは計画を実行すべく、くつろいでいた重い腰を上げる。その時、ポケットが振動させながら、うったえてくる携帯電話。電話をかけてきたのは、学校にいる前川からだ。
『どうした?前川!』
『早く来て!!というか警察を!!』
必死に助けを乞うその声と焦るある口調。その声に耳を傾けざるを得なかった。
『影の怪物が学校を襲撃し始めた!!』