11話 目的
『やめろろろおおおおおおおおおおおお!!!』
超人的力で引き抜いた鎖に驚き、高笑いしてたあの姿は腰を抜かすほどの間抜けに成り下がっていた。
周りにいたボディガードらしき男たちは、俺に向けて何度も何度も銃を発泡する。しかし厚い肌で覆われた身体に銃弾を射抜くほどの威力はない。俺は怒り任せに周りの人間を蹴散らして行く。
『この世は間違ってる!!!何もかも!!!!』
堅いと人間の身長を優に越える高さにより、膝蹴りはボディガードの顔面直撃を喰らわす。
怪物の威力を目の前で見て、恐れたのか吉田は、車の方へと走逃げて行く。視線が彼に移った後、辺りのボディガードは眼中に入らないほど。逃しまいという勢いで、辺りのボディガードの身体はいとも簡単に大きく投げ出される。
『行け!!行けー!!!』
吉田の荒れた声と共に車の中から現れるのは怪物狩りの連中だ。なんで、怪物狩りのこいつらがここに!!もしかして・・・あらかじめ俺の正体に見当がついてったってことか。2、3人同時に握った刀で斬りつける構えを取ると。急いで打ち合った平手技を発動。その手から生まれた衝撃波で2人は見えない程の距離まで吹き飛ばされる。しかし一人の動きが応用力ある動きで、脇腹に鋭く深く突き刺さる刃。 厚い肌で覆うも、怪物殺しの刀はなかなか強烈だ。それに動きが圧倒的に早い。
『トドメだ!!!』
気づけば、背後に移動していた男が斬りかかる勢いで、刀を振りかざす。
* * *
ひたすら暗い森に囲われた道路を走っていくと、見えるのは廃墟エリア。次第に目的地へと駆け抜けるバイクの排気音で聞こえてくる音の大半を埋め尽くしているはず。なのに心臓の高鳴る音しか私に聞こえない。そこに私たちを強く照りつける黒い車が横を突っ切っていく。車体が左右大きく揺れながら、勢いよく来た道を戻っていくようだった。もう手遅れなのか!!ひよまず現場に着いた私は建物の奥から赤色に光る場所へと走っていく。
『優花!!!』
彼が大きい声で呼ぶも、私の眼中にあるのは、光の源となる焚き火だけ。しかし、物陰から現れた男の遺体が見えると、思わず物陰に隠れる。同時に上げそうだった声を必死に押し殺す。だって・・・ゆっくり物陰の向こうでうごめく、あの黒い怪物が見えてしまったからだ。しかし、事情を知らない遼が大きな声で私のところに駆けつける。
『おい!!優花!!』
急いで彼の口元を抑えるが、走ってきた足にブレーキがかからず、私たちは物陰から顔を出てしまう。大きく名を叫ぶ遼の声と物陰から現れた物音で殺意と怒りのこもった瞳を私らに向ける。しかし、獲物を捕らえたのかのような眼差しから一変。儚い目つきに色が変わった怪物は、私らを避けるように鬱蒼とした森の中へ去っていく。
『あの怪物、俺たちを襲ってこなかったぞ』
* * *
果てしない森を駆け抜け、少しでも人がいる場所へと駆け抜けていく、しかし続くのは同じ光景だけ。頭をバットで殴られたような感覚が脳裏に響いてくる。やっぱり怪物狩りの攻撃はなかなか強烈だ。あんなに丈夫な身体を持っていても、今じゃ意識が朦朧とすることまで追い詰められている。まだ・・・こんなとこで・・・
やっとの事で拓けた視界、そこには一軒の家が見えた。駐車している大きな車から降りてくる子供2人とその両親であろう人物が買い物袋を車から降ろしている。
『人が・・・いた・・・』
焦りから安堵の気持ちに切り替わった瞬間、全身の身体は一気に抜け、暗い世界へと引きずり込まれる。
* * *
あれ?確か・・・一軒家を目の前にして倒れたはず。でも今見えるのは白い天井。
『お目覚めかな?』
落ち着きある口調に長年経験積んできたであろう声質が耳に残る。
ゆっくり声のする方向に視線を向けると、そこにはオールバックの髪型にワイルドと思わせる口ひげをたくわえた男性が立っていた。若々しさの面影が残っている瞳で、俺との視線を強く合わせる。
『あなたは・・・』
『吉田隆文の父、吉田琢磨だ』
その名を聞いた瞬間、重かった体はあっという間に暴れ出す。この反抗的態度に負けまいと俺の腕を押さえつけられる。冷静さの中にある強さという眼差しと共に。
『君が怒るのも無理はない。こんな風に追い詰めたことに関しては申し訳ないと思っている。 だが・・・君が影の怪物ということなら話は別だ』
真剣な表情で淡々と話すその彼の表情。それが憎いほど、俺の脳裏に焼き付いていく。
『それに君には知性や感情が豊富な怪物のようだ。そこで君に聞きたい。なぜお前だけ他の群れと違うんだ?』
『お前に・・・復讐するために生まれた怪物だからな』
俺の答えに全く表情を変えない彼。
『そういう戯言を聞くために来たわけではないぞ?』
『本当だ!!お前とお前の息子によって苦しめられた人々の救済と・・・この世を蝕む黒の怪物を断絶するために変わったんだ。』
俺のことが弱い動物がほざいてるように見えた彼は、軽く鼻で笑う。
『面白い。でもお前に残された時間は少ない。君がただの人間なら見過ごしてやったんだがな』
もう言うことを全て終えた彼は、そのまま病室から去ろうとする。だが、言われっぱなしで事を終えるのが嫌だったのか、俺の強い気持ちを言葉として吐き出す。
『ならこっちは、残された時間でお前との戦いに挑むまでだ。』
背を向けていた吉田は振り返ると同時に、細い目つきを俺に突きつける。それで彼の言いたいことがわかった。嵐前の静けさは終わったと。