9話 答え
『さっき私と会った時に言ってたよね?大事な親友って・・・親友である私たちに隠し事するの?』
説得力ある言葉を突き出し、しばらく無言の時間が流れる。やっとの事で導き出した紘の返事は・・・
『うーん。俺にも分からないなー。きっと君達が強いからだよ!!』
『本当は?』
彼のごかましている態度が胡散臭いと思ったのだろうか。イラつきが眉間のシワとして出ている遼くんが彼との距離を詰める。
『俺は・・・紘のことを大事な親友だと思ってる。もし、お前が同じように思ってくれてるなら、話してくれてもいいんじゃないか?』
『・・・俺、先に帰りますね!!用事思い出したんで』
私たちの突き出した質問は聞かなかったふりをしたまま、彼は先を急いだ。
* * *
『おりゃああ!!!』
強引な力技で金髪染めの男は、大きく放物線上に吹き飛ばされる。体を打ち付ける音が地面を通して伝わってきたのだろう。這いつくばる黒髪の女子高校生は”日向”という名を呼びながら、彼の元へと寄っていく。
その女子高校生が不良高校生の視界に入った瞬間、彼女の長い黒髪を引っ張りながら、からかい始める。
『お前は後でたっぷり・・・・この俺が相手してやるよ』
邪悪な笑い声を上げる不良高校生の靴にしがみつく金髪の男・日向。
『楓・・・には手を出す・・・な』
『うるっせえんだよ!!』
容赦無く日向という男の顔面に足蹴りを食らわせる。腫れ上がった目元からは痛々しさが強烈なものだと思い知らされる。それでも気が済まないのか、不良高校生は彼に対してのフィナーレを最悪な形で飾る。
『もういい。やれ!』
その言葉と共に、不良高校生の仲間が持ち出したのは大きな金属バット。重圧感を感じさせるバットを握りしめた男は、地面で身動きしない日向に歩み寄っていく。
『まずお前から終わらせてやる!!じゃあな!!!』
『やめて!!!!!』
頭上より高らかに上げた金属バットは地面に向けて、振り落とされる。そのまま不良が望む結果を迎えてしまうと周りの誰もが思っていた・・・だが実際、振り落とされた金属バットは日本刀を前に静止する。
『人の大切なものを奪って楽しいか?もしそうなら、趣味悪いぜ』
『おまe』
相手に何も言わせない、そういう勢いで頰に拳を突き出す。その勢いを活かし、素早い動きであたりの不良を蹴散らしていく。その威力は地面に顔を打ち付けたり、えび反りにさせて身動きさせなくするほど。
これ以上抵抗を見せてこなかった不良たちを見て安堵したのか、助けてくれた人物に目をやる女子高校生。
『ありがとうございます!!!』
アザと血で埋めつくされた身になっても頭を下げて感謝を示す日向とその彼女だと思われる女子高校生。
『なるべく安全な道を通るようにしろよ。二度とこうならないためにも』
助けた男の言葉を機に、長い道を歩んでいく。
男の方が足を引きずりながらも、肩に手を置いて彼女が寄り添うその姿に目を奪われる白髪の男。
『やっと追いついた』
大きい独り言と共に、草木をかき分けて現れる紘。
『なんだ?つけて来たのか?』
『最近の友達追加アプリはすごいんですよ、ほら』
そういい、携帯画面を見せる紘。
『友達を追加しただけで、自動的にお互いの位置情報共有できる』
『共有したくない・・・』
『じゃあ、オフにすれば・・・この部分』
紘の態度に目障りだと感じたのか、白髪の男は、眉間にしわを寄せて彼に問い詰める。
『何の用があって俺を付けてるんだ!!ずっとついて来られるのめんどくせえんだよ!!』
『じゃあ、本題に移ろう。あなたには協力してもらいたいことがある』
いつも笑顔でだらしなく見えてしまう態度が一変。彼は初めて、真剣な表情を見せると同時に落ち着いた口調でけじめをつける。
『あなたには組織内のスパイをお願いしたい』
妙なことを言い出した彼は、体を紘の方へと向ける。なぜそんなことを言い出したのかという答えを求めるような表情を突き出して。
『ここ数ヶ月で、影の怪物により多くの心が食われている。魂とも言っていい。もちろんそれらの怪物を阻止するのはいいのですが、なぜあなたたち怪物狩りの組織は、怪物らが活発化してきた原因を突き止めようとはしないんのか?』
『はあ?それは・・・』
『あなたたち組織が保管してるはずなんですよ!!影の怪物をこの世から断ち切る扉の鍵を持っているのは!!』
紘の口から溢れる数々の言葉を理解するのに時間がかかったのか、しばらく動揺した目つきを見せ始める。どうやら怪物狩りとして働いている張本人でも耳にしない情報が多くて、驚きを隠せないようだ。
『お前・・・何もんだ?』
『それはあなたが任務を果たしてからです。取引と行きましょう。』
* * *
『お前が言いたいのは、組織内に影の怪物につながる門を開けた裏切り者がいると?』
一刻でも、ばら撒かれた情報を整理するためにも頼まれた任務を引き受けようとする、その真剣な眼差しがそれを物語る。一方で、白髪の男は、なぜ自分にその任務を頼むのかという問いを紘に突き出す。
それは・・・
『あなたは人を想う心が誰よりも強い。彼らを救ったように。偽の感情であそこまでのことはできない。それに今の二人を助けたのは怪物狩りと無関係の出来事でしょ?』
もういないが、傷だらけの二人が帰っていった道に視線を向ける白髪の男。その男の目には無事に帰れたことを祈るようにしか見えなかった。
『自分と重ねてしまっただけだよ』
『そう。自分が経験したからこそ、人の痛みがわかる。それは本当の感情で助けようとした証拠ですよ』
紘の人を見る目に説得力を感じた白髪の男は、彼に対して信頼という感情が芽生えていく。
『お前・・・名前は?』
『坂口紘です。あなたは?』
『紫苑・・・如月 紫苑だ』
気づけば互いに手を差し出し、握手を交わしていた。