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神ひらく物語―勾玉主編―  作者: 銀波蒼
南多島海編
47/83

進化と意志

(前回までのあらすじ)

洞窟にいた生き物はイノシシの体に鳥の足、背中には翼、さらにはトカゲのようなしっぽがあった。かつて同じ人間だったものが、それぞれこの化け物に触れ、神は鳥だと信じた者は化け物の一部を鳥の姿に変え自らも鳥人になり、獣と信じた者は同様に獣人となり、トカゲと信じた者はトカゲ人となったいう。そしてそれらの混合体のような姿に変えられた化け物は、いつからその場所にいるかもわからず、望まれた姿で神と崇められていた。ルミネスキのマイラと同じだ。そのマイラが求めていたのは鏡だったが、化け物はふしぎな剣を守っていた。その剣は勾玉主であるヒラクと共鳴していた。破壊神以前から存在していたという剣は誰により何のために作られたのか? 疑問を抱くヒラクだったが、今まさに眼前に未曽有の危機が迫っていた。


 洞窟にいた謎の化け物は、落ち着きなくその場をうろうろし始めた。


「何? どうしたの?」ヒラクは化け物に尋ねた。


「またきたよ。最近多くてね。大地が揺れるんだ」


 その言葉通り、足元に振動が走り、洞窟の中が揺れ、上からパラパラと石の破片が落ちてきた。

揺れはすぐにおさまったが、化け物は警戒を強める。


「知ってる、知ってるよ、あたしゃこの感じを知ってる。山が爆発する前のいやな感じがするよ」


「えっ、そうなの? たいへんだ、早くここを出なきゃ」


 ヒラクはあわてて言った。


「おい、どうしたんだよ、一体何が起こってるんだ?」


 キッドはヒラクに聞いた。


「山が爆発するんだって」


「ええっ!」


 あわてふためく二人にジークは言う。


「落ち着いてください。とにかく、もう目的は果たしました。すぐにここを出ましょう」


「目的って……何だっけ?」


「破壊神の姿を確かめに来たのでしょう?」


 ジークはあきれたようにヒラクに言った。


「あ、そっか。でもみんなにはなんて言おう……」


「破壊神などいなかった。それでいいじゃないですか」


「う~ん、そういうことになるのかなぁ」


 ジークの言葉にいまひとつ納得できないヒラクだったが、実際、破壊神というもの自体が人々に作られた神だとすると、最初からいないことになってしまうのかもしれないとも思った。


「何ぐずぐずしてるんだよ。早く出ようぜ!」


 キッドに急かされ、ヒラクはジークから剣を受け取ると、もと来た孔から引き返そうとした。


「ちょっと、お待ち!」


 化け物がヒラクたちを引き止める。


「その剣はあたしのだよ。置いてきな」


 ヒラクの手の中で剣は再びまぶしい光を放っていた。


「でも、これあった方が明るくて便利だし、ここから出るのに役立つよ。それにおれ、これ欲しいもん。鏡とも絶対何か関係あるだろうし。もらっていくね」


 明るく笑って言うヒラクに、化け物は開いた口がふさがらないといった様子だ。


「それより、おまえも早く逃げた方がいいんじゃないの?」


 ヒラクに言われて化け物はハッとした。

そして剣を奪い返すのは外に出てからにしようと考えを改めた。


「それならこっちにしな。鳥の孔の方が外までの距離が短い」


 化け物はヒラクたちに言うと、鳥たちが供物を捧げる孔から出て行った。後を追いかけてヒラクが言う。


「おまえ、いい奴だったんだね。ありがとう」


 化け物は剣を持ったヒラクが自分についてきているのを確かめながら、出口から出た瞬間に剣を奪い返してやろうと決めていた。


 ところが出口で思いがけないことが起こった。


「うわっ、何だこいつは!」


 出口から飛び出してきた化け物を待ち構えていたのは鳥人たちだ。

 十数人はいる鳥人たちは、化け物の姿を見て騒然とした。


「なぜ、神がお隠れの場所からこんな化け物が」


「一体何なんだこいつは」


 化け物は奇妙な鳴き声を上げながらおたおたしている。

 振り切って逃げようにもヒラクがまだ追いついてこない。


 ヒラクが姿を見せると、鳥人たちの中にいたユピが駆け寄ってきた。


「ヒラク! 無事だった? ケガはない?」


「ユピ、どうしてここに?」


 見れば、ユピと一緒にゲンと蛇腹屋の姿もある。

 ヒラクたちが破壊神の姿を確かめに行ったと鳥人たちから聞いてすぐ、この場に駆けつけたのだった。


「ちょっと、あんた、剣はどうしたのさ!」


 化け物は、ヒラクが剣を持っていないことに気がついて言った。


「重いからジークに持ってもらった」


 ヒラクの言葉で化け物は剣を持っているジークを見たが、逆ににらまれてたじろいだ。

 ユピもまた、ジークが持つ剣をみつめている。


「ヒラク、あの剣はどうしたの?」


「この孔の向こうにあった。神王が探していた剣だと思う。鏡とも何かつながりがあるんじゃないかな」


「そう、ちょっと見せてくれる?」


 ユピは剣を確かめようとしたが、ジークがヒラクの横に来て言う。


「今はそのようなときではありません。一刻も早くこの場から離れなければ」


「あっ、そうだ。聞いて、ユピ。あの化け物が言ってたんだけど……」


 そう言いながらヒラクが振り返ると、化け物はちょうど鳥人たちの攻撃を受けているところだった。


「きさま、神がお隠れの場所で何をやっていた!」


「神はどうなされたのだ!」


「待ってよ、みんな」


 ヒラクはあわてて止めに入った。


「こいつがみんなが言っていた破壊神なんだって。みんなこいつのことを神として崇めていたんだよ。イノシシもトカゲもみんな同じ神を信じていたんだ」


 そう言えば鳥人たちも納得し、獣人やトカゲ人たちとも仲よくなれると思ったヒラクだったが、まるで逆効果だった。


「何だと? こいつ、我らの神に成りすましていたというのか」


「イノシシやトカゲどもの神を我らの神と一緒にしていたなんておぞましい」


「我らの神に申し訳が立たぬ」


 鳥人たちは憤りをあらわにし、先ほどよりも一層化け物をいたぶった。


「なんで? なんでこんなことになるの?」


 ヒラクは呆然としてその場に立ち尽くした。

 化け物がいたぶられる様を眺めながら、隣でユピが冷ややかに言う。


「みんな、自分たちが信じたいものだけを信じるんだ。信じたくないものは信じない。それだけのことだよ」


「じゃあ、神を確かめる意味なんて最初からなかったじゃないか」


「真実は時として残酷なもの。信じたいものを信じられた方がよっぽど幸せなことなんだ」


 そう言って、ユピはヒラクをじっと見た。深い青い瞳が傷ついたヒラクの顔を映す。哀れむように目を細め、静かに微笑しユピは言う。


「それでも君は真実の神をみつけたいと言うの?」


「おれは……」


 そのとき、突然、地面に振動が走ったと思うと大きな爆発音がした。

 鳥人たちは混乱し、奇声を発しながら、羽根を飛びちらし、逃げ惑う。

 

「きっと山が爆発したんだ! 早くここを離れなきゃ」


 ヒラクの言葉で鳥人たちはいっせいに飛び立とうとする。

 ゲンと蛇腹屋は鳥人たちを数人捕まえて押さえつけた。


「あっしらも連れてってくれなきゃ困るぜ。さあ、坊ちゃん、早く」


 ゲンに言われて、キッドは鳥人の背におぶさろうとした。

 だがヒラクはその場を動こうとしない。


「ヒラク、何やってるんだ」キッドが叫ぶ。


「おれ、行けないよ。このまま放っておいたら、こいつ、死んじゃうよ」


 ヒラクは、傷を負い、気絶した状態のままの化け物を見て言った。


「何言ってるんだよ。そいつを助ける義理はねぇ」


「でも、放っておけない。おれのせいでこんな目にあったんだし」


「ヒラク」


 ユピがヒラクの前に来て言った。


「君は僕と一緒に行くんだ。いいね」


「でも!」


「僕が君と一緒に行くのを望んでいるんだ。わかるよね?」


「……」


 ヒラクはなぜかユピの言葉に逆らえず、おとなしくユピの隣に控えていた鳥人の背に乗ろうとした。

 キッドもほっとしてゲンが捕まえた鳥人につかまった。

 全員が鳥人たちの背に乗り、その場を飛び立とうとした。


 そのときだった。


 再びすさまじい爆発音がした。

 キッドを背に乗せようとした鳥人はその音に驚いてあわてて飛び立った。しっかりと捕まっていなかったキッドはそのまま地面に振り落とされた。


「キッド!」


 それを見たヒラクは今まさに飛び立ったばかりの鳥人の背から飛び降りた。

 一瞬のできごとだった。


 鳥人たちは全員飛び去り、ヒラクとキッドだけがその場に残された。


 山から噴き出す黒煙が空をおおう。

 どろどろとした真っ赤な液体が山の斜面から流れ落ちてくる。

 このままでは辺りが火の海と化すのも時間の問題だ。


 そのとき、気絶していた化け物が目を覚ました。


「くそっ、あの鳥ども。ただじゃおかないよ……って、あら?あいつらどこ行っちまったんだい」


「そんなこと言ってる場合じゃないよ。早くここから逃げないと」


 ヒラクは化け物に言った。


「あっ、おまえ、剣はどうしたんだい? あたしの剣は!」


「剣はジークが持っていっちゃったよ」


「何だってぇ!」


 化け物は血走った目でヒラクをにらみつけた。


「どこだい? どこに行ったんだい?」


「鳥人たちと飛んで行っちゃったよ」


「何だって? あいつらが剣を?」


 化け物は、片足ずつ地面をならすようにこすりつけると、その場に伏すようにして姿勢を低くした。


「乗りな! 後を追うよ。おまえは剣と引き換えの人質だ。一緒に来てもらうよ」


 化け物の言葉にヒラクはうれしそうにうなずく。


「キッド、背中に乗せて逃げてくれるって。やっぱりこいついい奴みたいだ」


 ヒラクはキッドにそう言って、一緒に化け物の背中に飛び乗った。


 ところが、駆け出した化け物の足は遅かった。


「おい、こいつ、なんでこんなに遅いんだよ」


 キッドが苛立ちながら言う。

 キッドの後ろに乗っていたヒラクは後ろを振り返り、化け物が重たげにずるずると引きずるものを見た。


「わかった、しっぽだ。きっとしっぽが邪魔なんだ」


「ねえ、しっぽ切りなよ」


 ヒラクはのろのろと走っている化け物に言った。


「そんなことできるかってんだ。あたしゃトカゲじゃないんだから」


 化け物は息を荒げて言った。


「じゃあ、そんなしっぽもいらないじゃないか。なんで生やしてるの?」


 ヒラクに聞かれて化け物は答えに窮した。


「……それは、トカゲたちが勝手にこんな姿にしたから……」


「自分でどういう姿になりたいとかはないの? しっぽが生えててもいいの?」


「いいわけないだろ! こんなしっぽなくなった方がせいせいするわっ」


 山の爆発音にかきけされながら化け物は叫んだ。


 そのとき、火山弾が飛んできて、化け物に直撃した。


 化け物は悲鳴を上げて後ろ足で立ち上がり、ヒラクたちを背中から振り落とした。

 ヒラクが見ると、切断されたトカゲのしっぽが溶岩の欠片の下敷きになっていた。化け物の尻の先の切り口は筋肉が収縮して血も出ていない。


「しっぽが切れてよかったね」


 ヒラクが言うと、化け物は文句を言いたそうな顔をしながら鼻を鳴らした。


 火山弾はまだ飛んでくる。

 黒煙が空をおおい、稲妻があちこちで光る。


「こうしちゃいられない。行くよ」


 化け物はヒラクたちを再び背に乗せて走り出した。

 先ほどよりは速く走れるようだ。

 それでもどこか走り方がぎこちない。

 前足がイノシシで後ろ足が鳥だからだ。


 化け物の背中の上で弾みながら、ヒラクとキッドは振り落とされないよう必死にしがみついた。


 地割れした場所から赤い溶岩が噴出し、木々は燃え、森に火が広がっていく。木々をなぎたおし、あらゆるものを呑み込んで、山の傾斜をすさまじい速さで火砕流が流れ落ちてくる。


「もうだめだ」


 キッドは後ろを振り返り絶望する。


「飛んで! 飛ぶしかないよ!」


 ヒラクは化け物に言った。


「無茶言うんじゃないよ……あたしゃ鳥じゃないんだから……」


 化け物は喘ぎ喘ぎ言う。


「翼があるんだ。飛ぶ気になれば飛べる!」


「飛べっ、気合で飛べ!」


 ヒラクと一緒にキッドも必死になって叫んだ。


 化け物は、辺り一面炎に包まれる中、大きく翼を広げた。

 そして力いっぱい羽ばたきを繰り返した。

 重い体はなかなか浮上しない。

 それでも火の中を走りながら、化け物は必死に翼を羽ばたかせた。

 ヒラクは飛ぶことを一心に祈りながら固く目をつぶり、化け物にしがみついた。


 一瞬の浮遊感があった。


 ヒラクが目を開けると、化け物は一気に体を上昇させていた。

 下を見ると、先ほどまでいた場所に火砕流が流れ込んでいた。

 辺りに毒ガスが発生している。


「息を吸い込むんじゃないよ!」


 化け物はそう言って、翼を勢いよく羽ばたかせながら、速度を上げて飛び去った。


ヒラク……緑の髪、琥珀色の瞳をした少女。偽神を払い真の神を導くとされる勾玉主。水に記録されたものを読み取る能力や水を媒介として他人の記憶に入り込むことができる能力がある。最初の勾玉主である黄金王が手に入れたという神の証とされる鏡を求めて、勾玉の光が示す南を目指すが、赤い勾玉主である神王は剣を求めていたことを知り混乱。さらには赤い勾玉を手の中にみたときから、自分が神王ではないのかと不安になる。


ユピ……青い瞳に銀髪の美少年。神帝国の皇子。ヒラクと共にアノイの村で育つ。ヒラクが目指す鏡は神帝国では神託の鏡と呼ばれていることを知っているがヒラクには告げない。ヒラクを理解できるのは自分だけだと言葉で支配しヒラクを依存させていく。破壊神の剣に強い関心を示す。


ジーク……勾玉主を迎えるために幼いころから訓練された希求兵。ヒラクに忠誠を誓うが、ユピに対して強い警戒心を抱いている。


ハンス……ジークと同じ希求兵の一人。成り行きでヒラクの旅に同行しているが、頼りになる存在。酒好きなのが玉に瑕だが、ジークと共にヒラクに付き添い、助ける。


キッド……海賊島の女統領グレイシャの一人息子。三年前呪術師の島に来た時から髪が四季のように変色し最後には抜け落ちるようになった。呪いを解く旅としてヒラクを乗せて船を出し、やがて友情を芽生えさせる。ユピを嫌っている。


ゲン……・刀傷で片目が塞がった白髪交じりの初老の海賊。他の海賊たちからの信望も厚く、グレイシャにも頼りにされている。キッドを守るべく破壊神の島に上陸。


蛇腹屋……誰とも群れない謎の海賊。手風琴を演奏する音楽家だが剣士でもあり腕が立つ。ヒラクたちと共に破壊神の島に上陸する。


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