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神ひらく物語―勾玉主編―  作者: 銀波蒼
南多島海編
38/83

ヒラク危機一髪

(前回までのあらすじ)

呪術師の島にやってきたヒラクたち。下船したのはヒラク、ジーク、ハンス、キッド、カイ、蛇腹屋、他にキッドの仲間六人で、ゲンやクウ、そしてユピは船に残った。密林の中を探索するヒラクたちだったが、早速謎の幻覚植物に襲われた挙句、やっとの思いで逃げ出せたかと思うと、木の仮面をつけた奇妙な男たちに遭遇する。キッドは彼らのことを「呪術師」と呼んだ。


 太鼓の音が鳴り響き、仮面の部族がたいまつの火を両手に掲げ、跳ねるように飛び回る。

 カラカラと音を鳴らしながら仮面を回転させる男たちが輪になってその場で足踏みしている。

 輪の中心にヒラクたちはいた。

 ヒラクたちが連れてこられたのは、土がむきだしになった広場で、四方で焚き火の炎が上がり、不思議なにおいのする煙があたりに立ち込めていた。どうやらそこは何か儀式を行うための場所になっているらしい。

 ヒラクたちは蔓で後ろ手に縛られ、武器は一切取り上げられている。

 手風琴を取り上げられることに最後まで抵抗した蛇腹屋は、楽器を腹の下で守りながらそのまま失神してしまい、同じく後ろ手に縛られていた。

 異様な雰囲気の中で、ヒラクは隣にいるキッドに小声で尋ねた。


「三年前もこんなふうにして呪いにかけられたの?」


「いや、ちがう。俺が会った呪術師は一人だ。しかも森の中で遭遇して、呪いの言葉をかけられて、俺は逃げるように船に戻ったんだ」


「じゃあ、これから何が起こるかなんて……」


「知らねぇよ」


「まさか食われるなんてこたぁねぇと思いますが……」


 ハンスはひきつり笑いで言った。


「武器を取り上げられた以上、おとなしくしているしかない。油断させて隙をうかがいましょう」


 ジークは厳しい顔つきで言った。


 あとの若者二人はただ震え上がっているだけだ。

 カイは、注意深く辺りを見回し、何かの機会を狙っているようだった。


 やがて輪を作っていた男たちが道を開けた。

 ひときわ派手な仮面に木の実や鳥の羽でこしらえた首飾りを胸に下げた男がヒラクたちの前に姿を見せた。


「オマエたち、ナニものだ」


 片言の世界語で首飾りの男は尋ねた。


「シの王、また、くる。オマエたち、そうか?」


「死の王? 何それ?」


 ヒラクは首飾りの男に聞き返す。

 言葉が通じたことを確かめると、男はヒラクの前に来て、さらに質問を投げかけた。


「ハカイのカミ。スベテこわす。エライ。コワイ。だが、シの王、ハカイのカミ、こわした」


「……何言ってるんだ? こいつ」


 キッドはヒラクに耳打ちした。

 ヒラクも首をひねる。


「へったくそな世界語。何言ってるかさっぱりわかんねぇ」


 キッドは大声で言った。

 ぎょっとしたようにジークが言う。


「おい、奴らを刺激するようなことを言うな。自分の置かれた状況をわかっているのか」


「へん、どうせわかりっこねぇよ」


「けっこうわかるよ。言葉じゃなくて態度でさ」


 ヒラクが言うと、首飾りの男は勢いよく仮面を回し始めた。

 それが彼らの怒りの表現だということまではヒラクにはわからなかったが、周囲の男たちが鬼気迫る様子でにじり寄ってくることにいち早く気づいた。


「危ない、キッド」


 ヒラクは全身でキッドを突き飛ばした。

 背後からキッドの後頭部を突き刺そうとした男の石槍の先端が地面にくいこんだ。


 次々と仮面の男たちが攻撃を仕掛けてくる。

 両手の自由を奪われたままヒラクたちは逃げ惑う。

 だが仮面にぐるりと取り囲まれ、とうとう逃げ場を失ってしまった。


 そのとき、拘束をゆるめることに成功していたカイが、今がこのときとばかりに蔓を解き、頭に巻いていた赤い布から火薬玉を取り出して、男たちが掲げるたいまつに投げつけた。


 次の瞬間、鼓膜を破る音がした。


 硝煙の中、仮面の男たちは狼狽する。


「やった、逃げるぞ!」


 キッドは喜ぶが、逃げ道などすでにどこにもなかった。

 カイのしたことは火に油を注ぐだけとなり、取り囲む仮面の男たちの数は、先ほどよりもさらに増え、いまやヒラクたちを完全に危険視しているようだった。


 ヒラクはのど元に槍を突きつけられ、身動きが取れなくなった。

 それでも射抜くような目で首飾りの男をにらみつけている。

 仮面の向こうで男もまたヒラクを見据えているかのようだ。

 ヒラクは男に向かって言う。


「さっき、『死の王』とか『破壊の神』とか言ってたな。一体何のことなんだ? おまえが言っている神は、おれが探している神なのか?」


 男は何も語らない。

 ヒラクはなおも必死に食い下がる。


「教えてよ。おれは神さまを探しているんだ。何でもいい。おまえが知っている神について教えてほしいんだ」


「……オマエに、カミをカタル、イミない。シをモッテ、カミをしれ」


 そう言うや、首飾りの男は仮面を左回転させた。

 それを合図にヒラクに突きつけられた石槍が引き戻されたかと思うと、再び勢いをつけてのど元に向かった。


「ヒラク!」


「ヒラク様!」


 取り囲む槍に動きを封じられ、キッドもジークも叫ぶしかできない。


 そのとき、ヒラクはまばゆい光に全身を包まれた。

 光は槍を弾き、仮面の男たちは思わず後ずさりする。

 首飾りの男さえ、その場で腰を抜かしていた。


 ヒラクの両手の中で透明な勾玉が強い光を放っている。

 全身を包んでいた光はやがて手の中の一点に収縮した。


「おお、これはまさに神の光。破壊神に死をもたらした王の光ではないか」


 首飾りの男は突然ヒラクにもよくわかる言語で話した。


「なぜおまえが神語で話せるんだ」


 ヒラクの話す神語に、首飾りの男はヒラク以上に驚いた。


「その言葉……、その手の中の光……。あなたこそまさに死の王だ」


 ヒラクはわけがわからないといった顔をする。

 手の中の勾玉はすでに消えていた。

 しかし、もう危険を恐れることはなかった。

 ヒラクは拘束を解かれ、首飾りの男の家に招かれた。

 全員を解放し、一緒に行くという条件で、ヒラクは首飾りの男の家に向かうことにした。

 

 「死の王」とは一体誰なのか?

 首飾りの男の口から語られた事実は、ヒラクがここまで来た目的さえ覆すようなものだった。


           



ヒラク……緑の髪、琥珀色の瞳をした少女。偽神を払い真の神を導くとされる勾玉主。水に記録されたものを読み取る能力や水を媒介として他人の記憶に入り込むことができる能力がある。かつて黄金王が手に入れたという神の証とされる鏡を求めて、勾玉の光が示す南を目指す。


ユピ……青い瞳に銀髪の美少年。神帝国の皇子。ヒラクと共にアノイの村で育つ。ヒラクが目指す鏡は神帝国では神託の鏡と呼ばれていることを知っているがヒラクには告げない。目的は不明だが、ヒラクに対して強い執着がある。


ジーク……勾玉主を迎えるために幼いころから訓練された希求兵。ヒラクに忠誠を誓うが、ユピに対して強い警戒心を抱いている。誇り高い戦士であるため、野卑で粗野な海賊たちのことを快く思っていない。


ハンス……ジークと同じ希求兵の一人。成り行きでヒラクの旅に同行しているが、頼りになる存在。もともと港の人夫として神帝国に潜入していたことと調子の良さで海賊たちとは打ち解けやすい。


キッド……ヒラクと同じ緑の髪をした少年。海賊島の女統領グレイシャの一人息子。母親のことは苦手。四季のように変色し最後には抜け落ちる頭髪に悩み、かつて呪いをかけられた呪術師の島をめざす。


リク……海賊島の若い海賊。三兄弟の長男。バンダナの色は黄色。温厚で面倒見がよい。


カイ……三兄弟の次男。バンダナの色は赤。気が荒くけんかっ早い。


クウ……三兄弟の三男。バンダナの色は青。クールで人のことに興味がない。


ゲン……・刀傷で片目が塞がった白髪交じりの初老の海賊。他の海賊たちからの信望も厚く、グレイシャにも頼りにされている。


蛇腹屋……誰とも群れない謎の海賊。手風琴を演奏する音楽家だが剣士でもあり腕が立つ。


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