表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/95

とある音楽に纏わる思い出話

♯ 040

99年だか2000年だか忘れましたが、NAMMショーを観に行った帰り道。とりあえずワールドギターセンターの周囲に沢山ある小さなギター屋巡りをしていました。うーん、例えるならワールドギターセンターとは銀座三越。当たり前のド・スタンダードな高級ギターが高い値段で売っているだけです。逆に、その周囲は秋葉原みたいな感じで、マニアックな掘り出し物を探すなら周囲のガレージショップを巡る方が絶対オススメです。

そんなわけで周囲の個人ショップを巡っていると、ほんとに民家の一階を改築しただけみたいな小さなギター屋で、一人の日本人女性がギターを試奏しているのが見えて、私はそれに吸い寄せられるようにその店に入ったのでした。

店に入ると店主のオッサンはノリノリで、その女の演奏もホントに東洋人とは思えないような泥臭いテキサスブルースを完璧に奏でていました。そりゃオッサンも狂喜しますよ、すんごい演奏ですもの。私もビックリしました。ホントにレイヴォーンがそこにいるとしか思えないような『体験』でした。

一頻り演奏が終わると、私はすぐさま日本語で女に話しかけました。

「すんげぇ。あの、日本人ッスよね? 」

「え?ええ、まぁ、日本人だけど、ずっとこっちでやってきたから。」

「うわー、何なんだろう、日本にいたんじゃそんな音絶対出ないぜ。やっぱこっちで暮らして、その気分とか心とか…、まあ、そんなの身に付けなきゃダメなんかな?」

「…、分かんないけど、そうなのかな。」

私は一発でその女の虜になりました。己の運で偶然巡り会ったその女の演奏技術を絶対に手放したくないと思い、鰻じゃないですが一度手をすり抜けてしまったらもう二度と捕まらないんじゃないかと思うとヒヤヒヤしながら、私は慎重かつ綿密にその女を口説き、慎重に慎重に女を連れて行動しました。しかし、その女はわりと軽かった。

私とその女は、その小さな店を出た後、ワールドギターセンターに行きました。慎重なデートコースを選ぶならとりあえず定番第一です。

そしてワールドギターセンターに入ると、野村義男がギターを弾いていました。NAMM開催期間中は日本のギター弾きもL.A.に集結しています。ただ、こんなド定番な場所に来るのは野村義男くらい。別にいたって驚きもしませんでしたが、逆に野村義男のほうが私たちを見て驚いて 「NAMMショー見に来たの? そんでギターセンター? いいねー、カッコいいじゃん。」 なんて言ってきましたが、私は既に最高の逸材をゲットしていたので無視。女もリアルに野村義男を知らなかったため無視して、チョロッとアンプを見てすぐに店を出ました。

その後、サンタモニカまで移動して、私はその女と一夜を共にしました。

事を終えた後、ベッドの上で女は、なぜアメリカでギターを弾くのか、その訳を話し始めました。

女はまだ日本で暮らしていた高校生の時にCDジャケットの写真に一目惚れしてスティービーレイヴォーンのファンになり、彼のコンサートを生で観たいと思って高校3年の時に一人卒業旅行と題して一人でアメリカまで行ってみたそうですが、運命というかなんというか、その時の飛行機のニューステロップで『飛行機事故によりスティービーレイヴォーン死亡』というニュースが流れたそうです。それによって彼女の中の何かが変わったそうで、日本に帰ったらまずギターを買って、レイヴォーンの曲を完コピしようと取り憑かれたように練習し、『レイヴォーンの意思を継ぐ者』として単身アメリカに渡って、L.A.を拠点に音楽活動をやっていると話していました。

私は当時、日本のレコード会社と契約していましたし、彼女のを日本に呼び寄せてバンドメンバーに加えて新生バンドとして再契約出来るほどの実力も無かったため、その女とは一夜限りで後腐れなくサラッと別れて日本に戻ってきました。

それから10年以上経った頃、私のバンド人気もとうの昔に消え果て、過去の名声をツテに細々と地方の市民会館などを回って辛うじてライブツアーなどやっていた頃、名古屋のライブハウスでライブを終えて、お決まりのキャバクラ接待を受けていた夜のこと。その日、私に着いたホステスさんがやたらロック通ですごく話が弾み、まだまだ話したい事がいっぱいあったのでアフターでお持ち帰りしました。

その後、大須でホテルに入り、事を終えた後、彼女は思い出話をし始めました。

「私、ちょっと前までアメリカにいたの。スティービーレイヴォーンって知ってるでしょ?」

私は、その時に気が付きました。

しかし、彼女はまだ気が付かずに話を続けていました。


あの日、ワールドギターセンターで、この女ではなく、野村義男について行っていたら、私は今、どこで何をしていたのだろうか…。

気分は一段落。今日だけ、頭を捻らない思い出話でやり過ごさせて下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ