こたつのうえのミカンものがたり
その日、フユキはこたつの中でぬくぬくと温まっていました。窓の外ではまっ白な雪がしんしんと降っています。明日の朝には、歩けばキュッキュッと音が鳴るほどに積もっていることでしょう。
フユキはミカンをむいています。こたつの上にはミカンのたくさん入った木のカゴがあって、それはおばあちゃんが「好きなだけ食べていいよ」と言ってくれたものでした。
フユキはミカンが好きでした。口に入れたときに、甘酸っぱいジュースがいっぱい出てくるところが、たまらなく好きなのでした。今日もフユキは、大好きなミカンをていねいにむいて、かわいらしく身を寄せたそれらのうちの一つを口に放り込みました。
「あれ?」
そのとき、不思議なことが起こりました。フユキの体が小さくなったのです。まるで空気のゆっくりと抜ける風船のように、シュルシュルと小さくなってしまったのです。フユキの目線もまたどんどんと低くなっていき、そして最後には、こたつのふとんの部分しか見えないくらいになってしまったのです。
あまりに突然で、それに不思議なことだったので、最初、フユキは何が起きたのかわかりませんでした。
「どうしちゃったんだろう、ぼく?」
フユキは泣き出してしまいました。フユキの周りにあるもの、たとえば、こたつや、テレビや、食器棚が、フユキの目にはあまりにも大きく、あまりにもおそろしいものに見えたのです。
フユキが泣き出してしまってから、どれくらいの時間がたったのでしょう。いえ、あるいは、それほど時間はたっていなかったのかもしれません。ふいに、声が聞こえました。
「泣かないで、あなたが泣いていると、わたしも泣きそうになってしまうの」
フユキの後ろの、上の方から、雪のように白い白い衣装を身にまとった女の子が飛んできました。その人は今のフユキと同じくらいの大きさで、背中からは、衣装よりも白い、神秘的な羽がありました。
「きみはだれ?」
「わたしはソラっていうの。雪の妖精なの」
ソラはフユキのそばで着地すると、フユキの手をギュッと握りました。
「あなたのお名前は?」
「ぼく、フユキ」
「いい名前ね!」
フユキはもう、泣くのをやめていました。ソラを悲しませたくないという思いと、泣いていても仕方がないという考えがありました。
「ぼく、体が小さくなっちゃったんだ」
「大丈夫、そういうことって、だれにでもあるの。ミカンの魔法。きっと、いたずら好きなミカンがいたのね」
「もとにもどれる?」
「安心して、わたし、もどる方法ならわかってる。ミカンをまた食べれば、元にもどれるはずなの」
しかし二人は、こたつの上の方を見上げます。山のようなこたつの、そのてっぺんに、残りのミカンはあるのです。とても手を伸ばして届くような高さではありません。
「わたしなら飛んでいけるけど……」
「ぼくには、きみのような羽はないよ」
「うーん、あの大きさのミカンを運んで持ってくることも難しいし……」
「うん、だから、きみは飛んでよ。僕、登るからさ」
「できそう?」
フユキは「うん」とうなずきました。ソラもその様子を見て安心しました。
二人は、こたつの一番登りやすそうな場所を見つけて、そこから上を目指しました。フユキは手と足を上手に使って、こたつのふとんの斜面を少しずつ登っていきます。ときどき転がり落ちそうになると、すぐにソラが手を貸し、転がり落ちることなく登ることができました。
二人は協力して、そしてなんとかこたつのてっぺんまで登りきることができました。二人はハイタッチをして、それからミカンのもとで向かいました。
当然、ミカンもまた、フユキの目からは大きなものになっています。
「ぼく、こんなに大きなミカンを食べるの、はじめてだ」
「ふふふ、大丈夫、全部食べる必要はないからね」
「ううん、ぼく、ミカンは大好きだから、全部食べちゃうよ」
「ほんとう?」
ソラはくすくすと笑いました。フユキは一番近くにあったミカンから食べることにしました。少しだけもぎ取っては、口に放り、また少しもぎ取っては、また口に放り。そんなことをくり返しているうちに、ほんとうにフユキは、そこにあったミカンをぜんぶ食べてしまいました。
「ほらね、ぜんぶ食べられたでしょ?」
「ふふふ、ねえ、あなた、自分の体を見てみて」
「え?」
言われた通り見てみると、なんということでしょう。フユキの体は、すっかりもとの大きさに戻っていたのです。ミカンをぜんぶ食べることができたのも、不思議なことではありませんでした。
「ソラ、ありがとう。きみがいなかったら、ぼくはずっと、あの大きさのままだったよ」
「どういたしまして」
もちろん、もとの大きさにもどった今のフユキからすると、ソラはとても小さな雪の妖精でした。フユキの手の平にソラが乗ると、ソラはくるりとかわいらしく回転して、それから飛びました。
「また会える?」
フユキは不安になりました。もうこれっきり、ソラとは会えないのではないかと思ったのです。でも、ソラは言いました。
「安心して、また会える。ぜったいにね」
ソラは一通りフユキの周りを飛び回ったあと、どこかへ消えてしまいました。
窓の外ではまだ、まっ白な雪がしんしんと降っています。明日も、明後日も、あるいは、次の年も、そのまた次の年も、同じように雪が降ることは明白でした。