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20.

 広場全体を焼き尽くす程の火柱が天高く上がり、火の粉を散らしながら俺達は合体を完了させた。

 初っ端から全力全開の形態で挑む。

 これで奴を倒せればよかったのだが、そう甘くは無いよな。

 膜でも張ってあるのか、変身時の炎は織姫の身体を避けていった。


「へぇ……前とは少し姿が違うな」

「あぁ、ヒーローは挫折し戻ってきた時、必ずパワーアップしてるだろ。それと同じさ」

「虚仮威し……か」

「虚仮威しかどうか、直ぐにわかる」

「戯れごとを」

「おしゃべりはここまでだ。速攻でカタをつけさせてもらう……ぜッ」

「ふん……」


 地面を抉り飛ばし、急速接近し右拳を腰の位置で溜めた。

 通常の視覚では消えて見えるような速度の筈……だが、奴の目はしっかりと俺達を捕えている。

 ————が、一切動きを見せない。余裕という奴だ。

 その傲慢さが致命傷になると思い知れ!


「ッぁぁぁ!!」


 右足を突き刺し、急ブレーキをかけ停止。織姫の懐へと飛び込んだ。

 そして、溜めていた拳を顔面目掛けて一気に放つ。

 肘からは炎を噴出させ、加速させた高速アッパーだ。

 しかし、織姫は懐に潜り込まれた瞬間、身を反転させた。


「ほれ、どうじゃ」


 目の前で揺れる最高品質のポニーテール。

 何度見ても、見とれてしまう美しさだ。

 俺は……絶対にポニーテールを攻撃できない。 

 だから————そのまま真っ直ぐ、進路を変えずに拳を打ち抜いた。


「な、まさか!?」

「「当たれぇぇぇッ!!!」」

「ッ!! ぐぶッはッッ!?」


 渾身の一撃は見事、奴の澄まし顔に直撃しバゴンッと大きな爆裂音を鳴らした。

 大きく後方へと吹き飛び、壁にめり込む勢いで叩きつけられる織姫。

 硬い壁は砕け、砂埃をまき散らした。

 さっきのお返しだ、馬鹿野郎。


「な……ガハッ……貴様……よくも私のポニーテールを……」


 地面に落下し、四つん這いで苦しみながら恨めしそうに呟く。

 こいつは何もわかっちゃいない。

 俺がポニーテールに何をしてっていうんだ?


「おいおい、勘違いしないでくれよ。しっかりと触ってみな」

「な……に……? ————ッ……これは!?」


 自分の髪の毛に腕を伸ばし、手触りを確認する。

 ようやく気が付いたようだな。


「髪の毛に……一切攻撃が当たっていない……? それも……炎で焦げてない、だと!!?」

「当たり前だろ。ポニーテールは最も愛する髪型だ、例え敵であろうと傷つけるわけにはいかないのさ」

(……馬鹿と天才は紙一重とは、よう言ったものじゃ)

「神を憎んで、髪を憎まずってな!」

(上手いこと言ったつもりかッ!)

「……なぜだ……」


 ふらふらになりながらも立ち上がる織姫。

 あの一撃をモロに食いながら立ち上がるとは大したもんだ。

 じゃあ褒美に種明かしをしてやろう。


「いいか、織姫さんよ。俺は知ったんだ」

「知った……? 戦いの知識が増えたところで、技術は向上にないだろ」

「知識か……違うな」

「では……何を知ったと言う。私の動きをよんでいたのか?」

「それも違う。いいか、貴様は言ったな、『見掛け倒し』だと。それだよ」

「……?」

「俺は見た目をポニーテールにした。そして分かったんだ……ポニーテールは生きているんだって」

「……はぃ?」

「同じように見えて、実は皆違うんだ。今まで、表面上の彼女達しか見てこなかった愚かな俺はそれに気がつく事ができなかった。だが、今は違う。自らポニーテールにする事によって、ポニーテールが何を想い、何をしたいのかが手に取るようにわかる」


 公園で出会った幼女が気付かせてくれたんだ。

 

「それで……髪の揺れを先読みし、的確に髪だけに当たらないよう拳を放った……ということか」


 奴は確信めいたように、そう発言をする。

 だが、それだけではまだ三割。


「無論、それもある……だけどな、俺が自分の意思で都合のいい場所に隙間を作れると思うか?」

「…………何が言いたい?」


 見える、見えるんだ。

 ポニーテールの声を聞き、悩み、向き合った結果……俺は真の意味でポニーテールを見る事ができるようになっていた。

 そして……織姫の素晴らしいポニーテール、彼女が俺に必死に伝えようとしている事も。

 だから、代弁してやる。そう————


「織姫……お前のポニーテール、泣いてるぜ?」

「な、なにをわけのわからないことを!!」

(……妾もついていけなくなってきたの……)


 どうやら呆気にとられているようだな。

 俺にはハッキリと聞こえるぞ、ポニーテールの心の声が。

 織姫は狼狽えながらも、噛み付くように「妄言だ!」と言った。

 じゃあ証拠を見せてやるよ。


「そうか……なら言わせてもらおう。貴様、この尻尾聖戦を始めてからというもの……鏡で自分の髪を見てないだろ」

「————ッ! そ、それは……」

「アマノガワを壊し、想い人に会おうとする覚悟はすげぇ。でもな、その瞬間負けてたんだよ、お前は……自分の最も大事な相棒に目を向けれなくなった、その日にな」


 それでも尚、この美しさだ。

 万全の状態であれば、俺はその輝きによって半径十メートル以上近づけなかっただろう。

 好きな人に会いたい気持ち……それは少しわかる気がするし、下らないことだとは今の俺は思わない。


「た……たかが髪の毛の手入れを怠った程度で敗北する私では無い!」

「たかが……たかがだと!?」

「あーそうさ、髪型で力が決まる? それはお前達アルタルスの者だけだろう」


 その発言、無視できないな。

 昂ぶる感情に比例して、体からは炎がそこら中から溢れ出る。

 何もわかっちゃいないじゃないか。


「馬鹿者! そのポニーテールから伝わる感情、込められた想い……まさか忘れてしまったのか!」

「は、感情だと? 髪を結ぶのに特別な感情など必要あるか!」

「大好きな人の為に結んだ髪に嘘をつくなよ!」

「な……」


 本当に「たかが髪の毛」と思っているのなら、こんなにも素晴らしい出来になる訳が無い。

 髪型とは……とどのつまり、相手にどう見られたいか、だ。

 意中の異性の事を考え、必死に気を引こうとする熱い想いが織姫のポニーテールにはこもっている。

 だから、俺は惹かれるのだ。その隠れた熱意に、愛に。


「見える……見えるぞ。鏡の前でキッチリセットして、あーでもない、こーでもない

と模索し、毎日手入れを欠かさぬ天女の姿がな!」

「お……お前に何がわかる!? 一年に一度しか逢えぬ苦しみがぁぁ!!」


 確信を突いた言葉に怒りで返すと、織姫は俺達目掛けて真っ直ぐに特攻を仕掛けてくる。

 ここからは戦術とか、魔法とか、そんな間接的なものじゃなく、もっと直接的に……感情と感情のぶつかり合いだ。


「そんなの……分かってたまるかよ!」


 迫る拳を右手で受け止め掴む。そして反転し、背負い投げ。

 織姫は投げられる勢いを利用して高く飛んだ。

 壁を蹴り、空中で方向転換すると、再び接近してくる。


「イラ、すまん。ちょっと痛いかもだが、付き合ってくれ」

(あぁ、構わんよ。手騎の好きなようにするといい……そのかわり、手は抜くなよ)

「承知の助ッ!」


 肉薄する距離。俺は避ける動作を一切取らない。

 むしろ逆に、足を地面に突き刺し衝突時の衝撃に備える。


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