好きな物、それは・・・
(前回までのあらすじ)
美少女顔の男子高校生、一月はストーカーの車に故意に跳ねられ不慮の死を遂げる。
ありがちに白い空間で、ありがちに異世界転生を神に持ち掛けられるが。
空気が読めない主人公は秒で断るのだった(話が進まねぇ
「いや、しようよ~、転生!何で断るの?大人ならともかくも、普通子供・・・特に男の子とかは喜んで転生するものでしょ?色んな小説に、そう書いてあったよ?」
この自称:神は、一体何のリサーチをしているのだろう?
神を自称しているのに、地球のラノベなんて読んだりしているのだろうか?
いや、まさかねぇ・・・?
でも、神を自称しているくらいだから、逆に『拗らせている』方が正解なのか?
しかし、相手が中二病を拗らせていようがいまいが、自分の答えは一つである。
「いやですよ」
「どうしてぇえ~~~!!!?」
嫌なものは嫌だと再度、秒で返したら、叫ばれた。
全く煩い自称:神である。
その物言いに、少し自分の友達を思い出し、・・・その後ムッとする。
自分が友達に不本意ながらもある程度の好感を持っている可能性と、もう一つの可能性として、この自称:神が自分の好感度を稼ぐために、あえてその友達を多少真似ている可能性を思いついたからだ。
自分は確かに友達(内田)が一番親しいけど!
凄く内田の事が好きだと思われるのは、甚だ不本意である。
いや・・・嫌いじゃないけど・・・多少は好きですけどね?
死んでまで「お前すごく内田の事好きだろ?」って言われているみたいで不愉快だ。
自分のこの思いも自称:神とやらに伝わっていそうだが、まだ自称神には何も言われない。
そして自分は全く捻くれている、と思う。
更にもう一つの可能性も思いついてしまったからだ。
「そもそも、あなたに何も利益が無さそうなのに、何で行きずりの男子高校生なんかに異世界転生なんてさせるんです?」
そうなのだ。
突然、自分の前に神が現れる理由など、まるでない。
小説などではあるまいし『可哀そうな自分に同情して~』なんて展開は、自分には信じられない。それくらいなら、そもそも人間は生まれない方が良かったんじゃないかなとさえ思う。ほかの動植物に対して人間は多大な迷惑をかけているのに、神様が人間だけ愛しているなんてハッピーな思考は、自分はとてもできない。
逆に人間が問題を起こす前に全部天国に連れてってくれれば、地球上の生物すべてがハッピーハッピーで済むのだ。何故辛い現世なんてあるのかと考えれば、神さまがいないか、神が優しくないかどちらかじゃないの?
そもそも自分の実の親だって当てにならないのに、どうして無条件に他人を信じられようか。
世の中には確かに優しい人もいるけれど、それは決して神様じゃない。だから、優しい手が万能じゃなくて当たり前だと思う。気にかけてくれる人はいたとしても、実際に自分の助けになるかは分からない。
もし本当に万能の存在、神様がいるとしたら、せめて生まれる前にまともな家庭に生まれさせて欲しかったと、つくづく思う。
ならば神などいたとしても、ただの慈善事業をするような機構では在り得ない。
神だって、自分の利益(?)や行動原理に基づき動いているはず。
それならば、ポッと出のただの美少女顔の男子高校生を異世界に送るより、一芸に秀でた人物を送る方がよほどマシであると、自分にだって分かる。
自分は自分の程度が一番よく分かっている。
これでも多少は苦労した人生だったのだ。
現実を見据えなければ、今まで生きて行かなかったし、これからも生きてはいけない。
・・・もう死んでるけど。
自分の能力など、せいぜい中の上、高く見積もっても上の下程度だ。
その程度あれば、あとは努力の如何によって、ある程度の仕事にはちゃんとつけるはず。
だから、自分は日ごろの努力は怠っていないと思う。
逆説的に言えば自分が人より秀でているところなど、同年代と比べて堅実な人生設計と、不本意である美少女顔くらいしかないと自覚している。
ばぁちゃんに似たのか運動神経は悪くないと思うが、とびぬけて優れているというほどでもない。体力は普通だし、貧血・低血圧持ちだから、ある意味他人よりも体力面では劣る。
自分がこの人の立場なら、もっとポテンシャルの高い良い人材を探す。
というわけで自分が異世界転生する必然性が全く感じられないのだ。
自分からするとこの話は胡散臭すぎるのだが、自称神は気にした様子もなく、カラカラと笑いながら頭をボリボリかく。
「いや~、こっちの世界に勇者ほしいなーって」
と、ありきたりな事を言って、自称:神は笑っている。
なんだ、『勇者』って。
馬鹿なの?と思わず思ってしまう。
先ほどまでのやり取りで、自分が神に感情を読まれてると理解している事を、神も分かっているはずなのに、特に相手は気にした様子もない。
見かけだけの、ただの軽い男じゃないと思う。
いや、その見かけもあまり認識できないんですけどね?
普通に話しているのに、現実感を伴わず、壁にでも話している様な妙な感じである。
本当にどういう仕組みになっているんでしょうね、コレ。
認知に違和感があり過ぎてすこぶる妙な気分だ。
「『勇者』云々の真偽はさておき・・・自分が勇者になるより、もっと秀でた人間がいるでしょう?」
こうなってくると、この男の言う『勇者』の定義も激しくツッコミたいが、まずはそこじゃない。
「3次元生命体の理論だけで言うとそうだけどさ~。人間、肉体の頸木は死んだら取れるから、意味ないんじゃない?」
「まぁ、そうですが・・・」
確かに、そう言われればそうだな、と納得してしまう。
どんなに頭脳や肉体に秀でた才能があっても、結局のところ死んだら意味がない。
人間の才能というものは、おそらくは大概、肉体の器に左右されるのだろう。
頭の良さも、運動神経も、肉体があって始めて成り立つ。
精神の方はどうかな?
魂が人類に観測できていない以上、精神と魂の関連性は不明だ。だが、肉体よりは関連があるのだと思う。
となると、性格で選んでるのか?
それも何だか妙な話だ。
ならば神だと言うならば、転生される器を頑強にすればいいのだ。
「それなら、才能がある現地人を雇用すればいいじゃないですか」
そう自称神に提案する。
いつも疑問なんですよね。
なんで異世界転生物は、異世界人なんだろう?っていう所がですね。
別に同世界人でもいいんじゃないですかねぇ・・・?
現地雇用勇者だって何の問題もない筈だと思うんだけれども、小説だととても少ない。
まぁ小説だから当たり前だ。
理由も分かっている。異世界転生の方がきっと面白いからだろう。
ただ、真面目に仕様を考え出すと、そんな所に変な疑問を持ってしまうだけだ。
ところがここで、相手は特大級の爆弾を落としてきやがった。
「そもそも、現地に人が殆どいないんだよね」
・・・は???
な ん で す と?
一体さっきから言っている所はどういう世界で、この自称:神は自分に何をやらせたいというのか?
「いやぁ、とりあえず勇者って言ってみたけどさぁ。気取って言ってみただけで」
「」
「あ!・・・いやぁ~『勇者』っていう意味合いも正しいよ?正しいけど、神にはあまり関係ないかなーなんてなー???」
・・・そういうものなのか?
むしろ『勇者』って神様の方に関係ある気がしていた。
神に認められたから『勇者』って名乗れるのかなぁと。
それとも純粋にランダム職業か何だろうか、って思ったけれど、そもそもゲームとかの話なのに真面目に考えている自分に気が付いて空しくなる。
勇者。
そもそも勇者なんてリアルにいないよね。
メシアはいるけど・・・。
リアルにジョブってバカじゃないの、自分・・・。
「まぁ字面から見るとさー『他の人よりも勇敢な人』って事じゃん~?英雄とかと似たような意味合いじゃん?他の人間がいない世界なら、意味ないよね~。比較対象いないもん!人間一人しかいなかったら、誰もが勇者だよ!アハハハハ!!!!」
爆笑している、自称神だが。
「それ・・・、そもそも転生してまで行く意味が無いじゃないですか?」
勇者ってアレでしょ?
普通だと人を守るとか、誰かを守るとか、何かの為に戦うとか、そういう存在だと思うのですが。
人もいないのに何しに行くのよ。
ジョブ名はともかくも、業務内容が不透明過ぎる。
そう思っていたのだけれども、自称神はあっけらかんと答えた。
「あるよー。意味がある、そういう体にして生きてもらう。それだけで世界が浄化される」
浄化?
浄化ってなんだ?何を浄化させようとしているんだ?
だが行くだけで浄化なるものが済むのならば。
「ならばご自分で行った方が早いのでは?」
「神が行ったら3次元じゃなくて、もはや世界が神界に格上げしちゃうじゃん~意味ないよ~(笑)!!!」
爆笑されたが、神様の世界の事など知るわけもないから、笑いのツボがイマイチわからない。
「まぁ、とにかくねー?後の世で『勇者』って呼ばれてもおかしくは無い立場だよね~。だから分かりやすいかなって思って、勇者って言ってみた」
そうあっけらかーんと、自称神が言う。
何となくてへぺろっていう雰囲気だ。
勇者っていう名前はどこまでもふざけているが、役割は逆にふざけていないのか?
逆に質が悪すぎる気がする。
「結局・・・なんで自分なんです?」
百歩譲って誰かが人間清浄機?・・・なのかな?世界の浄化のために行かなきゃならなかったとしてもだ。
やはり自分である必然性がまるで感じられないのだが、当然とばかりにその疑問にも自称神は答える。
「えっとねぇ・・・現地人は生きていることは生きているけれど、地底人みたいな感じでー」
「地底人」
地底人ってなんだ、地底人って。
何となしにUMA的な要素を彷彿とさせられるんだが。
「昔は地上に住んでいたんだけど、星力で戦争しちゃって、地上は星力汚染で人が住めないんだよね」
「人が住めない」
えっ?
まさかの人が住めない土地に飛ばされるの?
誰かと戦うとかそういう事じゃないの?
えっ!?
あと星力ってなんだ・・・?
「あ!星力って・・・ん~この世界だと魔力とか電力みたいな感じ?あっちの世界って星の運航に神々を感じたらしいんだよね(笑)!で、だ。汚染をこのままにしておくと、他の世界にも具合が悪いし、だからと言って星ごと滅ぼすのも、汚染が飛び散って他の世界に悪影響があるからさ~、流石にそろそろ掃除をしなきゃって思って~」
「掃除」
人類だかなんだか知らないが、現地の知的生命体が盛大にやらかしたことを軽く言う感じは、はじめてこの人物に神っぽさを感じる。
人が絶滅に危機に瀕しても、神様的には大した問題じゃないのかもしれない。
いわゆる、今、地球で例えるならばノアの箱舟的案件を相談されているって事ですかね?
いや、現在進行形で自爆洪水中案件って事?
「汚染星力清浄ができる人間を一人置いておいて、居てくれるだけで徐々に汚染星力を分解、自然星力状態に戻す遺伝子を持った体を漸く作ったってわけ・・・!凄いよ自分!!!力作!人間のデザインを損ねることなく、機能だけ頑張った!・・・あっ!こっち的にはスキルっていうの?スキルぅ~(笑)」
適当にラノベ風に寄せてくる自称神に、地味に『ウゼェ・・・』って思ってしまう。
頼むから無理にリアルを、ファンタジーに寄せないでほしい。
ありのままでいいから!
どんなに荒唐無稽でもいいから、ファンタジー盛りにするのは止めてほしい。
「あと星力って魂の次元にも被っているから、長らく汚染地域にいた現地人の魂だと、今更、器を頑強にしても多分ダメかも?」
「ダメ・・・?」
「具体的には汚染星力を取込み、奇妙な自己進化を促し、異常生物になって発狂して魂も壊れる・・・?カモ?」
エグイ。
エグすぎる。
なんで現地人は星力なんて汚染させたんだ・・・。
現代社会の人間としては、身につまされる話題ではあるが・・・。
「という訳で、君にしたわけだ」
「いや、異世界人の必然性だけは分かりましたが・・・」
やっぱり何で自分が選ばれたのかは、結局分からないですね?
あれですかね、ダーツで決めたとか、たまたま死んでた時にかち合ったとか偶然の要素・・・?
こんなに地球に人口がいるのに???
もっと頭がいい人とか、サバイバルが好きな変人とか素養がある人が居ると思うんだけど。
「いやー自分としては誰でも良かったんだけどさぁ、三次元生命体には結構厳しい条件みたいだね?まず適応力がいるから絶対若い人の魂ね!あと孤独に慣れていて、理性的で、独りで過ごすのがある程度好きな人じゃないとねー!人に会えたとしても、滅多に会えないからさー!だけどさぁ若い子はほら、チートとかハーレムって好きじゃん?他人にスゴーイスゴーイされる奴?あれ無理だから(笑)」
「・・・求められているのは”雇われ隠者”みたいなものですか」
「そうそう~、そんな感じ!!!」
神が手をたたいて喜び、そう言う。
18世紀頃、貴族の間でそういうのが流行ったらしい。
庭に世俗を捨てた隠者を、自分の庭園に置いておくのがブームになった。
何故そんなものが流行るのかは分からないが、アレは結構キツいらしい。
何十年と世俗と離れた生活をさせられるので、報酬につられて希望して隠者になっても、逃げ出したり、近所のパブにこっそり出入りして首になる人が多かったそうなのだ。
確かに自分は他の同年代の人たちよりも、一人が好きなところがある・・・と思う。
なんたって他人に酷い目にあってきたのだ。
親にもひどい目にあったし、知らない人にも、同級生からも酷い目にあった。
今回だって全く知らない他人の訳の分からない妄想で殺されたと思うし、多少人間不信の気があるのは否めない。
ただ、完全な人間嫌いでもないと思う。
ばぁちゃんにしろ、内田(友達)にしろ、気の置けない僅かな人間だけ穏やかに付き合っていきたいと思うのだ。
今のところ高校と相性が良くて、自分に変に興味がある人が少なく居心地が良かった。可もなく不可もない人でも、それなりに穏やかな関係が築けていたと思うのだが・・・
ホント、今回は油断した。
いや油断しなかったとしても、車で突っ込んでくるなんて避けられる気がしないんだけどね。
「逆に言うと、今度は自分に得がないですよね?」
世界に絶望したら、たぶん隠者みたいな生活になっていた気もするんだけど、少なくともまだ自分はそこまでいっていない。
隠者生活をやりたいかと言われれば、どちらかと言えば答えはNOだ。
「えー・・・いいじゃん?こっちではもう死んだんだし?君の体感としては、死なない為に別の世界に移動するようなもんじゃん?」
などと自称:神が言う。
しかし、だ。
「それって人命を人質にした恐喝行為じゃないです?」
何か、その言い方というか、その理由は気に食わないのだ。
別にこちらが頼んでいる訳でもないのに、何なのだ?
交通事故を助ける見返りに、自分の奴隷になれって言われている気がする。
紛いなりにも神を自称するなら、そういう事をやっていいのだろうか?
ダメでしょ。
「君、本当に高校生?」
自分が拒否をすれば、呆れたような声音で自称:神にそう言われた。
若いからって侮られていたのか、それとも簡単に口先三寸で終わる話だと思ったのか。
そう簡単に自分は納得しないと思う。
だが、しかし。
自称神なるものも、そう簡単には諦めない。
そりゃ、自分の管理する世界・・・?なのかな?それの解決策がかかっているのだから、穏便に済ませたいのだと思う。
「でもまぁ・・・、やっぱり君、もう死んでるし?」
「はぁ」
「しようよ転生」
「いやです」
「だってさ~?このまま君がこの世界で転生しても、今の記憶残らないよ?人間ってなぜか記憶を大事にするじゃん?魂に刻み込まれたものは大事にしないのにね~?変なのー(笑)」
やはり何が可笑しいのか、ケタケタと無害そうに笑う自称神。
この辺、神が残酷なのか、人間が未熟なのかは自分には分かりかねますが。
少なくとも自分と価値観が違うという事は分かる。
価値観?見えている物が違うんだなとは思う。
「いいです。だって地球には醤油があるじゃないですか。・・・あ、もし可能なら、今度はフツメンにしてください。余計なトラブルはもうこりごりです。自分は普通の人生が歩みたいです」
一応、ダメ元でそう提示してみる。
自称神の人が、自分を任意で転生させられるかもわからないが、言ってみたらワンチャンできるかもしれない。その程度だ。
ただ、キモメンとかブサメンは流石に嫌だなぁ。
後は人間ではなくミジンコに転生しました、とかさ。
人間ではなかったら、その生は短いだろう。次の次に期待だ。
「爺臭いなぁ。・・・ハッ!よ~し!わかった!ここはチートって奴を付け・・・」
「過分な能力は身を滅ぼしますよ」
さっき、自分でチートはないって言っただろうが。
まぁこの神の先ほどからの論調からすると、『世間のイメージであるチートはないけれど、相対的に見てチートと言えなくもない能力はある』などと言いたいのだろうとは思うのだが、自分がそこまでこの相手に理解力を示す必然性を感じられない。
そして自分で異世界へ行く気はないのだが、仮に別の誰かが行くとしても、そもそもチートって奴はもろ刃の剣だと思う。
たとえば、急に地球の重力が無くなったとしたら、大勢の人間がコントロールを誤って死ぬと思うんだよね。例えば、急に人類の筋力が3倍になったとしたら、いろんなものをぶっ壊したり人が死ぬと思うんだよね。
そんな感じで、現実だと物語みたいに過分な能力は使いこなせる気がしない。
しかしそうは言ったとしても、過酷な環境に行くからには、ある程度生き延びる能力はいるだろう。それに神も現地に置いておく人間に長生きをしてほしいのだろう。多少は何か能力がついてくるはずだ。
少なくとも自活ができる程度の能力はくれると思う。
ただし、その能力があっちの世界基準なのか、こちらの世界基準なのかは分からない。
チートなのか普通なのかは分からない。まぁ比較するまでもなく、比較する人類がいないらしいのだが。チートとは他人と比べて優れている状態だと思うので、やはりチートという概念自体が無意味に思える。
それに、もう一つ問題がある。
同じ地球の中でも文明が違うと鬱になる人もいるのに、異世界になんか行って精神は大丈夫なんだろうか?
行く気もないのだがそんな心配をしてしまう。
だから若い人なんだろうけれど、問題なく適応できるのは小学生以下じゃないかなぁ・・・?
しかし、それだと逆に現地では生き延びられずにすぐ死にそうだ。
ゲーム的に言うと、精神耐性みたいなものがつけられるのかな?
「君、本当の本当に高校生なの~?」
一方で自称:神が、自分の言動や態度に腕を組んで首をひねる。
失礼な。
人生堅実設計と言ってください。
色々シュミレートするのが癖になっているだけです。
「苦労したので」
うっかりしていると死んでもおかしく無かった環境だと思う。
ネグレクト母と暮らしていた時も死にかけたし。
父と暮らすようになってからも、父は仕事は有能だったらしいが、生活能力が皆無だった。従って、自分がしっかりするしかなかったのだ。
ばぁちゃんと暮らし始めて、始めて落ち着ける環境を手に入れたと思う。
・・・・・・確かに『異世界転生』と言われれば、自分もまだ子供だから、わずかに興味がない・・・事もない。
記憶を持ったままで別の世界探訪?
ちょっと楽しそうだよね。
人と会えないっていうのは、どれくらいメンタルを削られるのかが分からないけれども。
ただ、『完全に安全が保障されていれば』、みたいな話だ。
向こうの世界に行って、帰ってこれるのならば行っていたかもしれない。
今回は帰れないどころか、そんな安全性の保証はどこにもない訳だ。
最悪のケースとしては、向こうに転生して、自分の魂も汚染されて終わりってコース。
ならば今回の事で人間には魂があると分かった以上、地球に転生の方が絶対安全に思える。
異世界転生などと訳の分からない博打を打つくらいなら、記憶がなくても地球に転生コースなら、あわよくば日本に再び生まれて、再び和食が!食べられるかもしれない。
たとえ外国に生まれたとしても、ある程度堅実に生活したら、日本食が食べられる環境になるかもしれない。
ばぁちゃんの和食で育った人間としては、和食が無い人生なんて考えられない。
転生して記憶がなければそこまで拘らない気もするんだけど、魂に刻み付けられる物もあるって話だし、和食がそれに相当する気がするんだよね。
大げさかなぁ?
ラノベとかを読むと、時々思うんですよね。
自分は米が無くてもパンでも生きていけそうだなぁって。
炭水化物にはそこまで拘らないのだ。
ただ、オカズは時々は和食がいい。
和食。
いや、自分の和食を食べたい欲を突き詰めて考えていくと。
自分の中で最終的に最も外せない物、それは『醤油』だった。
カツオが無くても昆布を探せばいい。
塩が無くても、醤油は塩分濃度が高い。
だが、醤油一本あれば、どんな食生活が悪くても、そこそこ我慢できる。そんな気がするのだ。
なければ作っちゃえばいいじゃなーいという話もある。
異世界転生の定番だと、料理チートだがどうだろうか?
自分は料理など得意ではないので全く期待できない。
しかし。
う~ん・・・。そもそも異世界でそう都合よく材料が見つかるのだろうか?
昆布などは自力で海を探したら見つかる気がする。
鰹節もなかなか難しそうだ。
だが、アゴ出汁やらもあるし、出汁に関しては代替がある気がする。
一番難関なのが、やはり実は醤油なんじゃないだろうか?
魚醤で満足できれば何とかなるかもしれないが、どうだろうか?
いや、魚醤だって一生あって開発できるかは微妙なところじゃない?
異世界だと、かもす菌も勿論違うと思うんだよね?
発酵関係は全滅だろうか?
納豆は食べなくても生きていける気がする。
偶には食べたいが・・・食べなくても死ぬ!とまではいかない。
しかし自分の人生において、やはり醤油は絶対無いとダメだ。
煮物はもちろん、下味、焼き鳥のタレ、刺身、さまざまな料理で活躍する万能調味料だ。
ミソも捨てがたいが・・・うーんミソもたまり醤油が取れると思えば、ミソの方が本当はお得なのか?
だが使うシーンを考えると、圧倒的に自分は醤油なんだよね。
いや、味噌も好きだけどね。でも醤油なら目玉焼きにもかけられるし、焼き魚も醤油、餃子も酢醤油・・・肉も醤油・・・できれば酒と砂糖が欲しいが、タレが作れる。餅にも醤油ぬって磯辺焼きにしたいし、貝類は酒と醤油を垂らして焼きたい。
何か不足があっても、自分は醤油があったらまぁいいやと思える人間なのだ。
だが、恐らく異世界には醤油など無いだろう。
あったとしても、異世界醤油味に満足できるだろうか?
いや、まてよ。
まず現地人の味蕾がこっちと同じとは限らないわけで、和食を美味しく感じられない可能性もある。やっぱり異世界転生ってリスキーな気がする。
・・・現地の人類(?)が既に滅びかけているって事は、アルマゲドンが終わっている訳で、地球より文明がある意味発達しているのだろうか?
それならば地球より美味しいものがある?
しかし、現在滅びかけているのなら、食料にも期待が持てないな。
あれ?そもそも誰もいない世界で、異世界転生しても結局どうやって生きていくの?
霞を食べるの?
星力に汚染されたという謎進化生命体を食うの?
いくら自分が我慢強い方だとしても、食が細い方でも、一生何も食べないっていうのは流石にどうかなと思ってしまう。
こんな状況、耐えられる人がいるのだろうか?
そこはかとなく気が触れるフラグじゃないでしょうかね?
ああ、うん。
これは、迂闊な人間じゃなければ、誰も行かないんじゃないかな?
そんな気がしてきた。
でも、きっと友達(内田)だったら絶対行くだろうなって思う。
行ってから後悔するな、アイツなら・・・。
やっぱり異世界転生じゃなくて、同世界転生至高!っていう結論になった時だ。
「・・・じゃあ好きな醤油出す能力を」
ボソリ。
そう、自称:神が提示した。
ずきゅーーーーーーーん。
何かが自分の心を打ちぬかれるような衝撃が走った。
好きな・・・醤油を出す能力・・・だと・・・?
「行きます。余生だと思って旅するのも楽しそうですね」
気づけば先に口が了承してしまっていた。
自分の事ながら安い!自分!
「醤油に負けた・・・。」
一方で自称神は、今までに無いくらい疲れた様子だった。
何であなたが疲れるんですかねぇ?
それにしても、異世界・・・。
星力なるものに汚染されているとはいえ、貝類くらい・・・ありますよね?
魚でもいいですけど。
星力汚染・・・?でしかっけ?
生物が全て食べられないとかないよね?
知らない人に話しかけられると「詐欺かな?」と思うタイプの主人公。
雇われ隠者・・・庭園隠者とか鑑賞隠者とか
かもす・・・醸す。なお、醤油はオリゼーじゃなくソヤーのお仕事
魚醤・・・魚を塩漬けにして発酵させた醤油的な物。日本では厳密にいうと醤油に分類されていないらしい