魔王「なんか勇者に愛された。逃げていい?」村人「逃げろ」
なんというか……まぁ、タイトル通りです。
この作品は『ハーメルン』様に投稿した自分の作品を編集したものです。
『ハーメルン』様に投稿したのはギャグ要素が強かったですが、此方はホラー系になってます。
……言うほどホラーではないと思いますけどね。
「くっ……さすがは勇者。我の完敗だ」
ここはとある異世界……人間と魔物の戦争が起こっていた。魔物は『魔王』と呼ばれる存在を筆頭に、人間を劣勢へと追い込んでいった。
しかしそれも数年前の話。
何処からか『勇者』と呼ばれる存在が現れたのだ。
勇者は魔物を息をするかのごとく倒していき、魔物の中でも力のある『幹部』と呼ばれる者も倒していった。
勇者はとうとう魔王の居る場所までたどり着き、自身の目の前にいる大男を倒した。
彼の名前は魔王。
赤いマントを着ていて、二本の角が生えていたが勇者との戦いでマントがボロボロになり、角が二本のとも根本から折られた。
魔王は倒れた体をゆっくりと起こし、立ち上がりながら両手をあげた。
「ふっ……我の望みは砕けた。さぁ、どうにでもしろ……」
勇者は自分の身長ほどの剣を持ち、魔王と対になるような青いマントを靡かせながら一歩、また一歩と魔王に近づいて行く。
魔王と比べて、勇者はぴんぴんとしておりまだまだ余力があると感じられる。
例えここで何処かにテレポートしても逃げられないだろう。魔王は目を瞑り、勇者の攻撃を待った。そんな魔王の表情は笑顔であった。全てを出しきり、負けた。何故ならそれが悔しくも、自身を負かした相手を認めたからであろう。
「…………」
勇者は魔王の後ろの壁に剣を投げた。
剣はまっすぐダーツのように飛んでいき壁に刺さった。
その剣を中心に壁には蜘蛛の巣状に亀裂が入った。
「なんの真似だ」
「魔王……好きだ!」
魔王は目が点になった。それと同時になんだか嫌な予感がしてきた。
今までの戦いを無かったことにするような、さっき以上に自身の危機が迫ってるような気がした。
「お、おい待て近づくな」
魔王は勇者から一歩離れると、勇者も魔王に一歩近づく。
なんかもう、逆だろ。普通勇者がピンチになって逃げるような光景だろ。
そう言いたくなったが、魔王はそれよりもどうにかして勇者から逃れる方法を考えていた。
そうして逃げていく内に、亀裂が入っている壁まで下がってしまったようだ。
壁を壊して逃げたところで、一瞬で回り込まれるだろう。
考えろ、考えるんだ……そうして魔王はある質問を思い付いた。
「勇者、一つ聞きたい。何故我なんだ?」
これはただの時間稼ぎ、この質問を答えている間に隠れよう。そしてもう引きこもろう。魔王はそう考えながら、隠れられる場所を探した。
「魔王が好きな理由? 少し長くなるが……
まずは魔族の王であり、その圧倒的カリスマ力だな。オレが最初魔王と会った時は凄くかっこよくて鳥肌が立ったな。今でもその感覚は覚えている。それに魔法の威力が桁違いなところもあるな。弱魔法でも町一つ半壊させるほどの威力を持ってもなお、部下に優しいところだな。あ、これは魔王の幹部から魔王素晴しさを一緒に語ったときに知ったんだ。それに部下に優しいところだな。これもさっきの幹部に聞いたが、オレを仕留め損なった幹部を魔王は許したと聞いたんだ。え、その幹部はどうしたって? オレの自宅で隠居生活を送ってるぞ。まぁそれは置いておこう。それにオレは今でこそ勇者だが、昔は魔王に婿入りしようと考えていたんだ。それなのに勇者になれとか言われてどうしようか考えたが、勇者になれば合法的に魔王に会えると考えたんだ。なぁ魔王、今からオレの自宅でで隠居生活をしないか? 安心しろ、さっき話したように幹部は居るし、オレがお前を倒したと話せば世間は納得するだろう。さぁ、オレと一緒に愛の巣を築こうじゃないか!」
長い。
ただそれだけに尽きる。
勇者は呪文のように魔王の魅力を語っている。
魔王は今まで生きていて感じたことのない恐怖を感じた。
その恐怖は膝が震えるなんてものではない、精神が壊れてしまうような、底が見えない恐怖である。
魔王は勇者が喋っている間に魔法で何処かへテレポートした。
何処にテレポートしたかは魔王にも分からない、今すぐにでもそこから逃げたかった。
「ここは……村か」
魔王はテレポートした場所を確認しようと周りをキョロキョロとしていると、村が近くにあるのが見えた。
「なんじゃお主?」
そう魔王がキョロキョロとしていると村人が話しかけてきた。
魔王は焦った。村人から、人経由で勇者に居場所がバレていけないと。
仮にコイツを消したとしても、まだ村人は居るであろうし力加減を間違えると、魔王ないしは強大な力を持ったものが暴れたと思われて不審に思われてしまう。どうしようか考えようとしたが、
「迷ったのか?」
目の前の村人は魔王の姿に驚くことは無かった。
何故なら魔王は大男ではあるが、魔物の象徴であった角は根本から折られており、そこにいるだけで押し潰されるような力も殆ど使ってしまったので魔物だと認識されないのだ。
「実は……我は魔王なんだが、勇者に隠居しようがなんだろが、結婚しようと言われたのだ」
「それはそれは……」
魔王は精神的に参っており、自身が魔王だとバラしてしまった。
しかしながらも村人は驚きながらも、話を聞いてくれるようだ。
早く休みたい。魔王はそう思い、簡潔にそして分かりやすく説明した。
「なんか勇者に愛された。逃げていい?」
「逃げろ」
魔王は村で隠居することにした。もう戦いたくない、平和に暮らしたいと願いながら。
翌日、勇者が魔王を捕まえようと国家を動かして捜索するのは、また別の話である。
【魔王】
魔族の王でありながら、部下のミスを許す広い心を持っている。
【勇者】
魔王に憧れて鍛えた結果、魔王より強くなった。