悪意の具現フカイラム
誤解から謎のアメリカ人に撃ち殺された鮫だったが、明日から会社に行かなくてもいいという解放感からそれほど悪い気もしないのだった。
あな恐ろしきは現代社会の闇ブラック企業勤務。
鮫の強靭な精神力をもってしても抗えぬ責め苦なのだ。
「目を覚ましなさいメガロドン太郎よ。」
死んだはずだった鮫は謎の声に目を開く。
「誰だお前は!?」
「愛の戦士、フカイラム見参!」
「本当に誰だ!?」
フカイラムと名乗る謎の存在は羊が映画監督のコスプレをしたような姿をしている。
名前の通りどことなく不快で危険なオーラを放っているが、新手の悪魔だろうか?
「私は人類叡智の結晶たる鮫映画の神です。」
「それは浅い方のラムでは?」
「いかに鮫と言えどもそれ以上いけない。諸事情によりディープなラムなのです。」
「はぁ・・・?それで鮫映画の神が私に何か用ですか?」
「私は哀れなあなたにチャンスを与えに来たのですドン太郎さん。」
「誰がドン太郎だ。それはさておき哀れとはどういう意味ですか?」
「善良な鮫であったあなたは冤罪にもかかわらず殺されてしまったでしょう?」
「事故を起こした私にも落ち度は有りますし、あの状況では仕方ないと思いますけどね。」
「今常識的な意見は求めていません。あなたには人に対する恨みを晴らすチャンスが与えられたのです。」
「いや、別に恨んでいないんですけど。」
「黙りなさい。拒否権は有りません。」
「えぇ・・・?」
なんだろうこの答えの決まった問答。会話になっていないぞ。
「あなたは異世界に転生して、愚かな異世界人に鮫の恐怖を叩きこむ役割を担ってもらいます。」
「なずぇ?」
「鮫の脅威を知らしめることで異世界でも鮫映画を流行らせるためです。」
「完全なる私利私欲じゃないですか。あなたは本当に神なんですか?」
「神の仕事はつまるところ限られたパイの奪い合いなのです。誇りで腹は膨らまないし、信者がいなければ新作映画も作れないのです。」
保身のために他人を犠牲にしてもかまわないとは、この神を名乗る悪魔を野放しにしてはならないな。
気は進まないが世界平和のためにもここで始末しなくては。
「ところで神様、異世界へはどうやって行くんですか?」
「ようやくやる気になってくれましたか?そこにあるゲートから出ればクランクインですよ。」
「なるほどありがとう・・・貴様は用済みだ!」
私は羊の皮を被った悪魔フカイラムを噛み殺し、念入りに咀嚼してから飲み込んだ。
「ふう・・・恐ろしい敵であった。他に行く当てもないし異世界とやらに向かうとしよう。」
こうして鮫は異世界へと旅立ったのだった。
その前途にフカイラム以上の悪意が渦巻いているとも知らずに。