箱の中
「暗い…。」
「ココハドコダ?」
「狭いぞ?!」
僕はどうしてここにいるんだ?
確か…昨日は……。
そこまでしか記憶がなかった。
誰かに殴られたのか後頭部が痛い。
耳元を触るとヌルッとした感触が。
出血でもしてるのか?
横幅はあるようで腕は動かせた。
明かりが欲しい。
胸元やポケットを探すと携帯があった。
どうやら取られてはいないようだ。
携帯も繋がる。
すぐに110番したが、場所が分からない為どうしたものかと思ったのだが、今はGPSという便利な機能のおかげで場所はすぐに特定された。
どうやら県境の峠にいるらしい。
箱に入れられて?
揺れる感触もない為どうやら同じ場所に捨てられているようだ。
無音だ…。
鳥のさえずる音も聞こえてこない。
それほど箱が分厚いのか分からないが、何度叩いてもビクともしないこの入れ物に僕は苛立っていた。
「何で、…僕がこんな目に。」
箱の隙間からのわずかな光で今が昼間だとわかる。
だがだからと言ってどうにかなるものでもない。
足元に何かがあるらしくコツンと足の指に当たった。
「何だ?」
僕は靴を履いていなかった。だから分かったのだ。
足を器用に動かしてその塊が何なのかを探ろうとした。
足の指に引っ掛けたのはいいのだが手に届くまで足がうまく曲げられない。
そこであげられるだけあげると今度は体を下へとしゃがませ、問題の塊を取ることができた。
手にした時、嫌な感触があった。
そう、この塊に覚えがあったのだ。
この二つの大きな穴。
凸凹の何か。
そして極め付けが携帯の灯りで照らされた目に映ったソレ。
そう、それは人間の頭部に違いなかった。
白骨化していたのだ。
怖くてその場で手を離したが、ゴロンと転がるだけでこちらを向いている気がしてならなかった。
他にもゴツゴツしたものが足に当たっていた。
と言うことは白骨化した死体と一緒に箱に入れられてるってこと。
逃げられない恐怖に悲鳴も出なかった。
もしこれが本物の白骨遺体だとしよう。とすると犯人がいるはず。
もし近くにいて僕の声に気づいたらどうなるのか…。
恐怖しかなかった。
さっきでた刑事さん、早くこないかなぁ〜。
不安が僕の心を支配していく。
ただ呼吸だけは普通にできる為、箱は地上にあるのだろう。
いつまでそこにあるのか分からないが、それだけはと期待していた。
カタッ、そう音がした。
もしかしてここからでられるのか?でもどうやって?まさかもう警察の人が助けに来てくれたのか?
僕の期待はあっけなく終わった。何故なら箱が動いているから。
どうやら引きずられているようだ。体が傾く。
「おわっ?」思わず声が出てしまい、慌てて両手で口をふさぐ。
しかし、外にいる人間は気づいていないようだ。鼻歌が時々聞こえてくる。どこに連れていくのか不安だった。
しばらくすると動きが止まった。
そしてガタンとどこかに落ちるような急激な浮遊感とともに痛みが走った。
箱の中なのであちこちぶつけたのだろう…。
ガサッガサッと何か音がする。
もしかして生き埋めにでもされるのか?
恐怖が襲いかかる。
だがここで叫んでも犯人に何をされるのか分かったものではない。
涙が頬を伝った。
ここで僕は死ぬのか?
僕が一体何をしたって言うんだ?
誰か…助けて!
しばらくすると音はしなくなりシーンと静まり返った。
光は入らなくなっていた。
でもまだ息はできる。
再度警察に連絡を入れた。
ほとんど移動していないそうで、僕はさてどうなるものかと不安しかなかった。
箱の上を誰かが歩く音がする。
携帯のバッテリーはまだもっていた。
しばらくすると足音も聞こえなくなり、その時携帯から音楽が流れてきてビックリした。
誰からかと思い出ると、さっきの刑事さんからだった。場所がわかり、今向かっていると。
その話をしている時、足元を何かに触られた気がした。ここには僕と白骨遺体しかないはず。なら誰?いるわけないじゃん。
まさ…か、霊とか?
まさかね!そんなわけないじゃん。ここ箱の中なんだよ?いるわけないじゃん。…でももしかして…この白骨の人だったら?
真っ青になっていた。
そうなるともう何をするにも気になって仕方がない。
空気が動いた気がした。
何で?空気が動くなんてそんな馬鹿な話があるか?
そしたらさ〜また変な感触が…。
まさにそう、あったのだ。
耳元の空気が動くような何とも言えない感触が。
引きつった僕はついそちらに顔を向けてしまった。
そしたらそこに顔があった。
そう、顔だけが…。
「ひゃ〜!?」
思わず叫んだ。
これはもうどうしようもない。
外に犯人がいない事を祈るのみである。
しばらく待ったが誰も歩いてはこなかった。ホッとしたよ。
でもさ、ちょーっと空気が薄くなった気がするのは僕だけか?早く刑事さんこないかなぁ〜。
時計の針が1時間経った事を知らせるアラームが鳴った。そう設定していたから。
しばらくしたらザクッザクッと何かを引っ掻いて落とす動作が聞こえてきた。
コツンと音がして隙間から日の光が差し込んできた。
どうやら助かったようだ。
箱を無理やりこじ開ける音がする。
そして開くと同時に日の光で一瞬だけ目が眩んだが、すぐになれ目の前に立っている刑事さんと対面することができた。
救急車も来ていたようで、僕は傷の具合から応急処置を施され、救急車に乗せられた。
刑事さんは頷いて手を振った。
現場には沢山の警察関係者が来ていたようで、背中に鑑識官と書かれた服を着ている人が何人も見えた。
僕はそのまま救急車で病院に連れてかれ、処置を施された。終わる頃に刑事さんが来て、状況を聞かれた。
なので、今までのことを事細かく話して聞かせた。
その間は黙って黙々とメモを取り続けていたが、あのことだけは話せずにいた。そう、怪現象の事だ。
今でも体が震える。
いまだかつてこんな事に出会ったことなどなかった為、謎すぎたのだ。
今ではそう、狭い場所にジッとしていることは出来なくなった。
あのことを思い出すから。
あの箱の中の白骨はいったい誰だったのか??
刑事さんは教えてはくれなかった。
当然だ。
でもね?…知りたいけど知りたくない自分が今もいる。
犯人もどうなったんだろう…。
あ〜あ、今日も広い場所で寝なくちゃ。