表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

[2]

「めのちゃん、めのちゃん……」


 聞こえる、わたしの名を呼ぶ透き通った声。


「めのちゃん、めのちゃん……起きて、起きて」


 柔らかい優しい少年のような声。──誰? 聞いたこともない声なのに、不思議ね……とても懐かしい。


「めのちゃん、めのちゃん……ボクだよ、こはく」


 ──え? こはく??


 わたしはその名に驚いて瞼を開いた。パッチリと見開いた刹那、慌てて再び目を(つむ)る。どうしてって、ビックリするほど光が溢れて眩しかったからだ。


「大丈夫? めのちゃん。でも……大丈夫だったらココにはいないと思うけどね」

「え?」


 少しずつ機能していく視線の先は、琥珀色の世界だった。いえ、違う。こはく、だ。こはくが目の前でわたしを見詰めている! 僅かに首を(かし)げて、わたしの具合を探っているような、その表情は心配しているようにも見えた。


「こ、こはく!!」


 わたしは勢い良く身を起こし、こはくにひっしと抱きついていた。ってことは、わたしは横になっていたんだね。気を失っていたんだろうか? 今この瞬間のその前までを、思い出そうとしても記憶がない。


 触れる掌の感覚は、ずっと知っていたゴツゴツとした甲羅の肌触り。頬に触れるこはくの首筋がひんやりと気持ち良い。それは一定の間隔で波を打って、こはくの息遣いが、こはくが生きているのだと、身をもって感じることが出来た。


「こはく、会いたかった……生き返ってくれたのね!」


 涙混じりのわたしの声に、


「……違うよ、めのちゃん。めのちゃんが、ボクの世界に来たんだ。めのちゃんが……死んだんだよ……」

「……え?」


 おもむろに体勢を戻して、こはくの悲しそうな瞳を見た。わたし……死んだの? そう、だよね……こはくがいて、それも言葉を話すなんて、普通だったら有り得ないもの!


「どうして……死んじゃったんだよ。めのちゃんには、ボクの分まで生きてほしかったのに」

「ご、ごめん……」


 かち合った目線を外して下を向く。わたし、一体どうしてしまったんだろう……それとも、こはくと一緒にいたいという想いが、わたしをここへ導いたというの?


「とにかく行こう、めのちゃん。エンマ様も待っているから。さぁ、ボクの上に乗って」

「え……えんま、さま??」


 わたしの気を取り直そうとしてくれたのか、微かに明るい声を上げるこはく。その声色と内容に驚いて、咄嗟に顔をもたげたわたしの前には、もう背を向けてこちらを振り返るこはくがいた。


「乗って……いいの?」


 立ち上がり恐る恐る問い掛ける。


「もちろんだよ。めのちゃんは十二年、ボクをたくさん可愛がってくれて、この一年もずっと忘れずにいてくれた。せめてこの『虹の橋』を渡る時くらい、一緒に『甲羅散歩』を楽しもう!」

「う、うん!」


 こはくに集中させていた視界を広げてみれば、鮮やかに光る七色の道が見えた。きっとこの『虹の橋』が眩しかったんだね。わたしはそっとこはくの甲羅に(またが)る。わたしが小さい頃にはこはくもまだ小さかったから、わたしは公園の子供達のようにはこはくの上に乗れなかった。まさかそんな不可能なことが、こうして『あの世』で実現出来るだなんて!!


「行くよーめのちゃん! 良くつかまっていて!!」

「大丈夫だよ、こはく!」


 ──わたしはもう二度と、あなたを離したりなんてしないから。


 こはくが『虹の橋』に一歩を踏み出した。弓なりにのぼっていく七色の道。のっしのっしと揺れる度、周りの青空が上下に振れる。


 このままずっとこはくと旅をしたいくらいだ!

 爽やかな風にまとわれて、こはくとわたしは虹を渡った──。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ