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【以前、目次背景が設定出来ていた時に使用していた画像です】
どうして、どうして、どうして……!
どうして、あなたは死んでしまったの……?
ずっと一緒に居られると思っていたのに。
何年も、何十年も、それこそ百年だって、傍に居てくれると思っていたのに、
あなたはたった十二年で、わたしの許から旅立ってしまった。
どうして、どうして、どうして……?
昨年の冬、いつもより寒い年だったのに、ヒーターを強くしてあげなかったから?
それとも加湿器の具合が悪かったから?
良く考えて、良く思い出して。
あなたは何も言わなくても、きっと『サイン』を出していた筈なんだ……なのにわたしはずっと気付いてあげられなかった。
どうして、どうして、どうして……!?
わたしは大きなあなたの『カケラ』を抱きながら、いつの間にか速足で道端を歩いていた。
一年前の今日──。
十二年共に暮らしたあなたが逝ってしまった。
わたしは沢山沢山泣いて、それからあなたの躯を土に埋めた。
我が家の庭の中で、一番あなたが気に入っていたその場所へ。
大きなハナミズキの木の根元、あなたは必ずそこで気持ち良さそうにお昼寝していたよね。
寝顔がたまらなく可愛くて、「起こしちゃうわよ」って母さんに止められても、わたしはあなたのおでこを撫でるのをやめられなかったっけ──。
あなたが我が家にやって来た日は、わたしの六歳の誕生日だった。
両親からのバースディ・プレゼント。
あなたはまだまだ小さな掌サイズの……ケヅメリクガメの赤ちゃんだった。
茶色い甲羅がとても綺麗で、「この色、石に例えたら何?」って地質学者の父さんに尋ねたの。そしたら「そうだなぁ、しいて言えば『琥珀』かな?」って。
その時決まったんだよ。あなたの名前は『こはく』って。
わたしの名前『めのう』と同じ、石の名前にしたかったから。
それから十二年、ずっと仲良く暮らしてきたじゃない。
モリモリ野菜を食べて、あなたの身体はグングン大きくなって、甲羅もドンドン丈夫になって、気付けば持ち上げられない程の重さになってくれたのに。
どうして、どうして、どうして……!!
腎不全だなんて……人間と同じで腎臓は二つあるのに、どっちも壊れちゃったなんて……人間だったら移植や透析で生きられるのに!
分かった時にはもう手遅れで、あなたは段々食べられなくなって、徐々に甲羅を持ち上げて歩けなくなって、それでも半年頑張ってくれた──それが昨年の今日。
「こはく、もう少しだよ。こはくの好きだった公園……きっとみんな待っててくれるから」
一周忌を迎えて、わたしは庭を掘り起こした。
ずっとずっと待っていたの。この一年が速く流れてくれるのを。速く流れてしまうのを。
あなたは何本もの骨と……見事に立派な甲羅を残してくれていた。
今わたしはその甲羅を抱えて、こはくが遊んだ公園に向かっている。大きなリクガメが闊歩しているって、近所では良く噂になっていたよね。小さな子供達がおっかなビックリ集まってきて、あなたは自分の背にその子達を乗せてあげていた。
通りを見渡せば、心地良い陽の光が街中に注がれている。
だから行こう。だから急ごう。あなたが好きだったあの場所へ──。
「──あぶないっ!!」
──え?
その時どこからか聞こえた声に、わたしはふと振り向いた。つと立ち止まった。
見える視界が一気に……闇色に染められていく?
「あ……」
耳をつんざくクラクション。急ブレーキの軋み、轟く悲鳴……
大きな衝撃が身体を弾き飛ばしたのに、わたしが一番気にしていたのは、宙を舞うこはくの甲羅だった──。