君は今、何を思っていますか?
私は今逃げています。
貴方は幸せですか?私はとても苦しいです。産まれたくて産まれたわけじゃなくて、なりたくも無いのに勝手に担ぎ上げられて。でも都合が悪くなると、その責任をすべて私に押し付ける。
そんな身勝手な貴方達を、好きになんてなる訳無い。守ってあげようなんて思わない。だがら、私は逃げます。全てを捨てて。
主人公→アリアナ
〈魔法を紡ぐ時の言葉的な?〉
演奏開始→Start playing
演奏停止→Finished playing(長い時にだけ使う。大体はfull stopを使う)
音符→note (ノウト)
休符→rest
終止符→full stop(その魔法の終わり、連続して魔法を使う時に使う。)
ピリオド→period(音楽では古楽器や古演奏などの事を言うらしい)
君は今、何を思っていますか?
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走って、走って。
逃げろ、にげろ。
速く、速く。
「はぁっ、はぁっ…!」
もっと、もっと私に力があれば!
誰にも頼れない。助けてなんて貰えない。分かってる。分かってた、のに。
今、誰かに助けて欲しいだなんて。
なんて都合の良い!!
でも、どうしても。まだ生きたいと思うから。
ぐっと、息を呑んで走る。
「!!」
がくん、と足場が無くなりふわりと体が中に舞った。
嘘、崖…さっきまで確かに無かったのに。
これが、白い森と言われる理由…!霧が濃くて下がよく見えない。
_嫌だ、まだ私は、
急いで術式を組む。お願い、間に合って。
霧と風が私の全身を吹き上げる。奥歯を噛み締めて衝撃に備える。
ドサッ
まに、あった…。
全力疾走した次に全力で魔法の行使は、疲れる。けど、もっと遠くに逃げなくては。
「っ、…はぁ、」
全身が痛い。いくら勢いを殺したと言っても、木々にぶつかって地面に落ちた事には変わらない。
よく見れば右足から血が出ている。木の枝か矢でも掠ったのかもしれない。
上が騒がしい。ああ、でも起き上がれない。体が言う事を聞いてくれない。
「いたぞ!!」
「下だ!」
「あれは死んでるのではないか?」
「いや、死んでるにせよ、虫の息にせよ、殺さなくてはいけない。」
「どうすんだ?」
「魔法だろ。」
「じゃあ、お願いしますよ。魔法使いサン。」
殺されて、しまうのだろうか。私の真上で空気が凍っていくのが分かる。
パキッ、パキン
恐らく、氷で氷柱を作っているのだろう。
…どうせ、死ぬのなら。最期まで、足掻いてやろう。
「Start playing(演奏開始)」
禁忌と呼ばれるのは古代魔法。威力が強く、魔力の消費が激しい為、今の魔法使いでは扱えきれない代物。
「period」
この言葉を紡いだ瞬間に術式が頭に浮かんだ。何が起こるかなんて分からない。でも、最期なら。私の持てる魔力を全て注ごう。…そういえば、久しぶりに声に出して魔法を使うなぁ。
いよいよ、ラストスパート。そして、
「full stop(終止符)」
私を中心に魔力が渦を巻き始めた。
「おい!何だあれは!!」
私を撃ち抜こうとした氷柱は魔力に押されて砕け散っていた。
─ああ、まだ生きていたかった。でも、ここでは生きられない。
だったら、誰もいない所へ行きたい。雪と氷に閉ざされた真っ白なあそこへ。
願わくは、次の私は幸せに生きられるように。
強い衝撃が私を襲った。
暗転。
**************
現在私は、白い狼の前足に押さえつけられています。
「くっ、分かったわ、、分かったから足どかして!重いから!!」
「いや、お前は分かっていない。」
くっそぉ。
古代魔法を使った私はどうやら瞬間移動をしたらしい。直前に雪国に行きたいとか思ってたからなのか、ここは大陸から離れたはるか遠い北の国。
正しく、雪と氷に閉ざされた国。
人の手が入ってないからなのか、精霊や幻獣が多い。幻獣に限っては亜種。まあ、寒いから進化してても可笑しくない。
そんな中に落ちた私は白い狼に拾われた。彼はとても強い幻獣だ。そして、過保護だ。
「まだ、万全の体調では無いだろう。」
「いや、治ったから!!体動かさないと鈍る!これ以上は駄目!」
「もう少し大人しくしておけ。」
と私を抱き込むように巨大な体を丸めた。
まったく。…お腹の毛はふわふわで手触りがとてもいい。温かいので眠気を誘う。
そのまま眠ってしまった私は単純な人間なのかもしれない。
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「ふう。」
まったく、これほどの魔力と魔法の才能を持つ人間を殺そうとするなど馬鹿なのか。
人間が単身で古代魔法を使うなど…ただ死ぬだけならマシだ。
普通なら魔力が足りなくて生命力を吸い取られ干からびる。それでも足りなくて暴走して行使した人間がスプラッタになって終わりだ。
だが、彼女は古代魔法を行使しても気絶で済んだ。しかも、1日で目が覚めた。
体力と魔力共に疲弊していながら古代魔法を使用してこんな代償のみで済んだ人間など私も3人程しかしらない。
それこそ、古代魔法が栄えていた時代の人間だがな。
アリアナがどれ程貴重な存在なのか知らないからの暴挙なのか。知らなかったからと言って、もし本当に殺しでもしていたら、精霊が怒って暴れるというのに。
彼女がこの大陸に飛んでくる前に精霊が騒がしかったのはそれが原因だ。
今頃、彼女をあんな目に合わせた人間は酷い目にあっているだろう。
まあ、私は彼女を守るだけだ。
私の腹で眠る彼女の寝顔を眺めて目を細める。
幻獣である私が執着を持つとしたら、それこそ命を捧げてでも守り通す運命の相手だけだ。
だが、これが人間のいう愛ならばそういうことなのだろう。
*************
後に世界を揺るがす魔法使いになる少女の物語。
白狼を従え精霊を扱う彼女を人は"黎明の魔法使い"と言った。
この時代は経済的にも魔法の分野にしても氷河期だったのだ。至るところで戦争が起こり、人々が絶望の真っ只中にいる時に現れた少女。
かつては、全ての汚名を着せられ抹殺されようとした少女だった。
彼女の生き様を、とくとご覧あれ。
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