たきぞめ
あの小さな事件の犯人が、彼女であることを知っているのは僕だけだ。
僕はあの日のことを誰かに言うつもりはないし、彼女も、誰にも言わなかった。
夏の火祭りの夜だった。
あの日の僕はとてもわくわくしていた。
悪友と共に火を掲げて村を走りまわり、そこかしこの祓い代を燃やしていった。
祭の日に親兄弟から離れて過ごすのは初めてのことだった。
もう、危ないからと袖を捕まえられている子供ではない。
僕はすっかり大人になったのだと誇らしくなった。
老いも若きも、女たちはみな焚き染めの晴れ着で着飾り、まだ灰になっていない古帯の妙齢はそわそわしている。
僕たちは、年上の男たちよりもたくさんの祓い代に火を灯した。もしかしたら、僕らこそが今年一番の祓い人だったかもしれない。
燃やしては走り、走っては燃やし、また走ってお腹が空けば、今日のために絞められた鶏のご馳走でお腹をみたした。
夜もふけたころ、大祓い代の広場で宴が始まった。
初めて宴に参加する僕らは眠い目をなんとか見開いていた。
ひとりがついに眠り込み、お酒が振舞われたのを境として、ひとり、またひとりと船を漕ぎ始めた。
なんとかまだ起きていた僕の眼に、彼女の姿がちらりと映った。
たった一人で宴を眺めている。
彼女は全然眠そうに見えなくて、僕は何故か腹がたった。
彼女は流れ者だ。いく月か前に、母親と共にこの村にやって来た。愛想のない奴だった。
手習いに来た試しがなく、話をしたことは一度もない。
歳は僕と同じくらいだろうが、他の女たちのように、群れたり騒いだりするところは想像もできない。
だからこそ、彼女がこの場にいることに違和感を覚えた。
彼女は余所者だ。それなのに、僕たちの宴を見に来ていて、それに……、なんだか、僕たちよりも堂々として大人ぶっているのが、どうしても気に食わなかった。
ふと、彼女が着ているのが、ただの普段着であることに気づく。
からかってやったら、さぞ気分が良いだろう。
僕が隣の奴を肘でつつくと、悪友はそのままゴロンと横になって、鼾をかき始めた。はっとして見れば、この思いつきに乗ってくる者はおろか、まともに起きている者がいなかった。
広場から消える彼女の背中が見えた。
一瞬の逡巡の後、僕は一人そのあとを追った。




