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死者の錬金術

 名も無き男は、クリスマスの深夜零時、協会のミサに参列していた。

 ミサにおいて、パンと葡萄酒を祭壇に置き、司祭が呪文をむにゃむにゃと唱え、それがまた戻されるとき、彼はそっと近づき、呟いた。

「死者よ、立ち上がりて我がもとへ来たれかし」

 彼は教会を出て墓地へ赴き、一番近くにあった墓石に向かって、こう言った。

「地獄の悪魔よ、全宇宙に混乱をもたらす汝よ、汝の暗い住処をすてて三途の川を渡れかし」

 暫くして、また、

「もし汝、われの呼ばんとする死者を自由になすこと能はば、願わくは王の中の王の御名において、その死者を指定のときに立ちあらわしめたまえ」と、言った。そうして一握りの土をばらばらと撒いて、

「死せる者よ、墓地の中より目を覚まし、灰の中より立ちいで、全人類の父の御名において、我が質問に答えよ」

と言った。

 彼は東の空に目を向けた。そうして時が満ちて、彼は二本の脛骨をXの形にして、胸に頂いた。墓地を去り、協会の屋根の上に骨を投げ上げた。カランという乾いた音が、物凄い光景の中に響く。そして西へ歩き、地面に横たわり、両脚に手を置いて、赫奕たる月を眺めつつ、

「われ汝を待ち望む。あらわれよ」と言い、死者の名を呼んだ。するとどこからともなく虚空に薄靄がかかり、それがだんだん人の形をとって、ついに人間になった。

 名も無き男と死者の幽霊は暫く向き合うと、やがて幽霊はどこかへ飛んで行った。それは言うまでもなく、また新たなる死者を蘇生するためである。

 こうして中世以来、人は死者蘇生という神の秘めたる禁断の領域に踏み込んだ。それは生命の冒涜であり、何よりも神への敵対の意の表明に他ならなかった。かくして救い主は、一度殺されたのち再び蘇ることなく天に還り、人々の魂の救済の可能性はなくなった。

 1000年の月日が流れ、今、こうしているうちにも、死者は続々と蘇っている。東洋に拠点を置く世界的な秘密結社の調査によると、もはや現在の全人類の人口のうち、三人に一人の割合が死者の占める領域だという。それは、魂の不滅を意味し、プラトンの仮説を証明したが、同時に、我々の新たな命を授かる可能性を限りなく剥奪した。未来生まれるはずだった赤子らの魂は、天に留められたままになった。もっとも、天の国は彼らの者であるのだから、なるべくしてなったとも言えなくはないかと思われる。

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