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夢と現実の物語

 ある日私に世界の謎が明かされた。

 それは神の使いの口からであった。全ては、神による予定調和に終わる。つまり、人類は滅び、最後の審判によって神にふさわしい人間を選り抜き、残りは地獄の竈へ落とされるのである。私は黙ってそれを聞いていた。そして頭には、自分の家族や恋人のことを思い描いていた。

 天使は名をルシファーといった。それは『イザヤ書』で「明けの明星」と言及されている、高慢の末に堕天した、あの天使であった。だが、それはどうでもよいことだった。要は、なんとかせねば、あと一週間のうちにラッパが鳴らされるということである。それまでにすべきことを、彼の天使は全て私に伝授した。私は、神に逆らってでも、今の幸せを守りたいと強く思った。念のために言っておくと、私は敬虔なキリスト教徒である。

 私は会社を辞め、すぐさま行動に移った。その異様さに不審を抱いた妻子は、何度も私に尋ねてきたが、まさか本当のことが言えるはずもなく、適当にはぐらかした。守られるものは、事実を知ることができない。

 一日目が終わった。首尾は上々であった。牧師からは「背教者め!」と声を大にして罵られたが、こればかりは私の立場に立たないと分からないだろう。

 その晩私は夢を見た。私はそこでは、輝く熾天使だった。私は翼を広げて天高く飛翔し、第一天から第九天まで調べた。が、目的のものは見つからず、サマエルやミカエル、メタトロンなどから、何をしているのかと不思議そうに尋ねられた。私はあいまいに答え、そうして主のために十字を切り、主の眼前を飛ぶ賛歌隊に加わった。

 夜が明けた。私は今アメリカはニューヨークから、イタリアのローマまでやってきた。私はそこである人物に落ち合うことになっていた。やがてその人物は現れた。胡散臭い髭を蓄えたフランス人、ピエール・モローであった。

「あんたが何をしてんのか知らねえが」と、彼は言う。「少なくともあれは凡人には理解できねえぜ。俺だってさっぱりだ。専門家に見せても駄目だった。譲るのはいいが、どうしてあんなもんをほしがるのか、さっぱりわからねえな」

「入用なんだ」とだけ私は言い、目的の本を受け取って、その場を後にした。時間は限られている。神は人に時間を与えない。

 その晩私は本を携えて、天国の周りを駆け巡っていた。人間の時はさっぱり読めなかった字が、天使となった今では簡単に読める。表紙には、『天使ラジエルの書』と書かれている。そこには、神の叡智が全て書かれ、また人間界、地獄、天国、地上楽園の全ての詳細極まる論述がなされていた。だが私に必要なのは、そんなものでは無くて、もっと別のものであった。私はルシファーの叛乱軍に加わらなかった三分の二の熾天使をそそのかし、ガブリエルのラッパを強奪させることに成功した。彼女は怒り狂って私のもとへ飛んできたが、『天使ラジエルの書』に記載されている天使を殺す方法に基づき、呪文を唱えると、彼女は甲高い悲鳴を上げて、かき消すように消滅した。これで舞台は整った。

 目の覚めた私は日本の東京へ旅立ち、ある荒れ果てた寺院に忘れられたように安置されている仏像の前に立った。そうして祈り、

「仏陀よ、願わくは三千世界の時間軸を全てつなぎ合わせ、永劫の円環を創り給え」と言った。願いは聞き入れられた。世界はウロボロスの円環を描き、終わることのない一つの完璧な世界が出来上がった。私は安堵した。そうしてそのままホテルにチェックインし、寝床に着いた。

 私はまた天国にいた。そうして徐々に、自分が本当は人間なのか天使なのか分からなくなっていった。だがそれは私にとって些細な問題であった。目が覚めれば、愛する人たちのところへ帰られるのだから―――

 身体に鈍い衝撃が走り、激しい痛みが四肢を襲った。驚いた私が振り返ると、そこには残酷な笑顔を浮かべたルシファーが、私を貫く剣を手に握っていた。

「悪く思うなよ…これでやっと天国に帰れるんだ。もう地獄はこりごりなんだよ。あんな責め苦を永遠に受けるくらいだったら、叛乱なんか起こさなきゃよかったぜ。ともあれ、俺はこれで晴れて自由の身だ。また暁の子として、神の右側に侍らせてもらって、今度は変な気を起こさないように気を付けねえとな……」

 薄れゆく意識の中で、私は推理した。つまり、私のこの一連の行動は、全て神の定める運命のままで、ルシファーは、そのお膳立てをして、甘い汁に与ろうとしていたのである。彼はこらえきれぬ笑い声をあげたまま、第十天へ飛び立った。だが、おそらく彼も、私と同じような運命をたどるに違いない。全ては神の思し召しのままに動くのである。

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