近付く?
「火は弱く…火は弱く…」
竃に灯す炎をゆっくりと調節していく。
ベストの大きさになればそのまま維持。
根気と集中力が試される。
魔法は杖を振って呪文を唱えればいい。なんて嘘っぱちで。むしろ想像力とその維持が一番重要みたいだ。
ラビリオさんは詠唱破棄で魔法を使っているみたい。
私も詠唱破棄でちょいちょいっと使ってみたいなぁ
そんなことを考えているうちに香ばしい匂いが…
竃を覗き込めばきつね色に焼けたクッキーが。
よし。成功!
これならラビリオさんに合格点をもらえるはず。
竃から鉄板を取りだし、あら熱をとるために調理台に移動させる。
自画自賛になるけど、ほんとに美味しそう…
1つくらいつまみ食いしてもいいよね。
「サクラ?」
後ろから呼ばれ、振り向けばクロノスさん。
返事をしようと口を開けば、ぐぅ~とお腹が鳴る。
こんなタイミングで鳴らなくても…
「………っ…くっ!」
クロノスさんは口許を手で押さえながら横を向いているが、肩が震えている。
「笑うなら笑ってくださいっ。」
「い、いや、悪かった。」
そういえばこほんっと咳払いをして私を見る。
まだ声が笑っているが、波は去ったのだろう…多分。
「……クロノスさん、厨房に何か御用ですか?」
「いや、サクラに用事で探していた。」
「私に、ですか?」
気まずそうに口を開くクロノスさんに不安が募る。
なにか仕事かな?
それとも、私、なにか失敗でもした?
私が邪魔で出ていけって言われるのかな。
最近は失敗してないけど、最初はクロノスさん、迷惑そうにしてたし…あり得るかも。
出ていけって言われたらどうしよ、私、独りで生きていけない。
それに、クロノスさんと離れたくないっ。
「………で、どうだ? おい、サクラ? サクラ!」
「へ?あ、はい!すみませんっ、クロノスさんの傍にいたいです!追い出さないで下さいっ」
「は?……俺はサクラを街におりないかと誘いに来たんだが?」
クロノスさんは私の言葉に呆気に取られたような表情を一瞬浮かべるが、すぐどこか呆れたような笑みを浮かべる。
うわっ、勘違いだった。
きっと真っ赤になってるに違いない。
「へ?え、あっ…」
「何を勘違いしてそんな結論に至ったのか分からないが、傍にいればいいだろう。
……今さらサクラを放り出すかよ」
「え、あの…」
「返事は?」
「は、はいっ!」
勢いよく頷けば、クロノスさんは満足そうに笑みを浮かべ
「じゃ、行くか。」
と手を引いて歩きだした
「え、あ!クッキー!」
「置いておくようにメイドに言付けしていけばいい。」
クロノスさんは最初に会ったメイドさんに言付けして、そのまま外へと連れ出された。
メイドさん。本当に申し訳ないです。