まずは褒めてあげましょう
『クロノス、君はサクラちゃんにもっと優しくした方がいいよ。彼女、急にこの世界に落とされてまだ1年だよ?郷里のご両親が恋しいだろうにそんな素振りも見せずに毎日過ごしてる。そんな彼女にクロノスは厳しく接するのかい?』
ラビリオの言葉に従うのは癪だが、アイツの言うことには一理ある。
『とりあえずは…』
「褒めたぞ」
「いや、どうだって顔をされても…」
「ひとつ聞いていいか?お前バカか?」
執務室に我が物顔で入り浸っている同僚は相変わらずバカにしたような目で見てくる。
納得できない。
「あ゛?なんつった?」
「ほら、喧嘩腰にならない。アレンが言うのもわかるから」
「ちょっと褒めたからって満足そうにしてる理由がわかんねぇ。ちょっと褒めただけでサクラ嬢のお前への好感度が大きく変わるわけないだろ?」
腕を組み俺を見下ろすアレン。隣ではラビリオが大きく頷いていた。
解せぬ。
「だいたい、『これからも精進しろ』って堅いんだよ。『これからもよろしくな』とか『無理するなよ』とかさぁ。もっと親しみやすい言葉はなかったのかよ」
「無表情で言うのもねぇ…もっとにこやかに言ってみれば?」
「…………てめぇら、見ていたか?」
まるで先程までのやり取りを見ていたかのような口振り。
二人を睨めば、
「い、いや…だってさ…」
「サクラ嬢、お前と二人きりになると緊張するみたいだから心配で…口も目付きも悪いからさ。お前」
「泣かされないかと心配だったんだよ。君は不器用だからね」
「ま、クロノスがサクラ嬢をどう褒めるのか見物だったしなぁ」
ま、予想通りだったけどなんて笑うアレンに殺意が芽生える。
「つまりなんだ。お前らは俺がサクラと話すのを見て笑ってたんだな?」
「いや…そういう訳じゃ…」
俺の言葉に状況を把握したらしい。ラビリオは慌て出したがアレンは飄々と笑っていた。
「斬る。お前ら…そこに直りやがれ!」
剣を抜けば、飄々としていたアレンも流石にヤバイと思ったのか慌て出した。
「クロノス、剣を収めて。部屋の中で振り回したら危ないから!」
「うっせ!我慢の限界だ!今日こそ斬る!」
「クロノス、俺たちが悪かったって!」
バタバタと大きな音に気付いた騎士団団長が来るまで危険な追い駆けっこは続き、俺は始末書を書かされることとなった。