彼なりの愛情表現
「よし、終わった!」
目の前をはためく白いシーツ
今日の洗濯当番は私。
騎士団では新人が訓練の一貫として家事を行う。
もちろん、メイドさんもいるから御手伝いみたいな形だけど
けれど、目の前の膨大な量のシーツを洗うのはほんと一苦労だ。ひとつひとつ手洗いだし…洗濯機が恋しい。
魔法が使えたらもっと楽になるのかな…なんて、考えてみるけど、制御がまだまだ出来ていないから一人で使うことはクロノスさんに禁止されてる。
クロノスさんと言えば…
「最近、よく見かけるんだけど忙しそうだな…」
やっぱり、騎士副団長は大変なんだろう。
1度だけ入った執務室には沢山の書類が積まれてたことを思い出す。
最近は訓練にもあまり顔を出されない。
「なにか、手伝えたらいいんだけど…」
クロノスさんは騎士団副団長だけど、気取った様子はない。だから騎士団の人達に慕われてる。
でも、やっぱり副団長だから厳しくて、女子供でも容赦ない。
今までも怒られたことが多数ある。
だから…今でも、クロノスさんの前に立つのは緊張する。
けど…
『大丈夫だ』
たった一言。
その言葉に救われたんだ。
何気無い、気休めの一言だったのかも知れないけど。
「私には王子様に見えたんだよなぁ」
「誰がだ?」
「うひゃあ!」
突然かけられた声に驚いて変な声が出た。
振り返れば、先程まで思案の渦中にいたクロノスさん
「驚かせたか?」
「い、いえ。大丈夫です。」
慌てて首を振る。
思いきり首を振ったため余計に怪訝な顔をされる。
「く、クロノスさん、どうしたんですか?」
「あ?いや、サクラの姿が見えたからな。今日の洗濯当番はサクラだったのか」
一面に干されているシーツを見渡しながら問い掛けてくるクロノスさん。
心臓がばくばくと鳴り、緊張する。
「はい。思ったより時間、かかっちゃいましたけど…どこか悪いところありましたか?」
あまりにシーツを見ているので失敗しているのかと不安になる。
今日は前よりもできたと自信があったんだけど…
クロノスさんの様子に自信がどんどんなくなる
「いや。初めて洗濯した頃に比べれば格段に良くなっている。上出来だ。」
褒められた…。
今まで褒めて貰ったことなくてあたふたとしてしまう。
「これからも精進しろ」
「は、はい!」
そう返事すれば満足そうに城に戻っていってしまった。
「クロノスさんに褒められた…」
声に出してみれば、実感が湧いてきて…にやけてしまう。
もっと頑張れば、また褒めてもらえるかな…?
後日、褒めてもらって調子に乗ってしまいからかわれることになるなんて思わなかった。