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第8話 移し鏡

 



 フィオーナ・クランハルトはイギリス連邦にある小さな村で、父ゲオルグ・クランハルトと母メリファ・クランハルトとの間で生まれた。ゲオルグは農夫、メリファはゲオルグの手伝いと家事をする、イギリス連邦ではよく見られる風景だ。家が農家ということもあり、安定した収入に加え食糧に困らない恵まれた環境だった。


 フィオーナは母と同じ黄金色の綺麗な髪と父と同じスカイブルーの碧眼を持つ村一番の美少女だった。人当たりもよく村で知らぬ者はいなかった。


 そんなフィオーナに悲劇が襲う。それはフィオーナが10歳の誕生日を迎えてから、二ヶ月ほど経った日のこと。『能力』に目覚めたのだ。


 今でこそ『能力者』の数も増え、一般人にもある程度きちんとした認識を持つ者が多い。しかし、その当時は違った。『能力者』という得体もしれない存在が認知され始めてから半年すら経っていない。ある地域では悪魔と契約した者だと言うところもあった。そして、イギリス連邦国内で初の『能力者』がフィオーナだったのだ。


 『能力者』が認知され始めてから約一年間で『能力』に目覚めた者は“第一世代(オーバーアビリティ)”と呼ばれ、その後に目覚めた『能力者』とは段違いな『能力者』を持つと言われている。ただでさえ、『能力者』は一般人よりも優れた力を持っているにも関わらず、第一世代(オーバーアビリティ)はそれすら凌駕する。因みに、第一世代(オーバーアビリティ)は七人いると言われている。


 フィオーナはその第一世代(オーバーアビリティ)だったのだ。火の生成、身体強化、透視などが霞んで見える。フィオーナの『能力(アビリティ)』は“破壊と再生”。それは相反する力を持つ特異中の特異な『能力』。全てのもの例外なく破壊し、全てのもの例外なく再生する。不老不死の破壊者。


 そのことを知った両親はフィオーナの『能力』を周りに隠し育てることを決意する。しかし、そう上手くいくはずもない。“破壊と再生”などといった巨大な力がバレるまで時間の問題だった。


 フィオーナが『能力』に目覚めて一ヶ月が経った時、ついに村人にバレてしまう。このことは一瞬で村中に広まった。村人はこれまでの態度とは一変、フィオーナを化物扱いするようになる。そして、フィオーナは両親共々、処刑されることになる。


 しかし、フィオーナだけは再生で生き残る。後に判明したことだが再生は自分と他者の両方に効果を示すらしいが、フィオーナは『能力』に目覚めて日が浅すぎた。フィオーナは自身を再生するだけで精一杯だったのだ。結果、愛しの両親を失った。それはまだフィオーナが10歳三ヶ月のことだった。


 それでも尚、村人は無情だった。フィオーナに対する処刑と名の何かはより一層激しさを増す。フィオーナは両親を失ったことを悲しむ時間すら奪われた。焚刑、絞首刑、溺死刑など…まさに魔女狩りそのものだった。


 そんな想像を絶する日々を過ごす…フィオーナの『能力』は肉体は再生しても精神までは再生しない。心が壊れるまでそう時間は掛からなかった。10歳にしてほとんどの感情を失ってしまった。残った感情は負の感情だけだと言われても想像に(かた)くない。


 それでも、フィオーナは死なない。死ねない。死ぬ訳にはいかない。


 何度でも蘇ってやる…この村人たちを皆殺しに出来るほどの破壊を身につけ、父と母を殺したこの世界を壊し尽くすまでは…


 一年後、イギリス連邦南部にあったノルドランド村は跡形もなく地図上、地球上から消滅した。


 ノルドランド村消滅の知らせはイギリス連邦国内はもちろんのこと、近隣国、大陸全土に渡った。文字通り消えて滅びる。その土地を見た者は、かつて村があったとは考えないだろう。残されたのはある血文字のみ。そこにはこう書かれていた…



【DESTINY OR FORTUNE-運命に愛されし女神-】




ーイギリス連邦にてー


 フィオーナ・クランハルトは死に(・・)

 フィオーナ(FIONA)ディアソード(DIASWORD)クライシズ(CRYSIZ)として生まれ変わった。




〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜




「あなたがDESTINY OR FORTUNE-運命に愛されし女神-の移し鏡の疑いがあるからよ」


 真冬は言い切った。まだ顔は青ざめたままだ。さかほどまでの砕けた口調ではなく、真剣なものだ。しかし党夜の返事は淡白なものだった。


「かもしれませんね」


「えっ?」


 真冬の疑問に対する弱い肯定。正直党夜も時間の問題だと思っていた。能力の中には相手の力を見破るものあることは想像していたからだ。


「否定はしませんよ。疑われてるってことはいずれバレるでしょ…彼女(・・)のことを知っているのも確かです。移し鏡って言葉は知らないですけど心当たりはあります」


「そう、でも私達も確信してたわけじゃないわよ?否定することも出来たはずだけど?」


「さっきも言いましたけど、否定はしません。別に真冬さんを信用した訳じゃないです。ただ、この事を否定することは彼女を、彼女との思い出を否定することだと思うんです。

 ああ、信用してないって言いましたけど、真冬さんじゃなかったら話すつもりはなかったんですよ。真冬さんの笑顔が彼女のものとても似てたからかな…だからつい喋っちゃいました」


「党夜くん…」


 真冬は党夜から目を背けた。それは党夜を見ていられなくなったのではない。自分が情けなくて顔向けでなくなったからだ。真冬らが知るDoFは破壊を繰り返す殺戮者でしかない。しかし、党夜の中ではそうでない。自分たちがDoFの内面について何も知らないのに、ただ表面上のことでしか判断していなかったことが…情けなくなったのだ。


「そんな顔しないでくださいよ。真冬さんは何も悪くないですよ。仕方ないことだと思います。それより、そろそろ俺をここに連れてきたのにも理由を教えてもらえますか?」


 (フォローしてくれたのね…うん、モモちゃんの言ってた通りだねぇ。頭は相当キレるし…優しい子…)


「そうね。党夜くんが万が一移し鏡だった場合は、“銀の弾丸(シルバーブレッド)”に入ってほしいと思ったの」


「俺が“銀の弾丸(シルバーブレッド)”に?」


 ついオウム返ししてしまう党夜。


「うん、本当にDoFの移し鏡なら放っておくわけにはいかないの。あなたにその可能性があることはまだ私達しか知らないはず。だから…」


 党夜にはその後に続く言葉が容易に想像がついた。


「だから、他の勢力に目をつけられる前に仲間にする、って訳ですね」


「……ええ、その通りよ」


 言い当てられ顔を顰める真冬。こればかりは嘘はつけない。党夜に宿っていると思われる力が目当てであることは誰の目にも明らかだから。


「気にしないでください。逆の立場なら俺も同じことをしますから。それにあの時(・・)からこんな時が来るんじゃないかって覚悟してましたし…」


「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいわ」


「お礼を言うのは俺の方ですよ。正直、あの場面で自称救世主ちゃんが来てくれなかったら俺どうなっていたことか…」


「自称救世主?モモちゃんのことね…あの子の名前は水無月桃香(みなづきももか)ちゃんだよ。ずっと君の監視をさせてたの。お陰で助けれた訳」


「水無月!?」


 党夜は驚きを隠せない。ずっと監視されてたことなど頭に入ってこない、それもそのはず水無月という名はあの人と同じだから。


「モモちゃんは党夜くんの担任水無月玲奈の妹よぉ」


「玲奈ちゃんに妹いたのかよ!しかも性格違いすぎるだろ!え?マジ?信じらんねぇ……」


「モモちゃんとレーナは性格が両極端だからねぇ。おっぱいの大きさとかもねぇ!ふふふ」


「…ははは…」


 確かに玲奈のはかなり大きい。対照的に桃香は…日本人の平均サイズよりも小さいように思える。まさに真逆だ。別に小さいことは悪いことじゃない。大きかろうが小さかろうが関係ない。重要なのは胸の大小ではなくその人の器の大小なのだ、とはよく言ったものだ。まあ胸も器も大きいに越したことはないが。


「で、党夜くん。“銀の弾丸(シルバーブレッド)”に入ってくれるかな?」


「それは願ったり叶ったりですけど…俺、『能力』使えないですよ?」


「それは知ってるわ。きっと彼女が党夜くんに迷惑をかけないように封印してから付与したのね。今の党夜くんはごくごく普通の高校生だもの」


「そんなことも分かるんですか?」


「ええ、モモちゃんの能力ならね。でも分かったのは党夜くんに莫大な力が眠っているってことだけ。だから疑いがあるって言い方しか出来なかったのよ。封印されてなかったら能力情報まで引き出せるわよ」


「なるほど……」


 昨日の戦いで桃香が相手の『能力』を看破したことを不思議に思ってた党夜は納得する。


「でも万能じゃないの。そのせいで戦闘力が乏しくなるわけ」


(あれで戦闘力がない方なのか…瞬殺だったんだが…相手が弱すぎたのか…?)


「あともう一つあるんですけど……もし俺が“銀の弾丸(シルバーブレッド)”に入ったら、当然戦うことになりますよね?そうしたら今回みたいに俺の周りにちょっかいを出す連中も出てきてもおかしくないですよね?

 俺が仲間になることは簡単です。でもその結果、家族や友達が危険な事に巻き込まれるのは困ります。俺の周りには能力者なんていないですから」


 ここでも、担任教師である水無月玲奈のことを話してしまわないぐらいには冷静な党夜である。


「確かに…それはありえない話じゃないわねぇ。でもね、“銀の弾丸(シルバーブレッド)”に入らない方が周りの人達を危険な目に合わせることになると思うのぉ。

 今はまだ公になってない。今回の人達は何らかの方法で情報を得たんだろうけど。でもいつか他のところも党夜くんがDoFの移し鏡だとバレる。その時に私達という後ろ盾が無い方がよっぽど危険よ。それは党夜くん自身の危険も含まれてるわ」


 党夜は強く歯を食いしばる。どっちに転んでも、自分の周りに影響が出る。真冬の言ってることは正論だ。

 

「こんな言い方卑怯なのかもしれないけど分かって。悪いようにはしないわ」


「………そのようですね。分かりました。俺を“銀の弾丸(シルバーブレッド)”に入れてください!」


 ここでようやく真冬の顔に笑顔が戻った。そして満面の笑みで言う。


「喜んで!」


 こうして天神党夜は“銀の弾丸(シルバーブレッド)”に加入することになった。


 


読んでいただきありがとうございます

誤字・脱字などありましたら教えていただけたら幸いです


第9話は土曜18時に投稿予定です

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