第7話 銀の弾丸
「党夜、キミは本当に甘党ね。甘いものが好きなのは構わない。私も好きだもの。甘いものも甘党なキミも…」
「でもね、それはキミ自身を弱くしている。甘さに慣れてしまってるのよ。だからね…」
「キミは何時までも詰めが甘いんだ」
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
「久しぶりにこの夢見たな。詰めが甘いか。う〜ん…痛っ…首が痛ぇ…ん?てかここどこ?」
党夜は見知らぬ天井を見て、テンプレな反応を示す。辺りを見渡すと、党夜起きた場所は20畳ほどの広い部屋だった。ベットが幾つか並べられ、大量の薬品が収納されている棚、救急キットが置かれてるいる机が一つ。保健室のような印象を受ける。
「うちの学校の保健室とは違うな。なおさらどこかわからな……いや、違う!」
ここで党夜は徐々に思い出す。
「さっきまで平塚ヶ丘中央公園にいたはずだ。そこで女が尾行者で。そしたらもう一人仲間がいたと思ったらそいつは女の敵で。助かったと思ったら意識が遠くなって……は?どうなってんだ!」
全く理解できない状況にいる党夜。
カツンカツンカツン
部屋の外から女性のヒール?らしき音が聞こえてくる。しかも、その足音はどんどんこちらに近付いてくる。ゴクリと息を呑む。党夜はその足音に警戒を示す。
ガラガラガラ
部屋の扉が開かれる。そこには見覚えのない女性の姿が。
「あら〜起きたのね。体どこか痛くない?」
気さくなに話しかけてくる女性の予想外の発言に、党夜は行動に移れずにいる。
「あっ、はい。ちょっと首が痛い程度です」
結局、真面目に答えた。
「そうかぁ。まだ痛いかぁ……ちゃんと手加減したのかしら……」
(ん?ってことはこの人もあのの仲間か)
瞬時に党夜は女性の言葉の意味を理解する。そして、党夜は警戒度を上げる。女性は、党夜の僅かな変化に気付いた。
「そんな警戒しなくていいわよ。私、いや私達はあなたに危害を加えるつもりはないの」
そんなことを言いながら、女性は部屋にあった椅子をもってくる。そして、党夜のいるベットの前に椅子を置き、座る。座る仕草だけでも華がある。
「危害をくわえるつもりはない、か。すでに首に重たい一撃もらってるんだけど」
「それはこちらのミス。ごめんねぇ」
女性のあっけらかんな態度に党夜は毒気を抜かれる。
「そうだ、まだ自己紹介してなかったわね。私は古夏真冬。字は古代の古に春夏秋冬の夏、真実の真にこれまた春夏秋冬の冬。変わった名前でしょ?私のことは、真冬って呼んでねぇ」
「俺は天神党夜。天神って書いてあまがみって読みます。名前は甘党の党に夜空の夜です。てか俺の名前は知ってますよね?」
「知ってるけど、自己紹介は大事だよぉ?相手がしたら自分もする。常識だよ、党夜くん」
「そうですね……」
なぜか軽く説教をされる党夜。
古夏真冬は見た目完全に保健室の先生である。白衣を着て、いや着崩していて少しエロい。長い髪をピンク色のシュシュで一つに纏めるルーズサイドテール。胸の主張が強く、玲奈や奈々と良い勝負をしていると見える。
「胸ばっかり見て……党夜くんはおっぱいが好きなのかなぁ?」
すぐに視線を真冬の胸から外す。
「ち、違います。いや、違いませんけど……すいません真冬さん」
「ふふふ…素直でよろしい。私ぃ、胸には自信あるんだよぉ?ほらほら〜」
と言いながら両手で自分の胸を鷲掴みしモミモミする真冬。見ただけで分かるとてもハリと弾力があり形も綺麗だ。そんな胸がもみくちゃにされている。党夜は今度こそ目が離せなくなる。
「ふふふふ……本当に素直だねぇ〜揉みたいぃ?」
ぶっ!!
真冬の豪速ストレートが党夜に襲いかかる。とても刺激的な一撃だ。党夜は自分がからかわれているのは理解している。そして完全に真冬のペースに乗ってしまっている。そのせいで、肝心なことを忘れてしまっていた。
「い、いや遠慮しときます。そういえばなんで俺ここにいるんですか?そもそもここどこですか?貴方達は何者なんですか?なんで俺を監視してたんですか?」
党夜は思っていた疑問をすべて真冬に投げかけることで話を逸らす。真冬は少し困った表情で答える。
「遠慮しなくていいのにぃ〜。あとそんなに質問攻めしないでぇ。まあ混乱して当然だよねぇ。じゃあ順番に答えていくね」
「はい!お願いします」
「まず、なぜ党夜くんがここにいるのか。それは昨日、彼女達が私達の予想に反した行動を取るものだから、予定を変更して少し手荒な手段で連れてきたのぉ。だから今君はここにいる」
「昨日……ってことは俺は一日寝てたってことですね?」
「うん、約10時間睡眠ってとこかなぁ。健康で何よりだよ。気絶が睡眠に入るか分からないけどね。ふふふ」
(笑える要素が一つもないんだけどなぁ)
すでに党夜は真冬に対して警戒がない。完全に気を許してしまっている。これは真冬の雰囲気の問題だろうか…
「じゃあ次ね。ここはどこか。端的に言うなら、平塚ヶ丘のオフィス街、“SILVER MOON”って会社のビルの中だよぉ。厳密には中じゃないんだけど」
「あの“SILVER MOON”ですか!?」
“SILVER MOON”。党夜はその名に聞き覚えがあった。
平塚ヶ丘のオフィス街の中でトップ3に入るほどの大手ゲーム会社。出すゲームはほとんどミリオンセラーを獲得するほどだ。もちろん党夜も“SILVER MOON”のゲームはいくつもプレイしたことがある。平塚財閥の系列会社ではないにも関わらず、それほどの実績をもつ会社は他に存在しない。
「まあね。表向きは私達は“SILVER MOON”の従業員ってことになってるけど、ホントは違うんだよねぇ」
「表向き?」
「そう、裏では違うことしてるんだよねぇ。その答えが私達が何者なのか。私達は簡単に言えば能力者を取り締まる組織かなぁ?組織名は銀の弾丸って書いて読みはシルバーブレッドよ」
「“銀の弾丸”……」
「その様子だとまず銀の弾丸について話した方が良さそうね」
「あっ、はい、すいませんがよろしくお願いします」
「了解!」
ニッコリという擬音がピッタリな笑顔で真冬は答える。党夜はなぜかこの笑顔に目を離せずにいる。これほど自然な笑顔が出来る女性が珍しいからだろうか…分からない。
「銀の弾丸とはもちろん銀で出来た弾丸で、西洋の信仰において狼男や悪魔などを撃退できるとされ、装飾を施された護身用拳銃と共に製作されるものだと言われてるわ。
元々、銀には高い殺菌作用があって、またヒ素化合物の1つである硫化ヒ素などと反応して黒変する性質があるから、古くから病をもたらす未知の存在へ対抗する手段として知られていたのぉ。
こうした背景から、今では文字通りの弾丸を意味するものではなく、普通の弾丸では通用しない吸血鬼・狼男・魔女・悪魔などを一発で撃退できるという意味から転じた比喩表現として用いられる場合が多くて、ある事象に対する対処の決め手や特効薬としても使われることもあるの。ここまでいいかなぁ?」
「はい、大丈夫です」
「ここまで説明すれば分かるかなぁ?そうだよ。私達は吸血鬼や魔女に匹敵するほどの力を持つ能力者に対して集められた銀の弾丸ってわけ」
「なるほど、でも真冬さんも能力者ですよね?」
当然の疑問である。一般的に能力者は能力者でしか倒せないのが定説だ。それほどまでに一般人と能力者の間に、能力の有無で超えれぬ壁があるのだ。
「もちろんそうよ。皮肉な話よね。ミイラ取りがミイラになるみたいなものかしらぁ。あれ?ちょっと違うかなぁ?ふふふ」
だそうだ。ここまではちゃんと聞いてこれた。でも問題はこれからだ。それぐらい党夜は理解している。最後の質問、その答えこそが党夜の運命の分かれ道となる。
「では、最後の質問。なぜ俺を監視してたんですか?」
「……」
あれほど饒舌だった真冬が口を閉ざした。言葉を選んでいるのか?それともそれほどまでの機密事項なのか?
どちらであろうと党夜には関係なかった。沈黙。これこそがすでに答えになってしまっている。自分の中で答え合わせは終えたが、こちらから言い出すことはない。それによって、墓穴を掘るようなヘマはすべきでない。
「……それはね、党夜くん…」
真冬の顔が、笑顔が素敵な真冬の顔がどんどん青ざめていく。そして言葉にする。あの名を…
「…あなたが“DESTINY OR FORTUNE-運命に愛されし女神-”の移し鏡であると考えているからよ」
読んでいただきありがとうございます
誤字・脱字などありましたら教えていただけたら幸いです
第8話は水曜18時投稿予定です