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第67話 雷様

後書きに今後について書いてます

目を通しておいてください




「はぁぁぁぁぁ!!!」


 涼子は一気に己の過負荷粒子を練り上げる。様子見なんて必要ないと言わんばかりに、ありったけを放つ。


(すごい……)


 戦闘が始まることなんて忘れて、党夜は輝く涼子に見惚れていた。美しくもあり、力強くもある涼子に。


 涼子が大技で勝負を決めるのだと悟った未桜からは笑みが溢れる。真摯に、そして本気でやろうという涼子の心意気が伝わったのだろう。


 そして、その時はきた。涼子の過負荷粒子が更に輝いたかと思えば、次の瞬間爆風が起きた。


「うわぉ!」


 閃光と爆風は一番近くにいた党夜を襲う。といっても、飛ばされるほどではなかった。


「お待たせしました。準備完了です」


 目を伏せていた腕を避け、党夜は見た。そこには身体中に電気を纏った涼子がいた。


「ほぉう、これは驚いた……己に帯電出来るようになったのか」

「驚くのはここからですよ、未桜さん?」

「!?」


 関心する未桜に返答する涼子だったが、足を踏み込んだ瞬間、涼子の姿が消えた。


(また、“深淵なる蜃気楼”か……いや、違う!)


 ビリッ!バチンッ!!


 気付いた時には、涼子の先制攻撃は終えていた。既に次の次の次の、また次の攻防が繰り広げられていた。党夜は呆気にとられ、動けないでいた。


 一方、未桜は。


(くっ……予想以上に速いな……)


 涼子の攻撃速度に未桜は防戦一方になっていた。高速で打ち出される掌底や回し蹴りなどに対応するのがやっとの様子。


「姐さんが押されているっすか……マジ?」

「ちょっと、あの子の成長速度異常じゃない?この前見た時とは別人よ」

「こう言っちゃなんですけど、七瀬さんって超掘り出し物だったんじゃないっすか?俺、不意打ち以外に勝てる気がしないっす」

「呆けてたら簡単に抜かれるわね。実際、足止まってるのが一人いるんだけど……」

「党夜!早く加勢するっすよ!」

「え?あっ、おう!」


(咄嗟に返事はしたものの、あんなのどう援護すりゃいいんだよ)


 兎にも角にも、一手一手が速いのだ。涼子は勢いと数で攻め込んでおり、受けられたら、その体勢から打てる最善の一手を繰り出している。


 時には受け止められることを前提に一手を捨てて、次の本命を狙うなど一種のフェイントも組み合わせている。だが、それでもまだ未桜に全て受け流されているのだから恐ろしい。


(これでも足りないの?)


 涼子の思考にもノイズが走る。とっておきの奥の手を使っても尚、肝心の一撃が決まらない。


 涼子の新たな奥の手“雷電装束(らいでんしょうぞく)”。自身に電気を纏い、身体能力を飛躍的に向上させる事が出来る。


 これまで涼子は電気を放つことは出来ても、纏うことは出来ずにいた。出来ないと思い込んでいた。


 実際、自然治癒・肉体の強化の奥の手だった“刺激的な愛情表現”は自分以外に限定された。自身がバッテリーとなるため、自分に流し込むとショートに似た現象が起きるためだ。


 そもそも能力についての全貌は未だに明かされておらず、まだ未解な部分も多い。異端な力でもあるが、万能ではない。必ず長所と短所が備わるようになっている。


 涼子の場合、それが自身に能力が使えないことだった。しかし、その欠点の一部を涼子はある種克服した。


 それが発勁。勁力を応用したのだ。以前、偶然の産物として編み出された発勁と電気の合わせ技“雷勁(らいけい)”。


 勁力と過負荷粒子を同時に練り上げ、打ち出した拳から相手へと流し込む。よって、清澄沙澱の超純水を攻略した。


 一度放てば問題ないのでは。自身に電気を流すのではなく、過負荷粒子のように纏ってしまえばいいのでは。


 そこに涼子は目をつけた。一度放出した電気なら自身に干渉させれるのではないかと。その仮説を立てた後に、検証し、失敗を繰り返しながら完成させた。


 それがこの“雷電装束”。体外に放出した電気を過負荷粒子で押さえ込み、纏うことで電気の影響下に入ったのだ。


 効力は電気信号の伝達速度促進による筋力、思考力、判断力などの一斉強化。考えるよりも先に肉体が動くような感覚になる。自己治癒こそ出来ないが、涼子を対象にした簡易版“刺激的な愛情表現”である。


 しかし、これにも残念ながら処理しきれなかった欠点がある。それは制限時間。


(そろそろやばいかも……)


 いくら過負荷粒子で押さえ込み、纏っているとはいえ、電気は空気中に僅かに逃げていく。なら、同じパフォーマンスをするためには、同じだけの電気が必要になってくるのは必然。


 それにはまた電気を生み出さないといけない。燃費効率が兎に角悪いのだ。長時間は保つはずもなく、短期決戦型の技。


 この時間が終われば、守る壁がなくなり無防備になる諸刃の剣。少なくとも気を失うことはないが、皮肉にも“雷電装束”は“刺激的な愛情表現”と同じ終着地点となる。


 だからこそ、涼子は焦る。こうしている間にも刻々と制限時間が迫る。正直、涼子は甘く見ていた。姉川未桜という女性を。


 別に簡単に倒せるなんて思っていない。それこそ、未桜の強さは直接指導されたからこそよく解っているつもりだった。


 それでもこの“雷電装束”が完成した時思ったのだ。これなら善戦できるかもしれない。ようやく党夜たちの役に立てるかもしれないと。


 そして、今回設けられた実戦、共闘を視野に入れた訓練で証明できると涼子は意気込んでいた。いつも見ていることしかできなかった自分がやっと党夜の横に立てたのだから。


 それでも姉川未桜は遠かった。味方だから勝つ必要がない、なんて言い訳したくはなかった。


 何より涼子は、党夜に褒めて欲しかった。認めて欲しかった。ただその一心で。


(ダメかも……)


 弱音が漏れる。やはり変わっていない。弱い頃の自分から何も変わっていないと思い知らされる。


 親から捨てられ、自暴自棄になり、裏の世界へ足を踏み入れた弱かった自分。親を諦め、周囲を諦め、世間を諦め、自分さえも諦めたあの頃。


 確かに幼かった少女にとっては過酷で受け入れ難かっただろう。それでもやりようはあったのではないか、と今こうして幸福を感じる涼子はどうしても考えてしまう。そして、いつも決まってやはり自分は弱い人間だと結論付ける。


 変わった気でいただけだ。結局、自己満足でしかなかった。そう思い知らされたようで、心が折れそうになる。


 未桜の拳が涼子に迫る。無駄な思考のせいで、反応が遅れた。防御が間に合わない。


「涼子さんはよくやってるよ」

「!?」


 ドンッ!


 声が聞こえた。涼子自身が最も求めていた彼の声が。涼子と未桜の間に割り込んできたのは、言うまでもなく党夜だった。


「遅かったな、党夜?涼子に見惚れてたか?」

「そりゃもう」


 軽口を叩く余裕を見せる党夜。その姿だけで涼子は自然と心が揺れる。顔に熱が集まるのを感じる。


 未桜の撃ち出した拳を党夜が受け止めたまま、三者ともに動きが止まっている。誰か真っ先にこの均衡を破るのか。


「こっからは二対一ですよ」

「私は四対一でも構わんがな」

「あまり弟子を舐めると痛い目に合いますよ?」


 均衡が……破れる。先に動いたのは涼子。党夜が稼いでくれた時間。僅かな時間ではあったが、涼子が心を落ち着かせるには十分だった。


 党夜が涼子の心に気配ったかどうかは定かではない。それでも涼子は確信する。恋する少女は盲目だっだ。


 党夜のお陰で、未桜から涼子の姿は見えない。死角からの攻撃になりうる。決めようと思うなら威力の高い一撃。つまり“雷勁”。


 しかも、回り込むのは愚策。せっかくの位置関係が無駄になる。ならば、狙うは最短距離の直線。党夜がその直線上にいるが、構わない。信じているから。


(お願い、避けて党夜さん……)


 心中で叫ぶ。あまりにも一方的で重い信頼。伝わらなければ、党夜が渾身の“雷勁”の餌食になる。


 後ろで見ていた聖と飛鳥は涼子が血迷ったと思った。何の合図もなしに出来るはずがない。自分たちの連携でさえ、目配せでの意思疎通が必要だったのだから。


 信じた者は報われる。一種の宗教観念とも捉えられる物言いだが、今回ばかりはこの表現が正しかった。


 勁が練られた涼子の掌底が党夜に直撃するかと思われたその時、党夜の身体が右に逸れた。お膳立てのように晒される未桜の突き出された拳。そして、接触する未桜の拳と涼子の掌底。


「ぐっ…がぁっ………」


 ぶつかった衝撃は然程威力はない。発勁の真骨頂はその後。勁は体内を刺激する。しかも、涼子の場合は電撃を帯びる。未桜の体内に高圧電流が走る。未桜はそのまま崩れ落ち、膝をつくかと思われた。


「えっ……」


 だが、膝をついて崩れ落ちたのは涼子だった。何が起きたか分からない。党夜もワケが解らないといった表情。次の瞬間。


「がはっぁ……ぁぁぁ……」


 未桜の左拳が党夜の鳩尾にめり込んでいた。油断と怠慢で緩んだ防御を貫く十分な威力が込められた一撃は、党夜から意識を根こそぎ奪った。党夜は苦悶の表情でそのまま倒れた。


「なんで……」


 普段、頭が切れる涼子にも理解が追いついていない。合図なしでも完璧な息のあった連携だった。“雷勁”も決まったはずなのに。


「随分痺れる一撃だった」


 見上げると表情を強張らせた未桜がいた。


「なんで?」

「なんで私が立っていられるかの疑問か?簡単な話だ。涼子、お前よりも強い勁を打ち込んだからさ」

「………」


 接触の瞬間、未桜もまた練った勁を流し込んでいた。それも涼子よりも威力のある発勁を。それによって未桜の発勁が涼子の発勁を打ち消し、尚且つ上回った分だけ涼子の身体へダメージとして還元された。


 もちろん、勁で勁は打ち消せる。だが、電撃はまだ別物。つまり、涼子の電撃を受けた上で、未桜は倒れることなく立ち続けていた。加えて、党夜への一撃も忘れることなく。


「思った以上の電撃だったもんだから、一瞬我を忘れてしまった。そのせいで手加減が出来なくてな……ご覧の有様さ」


 未桜の視線はうつ伏せに倒れる党夜へと移された。近くにいた党夜が真っ先に八つ当たりの餌食になったわけだ。


「私達の負けです」

「そうだな。戦略としてはまだまだだが、二人の連携は中々良かったと思うぞ。党夜が意識してたかどうかは別にして」

「ありがとうございます」


無事ではない者が若干一名いるが、それでも今日のところは解散ということで無事に訓練を終えた。


 未桜、飛鳥、聖の三名は作戦通り固まって移動することになるようで、作戦の合間に今回のような共闘訓練をしていくことが決まった。


 その後、涼子の意地と気合で党夜は無事治療された。めでたしめでたし。






〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜




 銀の弾丸の施設内にある一室にて。


「随分ミズナくんにキツく当たったそうじゃないか」

「彼女はスバルくんのことになると冷静さを欠きます。公私混同してもらうと困るでしょう」

「まあ、そうなんだけどさ。いやぁさ、知らないよ?俺みたいに嫌われても」

「お心遣いありがとうございます。ですが、そこまで頭のおかしなことは言っていないつもりなので……」

「ちょっと待て。いつから俺は頭のネジが外れたジャンキー野郎になったんだ」

「昔からですけど」

「なんてこったパンナコッタ……」

「そういう親父ギャグも嫌われますよ。只でさえ、うちは女性が多いんですから」

「いいじゃないか。一説によると、親父ギャグを咄嗟に言えるのは若い証拠らしいからね。頭の回転に起因するとかしないとか」

「なんですか、その曖昧な説は。どこ調べですか、それ」

「もちろんソースは俺だけど?」

「はぁ……呆れてモノも言えないですね」

「手厳しいな、コマツナくんは。まあまあ、雑談はこれぐらいにしてそろそろ本題に入ろうか」

「珍しいですね、あなたから言い出すのは」

「一応、俺が呼び出した訳だし。それにたまにはボスっぽいことしたくなるじゃん?」

「知りません……で、本題は?」


 スイッチが入ったかのように、ここで一気に空気が変わった。


「そろそろ向こうに動きがある」

「それは本当なんですか?」

「ああ」

「出処は?」

「ソースは俺」

「なるほど。先日不在だったのもそのせいだったんですね」


 同じような流れで同じような返しをしたにも関わらず、受け取り方が一八〇度異なっていた。


「俺の想像よりかなり早い。想定よりも何段階も準備を早め早めにしてきたが、その想定を超えてきた」

「間に合いそうですか?」

「正直、かなり厳しい」

「そこまで……」

「しかも、やはりヤツが一口も二口も噛んでいた」

「見つかったんですね」

「ああ、今回で確証を得た。もう銀ちゃんたちには連絡済みだ。だからこそ、今後甘い考えで動けない」

「でもこれまでもその人が裏で手を引いてたんじゃ……」

「かもしれない。ツキヨミくんの件もヤツの手引きだろうさ。俺の想定外を引き出すのはヤツの専売特許だからな」

「えらく信頼してるのね、あの人のことを」

「残念ながら切っても切れない腐れ縁だからな」

「一癖も二癖もある人ばかり知り合いなんですね」

「うるさい」

「まあ誰が一番癖のある頭のイカれた人は言うまでもないですけど。チラッチラッ」

「チラッって口で言わないよね?って俺そんなに頭おかしくないのね?ね?………今度は露骨に目を逸らさないでよ…………………………………えっ!?ちょっと長くない?いつもより塩対応長くない?おーい、コマツナくん!コマツナくーん!!」


 いつの間にか空気は若干和やかな戻っていた。居心地が悪くなったのか、男は一度咳払いをした。


「ゴホンッ!それと、キュウリくんの件だが、やはり見つからなかったよ」

「………そうですか」

「やっと、返事してくれた………まあ、死んでいたら跡形もなく消し飛ばされているだろうからね」

「それ本気で言ってますか?」

「死んでいたらの話だ。生きていたとしても変わりはしない」

「帰って来れない理由がある?」

「捕虜になったいるか、それとも連絡が取りたくても取れない状況にあるのか。後者ならキュウリくんが能力を使えば、俺でも捜索不能だ。そういう意味ではまだ希望はある」

「似合わないですよ、感情論は」

「単なる論理に基づた思考だよ。身の危険を感じたキュウリくんが戦線離脱をするなら、複製(クローン)を使っているはずだ。なら、身動きが取れないのも説明がつく」

「そうだといいのですが……」

「確かに最悪の事態を想定して動くことは大事だが、それよりも仲間を信用して動く方がよっぽど有益で理に適っていると俺は思うが?」

「一番信頼されてない人に言われても説得力ありませんけど」

「い、一般論の話をしているんだっ!」

「はいはい。では、今後はどうしましょう?とりあえず姉川未桜、八頭葉聖、明日原飛鳥の三名に動いてもらうことにしましたが」

「それでいい。あとはDoFの周囲に気を配ってくれ」

「党夜くんの?」

「仕掛けてくるとすればそこの可能性が高い。キュウリくんのいない今、君に任せたい。気は進まないが、ミズナくん姉に頼ってもいい」

「解りました。玲奈とも相談してみます」

「よろしく頼むよ。後手後手に回るのは好きじゃないが、相手の出方を見ないと動きようがない。やはりキュウリくんの抜けた穴は大きいな、いやはや」

「彼に随分と頼ってましたからね」

「帰ってきたら少し労ってやるか」


 信じているから託せる。二人は九里山スバルの生存を信じている。これまで積み上げた信頼関係がここにはあった。どうしようもないくらい信じているのだ、九里山スバルという男を。


 あの血塗られた現場を見ていない二人だからこそ。


 

読んでいただきありがとうございます

誤字・脱字などがありましたら教えていただけたら幸いです


結局、今回は二話で終わりです

すいません

また四週後に投稿するのでお待ち頂ければと思います

恐らく次から本編といいますか、第四章のストーリーに入っていくと思われます(まだ、予定ですが)

よろしくお願いします


維神真姫


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