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第6話 救世主? 




ー4月15日 午後6時55分ー



 平塚家から徒歩15分の位置にあるここは、平塚ヶ丘中央公園。大きさにして東京ドーム五つ分の面積があり、緑が茂りジョギングコースにも採用されている。敷地内には湖畔、遊具広場、カフェもあり、なかなか充実した作りになっている。


 そして今、平塚ヶ丘中央公園の中でも、木で囲まれ人目につかずある程度ひらけた場所に党夜は立っている。


 (よし!ちゃんとつけてきてる)


 尾行者がきちんとついてきていることを確認した党夜は一息つくと、一気に吐き出す。


「いるんだろ?出てこいよ!」


 ガサガサガサ


 党夜の視線の先、林の中から一人の人物が姿を現す。


「ふーん。意外と好戦的?ふふふ」


「……えっ?OL?」


 党夜の目の前に現れたのは綺麗な黒髪の女性。もちろん、邪魔にならないように一つに纏めている。見た目の印象は、格好のままOL。年齢は玲奈に近いかもしれない。かなりスタイルもよくワイシャツのボタンも外して、大きな胸がみえかくれしている。


 (チッ……まさか女の人だとは思わなかった…思い込みは良くないって自覚してたつもりだったが、認識が甘すぎた)


「でさ、お姉さんをこんなところに誘き出して何するのかな?エッチなことでもしたいの?興奮しちゃう!」


「なわけあるか!学校からずっとつけてただろ!その理由を吐いてもらうぜ」


 的外れなことをいう女に動揺する党夜。しかし、それはほんの一瞬。相手の流れに呑み込まれないように強気で攻める。


「ふ〜ん。そこから気付いてたんだ。なのに知らんぷりしてたのね!その手のプレイがお好みかな?ふふふ」


 女の方は関心しているようだ。自分に尾行の才能はないことは自覚しているが、素人に見抜かれているとは思っていなかったらしい。


「じゃあ、なんでここを選んだのかな?私一人なら何とかなると思ったの?」


「ああ、でも戦闘をしたいってわけじゃねぇ。あんた能力者だろ?なら、一般人の俺が逆立ちしても勝てないことは分かってる」


「うんうん、でもそれ理由になってないよね?」


 少女は自分が能力者であることを軽く言い当てられるが、否定することなく話の続きを促す。


「だから戦闘じゃなくて話をしようってわけさ。ただ俺は尾行されてた理由が知りたいだけだからさ」


 黙々と自分がここに来た理由を話す党夜、そして意見を挿みながらも何をするわけでもなく聞き手になる女。

 

 この時点ですでに、少女の思惑通り動かされていることに党夜は気付いていない。


「う〜ん。君が理由を知りたいのは分かったけど、お姉さんが話さなかったら意味ないよね?」


「あんたの視線から悪意が感じられなかった。少なくともすぐに戦闘にはならないと判断したんだよ」


「へぇーなるほどなるほど!」


 女は党夜の持論に先程以上に関心した。素人だと思っていた監視対象が、予想以上に出来ることに。それでも、関心止まりだった。


「でもね、幾つか勘違いしてるようだから訂正してもいいかな?」


「……」


 沈黙を肯定と受け取った女は続ける。そして人差し指を立てる。


「まず一つ目、相手の目的の把握。私の仕事は監視だけ。本来なら呼ばれたからといって相手に姿を見せるようなことは絶対にしないわ」


 次に中指を立てる。


「二つ目は、君の能力者に対する認識。確かに私は好戦的な方じゃない。けど決めつけは良くないよね。お姉さんだってやる時はやるのよ?」


 続けて薬指を立てる。


「そして最後は、私に対するマネジメント。お姉さんね、君が思ってるより怖がりで臆病なの。君が家の方向から外れていくのを見て、すごく怖かったわ。だからね、助けを呼んだの」


 それを聞いて、党夜の全身から汗が噴き出す。


「それは110番って意味か?」


 そんな訳ない。ただの希望的観測だと理解しているのに確認せずにはいられなかった。

 案の定、そんな希望は打ち砕かれる。


「違う。もっと頼りになる人。私の仲間だよ!」


 ガサガサガサ ガサガサガサ


 女の言葉を合図に林から人影が現れる。


 (もう一人いやがったのか!気付かなかった……クソッ……詰んでたのは俺の方だったのか)


「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!救世主の登場だよ!」


 出てきたのは小さな少女だった。綺麗なツインテールで幼い顔立ち。第一印象は完全にサークルの後輩。しかもちょっと抜けてるドジっ娘感が滲みでてる。


「は?……ってあんた誰よ!ニシダはどこ?呼んだから近くにいたはずよ!」


 どうやら女の仲間はニシダというやつで、この少女ではないらしい。呼んだはずの仲間ではなく、知らない少女が出てきたことで混乱しているようだ。


「ニシダ?まさかあのゴリマッチョのお兄さん?なら向こうの方でおねんねしてるよ!」


 出てきた方を指差しながらあっけらかんに言う少女とその言葉を飲み込めない女。


「嘘よ!ニシダは能力者よ!あんたみたいなのに負けるはずないわ!」


「あのゴリ兄さん能力者だったの?確認する前に眠ってもらったから気付かなかった」


「……なっ……チッ」


 自分の仲間がまだ小さな少女にやられたことが信じられない。しかし、この場にニシダがおらず少女がいることが何よりも真実を物語っている。それを理解してしまった女は苛立ちを隠せず舌打ちをする。


「うんうん。で、そこの無駄に(・・・)巨乳のお姉さんはどうするの?やる?」


「チッ……今回は仕方ないわね。お姉さんが相手してあげるわよ貧乳ちゃん」


 ブチッン


(あっ!キレたなこれ……)


「ゴリ兄さんの時は手加減してやったけど……お前は許さねぇぞ牛乳(うしちち)がっ!」


(やっぱり女は怒らすと怖いな……紫もキレたらこんなんだったな)


 党夜は先程とは違う汗をかいた。


(あれ?てか俺完全にスルーだよね?放置プレイだよね?)


 ようやく自分が無視されていることに気付く党夜。だが、そんなことは次の光景を見てすぐに忘れてしまった。


 轟!


 少女は踏み込みと同時にその場から消え去る。気がつくと女の背後に。


「クソッ……」


 ドン!!!


 少女の左手から繰り出される手刀を女がなんとか見切り右手でガードする。


「へぇ〜ゴリ兄さんよりやるじゃん!でも、大したことないね!」


 言うやいなや桃香の右手が輝く。そして目に見えないスピードで撃ち出される。


 (あれが過負荷粒子(アニマ)なのか…)


「ぐっばっは」


 女は少女の右ストレートをまともに喰らい、木に叩きつけられる。衝撃で服はいたるところが破れ、あばら骨が何本も折れたようだ。口から血を吐き出す。


「ペッ……はぁはぁて…ちょっとナメてたわ。能力無しではやっぱりキツイわね。本気で行くわよまな板娘!」


 言いきると女の体が輝き出す。先程の少女の右手と同じかそれ以上の光を発する。


「私の能力はね…」


「電気・雷系統ですね。分かります分かります。エレメントの一つですからね。定番じゃないですか」


「なっ……なぜ……」


 敵である少女に自分の能力を言い当てられ狼狽える女。


「気になります?まあ、あとで教えてあげますよ!あんたが意識を失わなかったらね!」


 轟!!!


 さっきのとは比べものにならない程のスピードで少女が襲いかかる。今度は女も追いきれなかったようだ。背後を取り、正確に首元を狙う手刀を繰り出す。そっと首を撫でるような手刀は女の意識を完全狩りとる。そのまま女は地面に崩れ落ちた。


「終わった終わった。これって仕事の内に入るのかな?別途で報酬出ればいいんだけどなぁ…」


 桃香の思考にはすでに女の姿はない。この件で発生する報酬で頭が一杯なのだ。


「あんた何者だ!あんたも俺を狙っているのか?」


 党夜は焦っている。自分を尾行していたのは一人のはずだった。なのに実際はもう一人いたことを。加えて少女の強さを目の当たりにした。違う組織なのは明らかだ。確認せずにはいられない。


「あー完全に忘れてたよ。今は緊急事態だったよね。ってことは確か連れて帰るはず…行くよ!」


「は?」


「だから私と一緒に行くの!救世主の言うことが聞けないの?」


「自分で救世主とかヒーローとか名乗るやつにろくなのいねぇーよ!」


「はぁ……面倒だなぁ……仕方ないなぁ……」


 轟。


 党夜の横を風が切る。それと同時に背後からの首へ凄まじい衝撃が走る。党夜はそのまま地面に倒れ込む。


「ぐっ……い、今……何が?」


 起き上がろうとするが体に力が入らない。意識は朦朧している。すると上方から少女に声をかけられる。


「へぇ〜手加減したけどまだ意識あるんだ!及第点かな?」


 薄れゆく意識の中で、最後の力を振り絞り少女の話に耳を傾ける。


「じゃあ及第点ってことで助言してあげる。君の敗因は寄り道をしたこと。15分も家とは別方向に歩き続けたら、私だって不審に思うよ。しかも、長く歩けば歩くほど、相手に連絡を取る時間を与えてることになるからね。まとめると……」


「爪が甘かったね!」


 それを最後に党夜の意識は完全に落ちた。




読んでいただきありがとうございます

誤字・脱字などありましたら教えていただけたら幸いです


第7話は日曜18時に投稿予定です

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