第65話 危機感と寄り添って
「党夜、涼子、聖、飛鳥。少し付き合ってくれるか?」
会議が終了し、真っ先に桃香が部屋から出ていった。真冬に叱責された後からずっと顔を伏せていたので表情は読み取れないが、強く握られた拳を見れば、心情は自ずと解るものだ。
必死に自分を押さえ込もうとしているのだろう。一人になりたいのだと、皆悟った。だから誰も桃香を止めようとも、追うこともしない。
気遣いのつもりでも、余計なお世話やお節介は時に、相手の心を蝕む毒となる。その程度のことを解らないメンバーはここにいない。
状況を主観ではなく、客観的に。視野を広げてもらうためとはいえ、かなりキツめの言葉で責めた真冬の顔にも少しばかり自責の念が伺えた。
メンバーを大切に想う心は真冬にもある。でなければ、能力者を束ねる組織の№2など務まらないだろう。時には厳しく、時に優しく。飴と鞭の均衡性は重要なのだ。
そんな真冬は「あの人に報告してくるわぁ」と言って席を去った。あの人とは恐らく銀の弾丸の№1でボス、(自称)モロヘイヤのことだ。
そして、桃香と真冬が部屋を去った後に口を開いたのが未桜だった。
特に予定のない党夜も、他の三名も未桜の真剣な表情を見て、頷いた。未桜に連れられてきた場所はワンフロアぶち抜かれたトレーニングルーム。いつも党夜がしごかれているところである。
「姐さん、こんなとこで何するんっすか?もしかして俺達鍛え直しってことじゃ?」
「その通りだ、聖」
「げぇぇぇ……」
「八頭葉、文句を言う前に未桜先輩の話を聞け」
「厳しいっすね、明日原さんは。じゃあ説明してくださいよ、姐さん。党夜も七瀬さんも黙っちゃってますし」
「もちろんだ」
未桜は連れてきた面々に支線を巡らせた後に話し始めた。
「今回のことは重く受け止めるべきだと思う」
「スバルさんのことっすか?」
「ああ、スバルがやられるなんて思いもしなかった。正直奴は私よりも遥かに強い。戦闘面でも精神面でもだ。うちのトップは知っての通り腑抜け。真冬もワケあって動けない。実質私達の中で一番の実力者といっても過言ではなかったんだ」
党夜は驚きを隠せない。
「だからこそ、問題となっている東雲はかなりの危険人物と言える。私達が過去に相手してきた奴らとは別物、別次元都考えていい。というより、そのように考えていないと足をすくわれる。情けない話だがスバルが勝てなかった相手に私が勝てる勝算は薄いと言っていい」
「………」
あまり見たことのない未桜の弱気な姿にみ皆黙り込むしかなかった。
「だが、それは一対一での場合だ。これまでスバル一人が張っていたとなると、東雲は単独行動が多いと推察できる。スバルの隠密行動は一線を画してはいるが、多勢に無勢な状況に突っ込む馬鹿ではない」
「つまり未桜先輩、私達が力を合わせて東雲を倒すってことですか?」
「そうだ。真冬もその事を理解した上で、最低でも二人組で動くように言ったはずだ」
「でも七瀬さんは前線ではないっすよ」
「それはあくまでも今の段階では、の話だ。事態がどう転ぶかなんて誰にも解らん。もしかすると真冬が出る可能性も考慮に入れる必要があるかもしれない」
「真冬先輩も!?」
「それってマジの緊急事態っすよ……そこまでっすか……」
「私はそう考えている」
話が大きくなりすぎてついていけない党夜と涼子。やはり最近入ったばかりの二人では、情報量が少なすぎるのだ。
しかし、今窮地とまではいわないものの、追い込まれつつあるのだと二人は理解した。
「とにかく真冬に負担を掛けるわけにはいかない。その上で私達で早急にスバルを見つけ出す。本音で言えば、東雲と戦わずして終えたいんだがな」
「姐さんは東雲とやりあったことは?」
「名前は聞かされていたが、戦ったこともあ会ったこともない。真冬に見せてもらった資料にはぼやけた写真が数枚あっただけで、人相もイマイチだ。この中だと党夜と涼子は会ったのだろ?」
「涼子さんは気を失ってたので、会ったのは俺だけです。眼鏡をかけた痩せ型の男って感じでした」
「すみません、お役に立てなくて……」
この中で東雲に会ったことがあるのは党夜だけ。
「なら資料とも合致しているな。能力に関しては重力という話だ」
「よりにもよって概念系っすか」
「納得でしょう。スバル先輩が負けたかもしれない相手なんだから」
「そもそも概念系って何なんですか?」
元々能力者について詳しくない党夜。そんな党夜に解説したのは涼子だ。
「概念系というのは世界の理、つまり本来であれば人間が干渉することを許さない不変の事象に関する能力の総称です。それ故に、概念系の能力者は他の能力者より一線を画していると言われています」
「党夜が引き継いだDoFの力もまた概念系であり、同じく始まりの能力者である第一世代は皆、概念系だと言われている」
「羨ましい限りっすね。銀の弾丸メンバーの中で概念系は党夜と真冬さんぐらいじゃないっすか?」
「あのバカも概念系だ。宝の持ち腐れだがな」
「姐さんってボスに厳しいっすね……」
「はっくしょん!へっびしっ!ん?誰か俺の噂してる?そんなに俺のこと褒めるなよ」
誰もお前のことを褒めていない。この勘違い野郎の近くに真冬いればツッコんでくれただろう。
話は逸れたが、つまり銀の弾丸内には概念系は三人。そう考えればそこそこいるのではないかと思ってしまう。
「銀の弾丸が特殊であって、概念系がこんなに集まることは普通ではない。能力者になるだけでも特異なのに、概念系となればその中でも特異な存在だ。私達が普遍の法則上で能力を扱っている一方で、概念系の奴らは不変の法則をイジってくるんだ。それこそ次元が違う」
「でも俺はまだまだ姐さんには敵わないですよ」
「当たり前だ。甘ったれるなよ党夜。教えたはずだ。能力の良し悪しだけで雌雄は決しない。その場の状況や能力の相性も関わってくるし、それ以上に能力者本人の素養によることが多い。頭が切れる奴、身が軽い奴、冷酷な選択ができる奴など様々だ。だからこそ、常日頃から身体を鍛えているわけだからな」
「姐さんは鍛えすぎっす」
「八頭葉がサボり過ぎなんじゃないの?」
聖が茶々を入れ、飛鳥がツッコむ。何やらこれがいつもの流れであるようだ。実は聖と飛鳥は仲がいいのでは、と関係のないところが気になる党夜。
「とにかくだ。話は逸れたが、今回はメンバー総出で戦う必要があるし、連携が必須になってくる。そうなると、どうしても私が足を引っ張ることになるだろう」
「姐さんが!?」
「党夜と涼子は私の能力を知らなかったな。この際だ。私の能力は……」
仕方ないとばかりに未桜は自身の能力について語った。範囲に設定した空間の気温を下げる能力、“極寒世界”。その長所と短所を全て。
つまるところ、未桜の能力は仲間との連携ではどうしても使いにくい力になる。“極寒世界”は発動者の未桜を中心に同心円状に干渉範囲を設定する。
以前にも述べた通り、これにより未桜は自身が設定した範囲の中央に位置され、自身の能力影響下に晒されることになる。
未桜は自身の能力で冷気をある程度遮断できる上に、慣れもある。しかし、他のメンバーにはその両方がない。すると一緒に戦うメンバーに配慮した気温変化にせざるを得なくなり、そうすると相手への悪影響も少なくなる。
なら未桜と戦闘相手だけが収まるように範囲を設定すればいいのではないか、という結論になりそうだが、そう簡単なものでもない。
これがスポーツであれば全く問題がない。時間も場所も相手も何もかもが規定されているスポーツなら。
だが、能力者同士の戦闘はスポーツではない。謂わば戦争なのだ。規則もルールもない、無制限の殺し合い。
極端な話をしよう。能力戦とは、時間はどちらかが倒れるまで、場所は戦闘中なのでお構いなし、相手に関しても勝てるなら増援あり。これが能力者による戦いなのだ。
以上のことから必然的に未桜の力が共闘向け出ないことは明らかだ。
「だったら、姐さんが全力に近い力を発揮できるように俺達が協力すればいいじゃないですか!姐さんのように冷気を遮断する手段はないけど、慣れる方は何とかなりますよね?………あれ?」
なんだかさっきまでの張り詰めた空気とうってかわって、なんだか緩んだというか。涼子は微笑ましい視線を送ってくるし、聖は腹と口を押さえているし、飛鳥はため息をつき、未桜はやれやれと言わんばかり。
「党夜さん、未桜さんはそのつもりで私達を集めたんだと思います」
「いい案思いついたみたいなの超ダサかったっすよ、ふっふふふ……笑わせないでくださいっす……ひっひっひ。腹痛ぇ」
「はぁ……これがDoFの移し鏡なんて……」
「まあ、そう党夜をイジメてやるな」
涼子の未桜のフォローが傷口にしみた党夜であった。自分だけ理解が追いついてなく、分かったような顔で語っていたことに恥ずかしくなり、全身に熱が篭もる。
「馬鹿ですいませんっ!」
「いじけるなよ党夜。でもまあそういうことだ。皆時間があるな?」
「問題ないですよ」
「私も大丈夫です」
「オーケーっす」
「未桜先輩にお任せします」
「了解した……ならば早速始めるぞ。あまりこの姿は見せたくないんだが……」
皆の承諾を得た未桜は過負荷粒子を練り上げる。未桜の全身から発せられた光り輝く粒子が一瞬でこの空間を支配した。
(粒子の密度が濃いだけじゃなくて光度も高く鮮やかだ……)
過負荷粒子の濃度はこれまでの練度によることが多い。如何に自身を理解し、過負荷粒子に向き合ってきたか。身体から湧き出る粒子をどれだけコントロールできるか。無駄なく行えれば行えるほど濃密な粒子となる。
しかし、色合いや輝きはある程度素質によると言われている。練度にも多少左右されるが元から大きく変化することは稀である。
研究者の中には本人の心を映していると言う者もいる。だとすれば、そう簡単に変わらないし、変えられないのも納得できてしまう。
そうこうしている内に、集中していた未桜の準備が整った。そして発する。
「“極寒世界”」
未桜を中心にこの部屋全域だけを範囲にするように設定し、能力を発動した。気温は氷点下になるかならないか程度に抑える。
初めての試みである以上、始めから無茶は禁物だ。加えて、夏真っ盛りの今、外気温は三〇度になる日もしばしば。急激な温度変化は身体に悪い。だからこそ、この能力に対する慣れが求められるのだが。
変化はすぐにやってきた。肌を撫でる空気がひんやりとしてきた。吐く息が白く濁る。指先など身体の末端の方から冷えてきたように感じる。
未桜が設定した温度ではおおよそこの辺りが身体に生じる変化だろう。温暖湿潤地域での冬と差し障りない程度だ。
それでも気温のと時間の変化でいえば急激だ。いくら冬の気候である程度は慣れているからといって、身体がすぐについてくるとは限らない。そこが“極寒世界”の強みでもある。
「ふぅぅぅぅ〜」
未桜が肺の空気を入れ替えるかのように、深くゆっくりと息を吐く。その息もまた白い。未桜の全身には薄っすらと白い結晶の膜が生まれていた。そのせいで綺麗な黒髪も僅かに白く見える。
雪女と称された風縫抗争での外見ほどではないが、薄膜が光を反射して輝いているところを見ると雪姫辺りが妥当か。
(綺麗だ……)
党夜の感想だ。元々容姿に恵まれており、整った顔立ちにナイスバティーな姉川未桜である。敵としての立ちはだかりさえしなければ、一目見ただけで恐怖の対象にはなり得ない。
まだ変化を終えてはいない。氷点下を切っていないことを未桜はこれまで築き上げてきた経験と体感から感じ取っていた。ならばこの辺りから始めようと決める。
「準備運動も兼ねて、そうだな……お前達全員でかかってこい。もちろん手を抜くなよ?私を倒すつもりでこい!さぁ!」
未桜は重心を下ろし、戦闘体勢をとると同時に過負荷粒子を再度練り上げる。能力を使う為ではなく、単純な肉体強化の為に。過負荷粒子が発散、収束されたことで、党夜達に冷えきった空気がぶつかる。
冷気と共に未桜の闘気も肌で感じられた。ヒヤリとした冷気とは異なり、ピリリと痺れるような未桜の闘気。それだけで未桜の本気画伺えた。
未桜を除いたこの場の面々誰もが思った。
((((やらないとやられるっ!))))
読んでいただきありがとうございます
誤字・脱字などがありましたら教えていただけたら幸いです
とりあえず書き溜めてたのは出しました
次の投稿予定は未定ですが1ヶ月後までには投稿したいです(早ければ三週間後にでも)
準備期間中に2話、出来れば3話書いて
投稿している間にもう1話を書く形になるかと思われます
楽しみにしていた方がいらっしゃったら本当に申し訳ありません
途中で投げ出すことはせず完結させますので最後まで党夜達を見守ってくだされば幸いです
維神真姫




